第86話 ワルモンVS3人の十司祭

「さて……。一瞬で殺してやるからよう……。覚悟しやがれ?」


 ワルモンはノウレッジ、ぽいずん、ヘクセライの3人を恫喝する……。


「ヘクセライ殿、ぽいずん殿……。防御魔法を常に張っておくのです……。奴が本当にこの教会を破壊するほどの攻撃力を持っているのならば……魔力の温存を考える状況ではありません……! 攻撃、防御……全ての能力を最大限に上げておくべきです!」


 ノウレッジが二人に指示を出す……。ふたりとも頷いて指示に従い、自身に対して能力向上の魔法をかけているようだ。


「ひゃははは! 防御魔法だぁ? そんなもん意味がねえってことを思い知らせてやるよ……!」


 ワルモンはオレが与えた左足のダメージを気にしている様子だ。ひょこひょこと歩く……。自分の足の状態を確認しているようだ。


「……クソムカつくが……、左足が思うように動かねえ……。だが、てめえら相手には良いハンデだろ? 感謝するんだな」


 ワルモンは高速移動の体勢に入る……。奴は片足だけで、ケンケンの要領で移動し始めた……。『ダイナミック・ビジョン』のスキルを使ったオレでようやく見える程度だ。片足だけなのにあの速度が出せるのか……!? デタラメな野郎だ……。


 ノウレッジたちは唖然としている。スキルを使用したオレの目でようやく見える程度のワルモンのスピードだ。おそらくノウレッジ達には突然、ワルモンが目の前から消えたように感じられているだろう……。動揺が伝わってくる……。


「ノウレッジ……! 奴は、お前らの目の前だ……!」


 オレはうつ伏せたまま、声を振り絞り、ノウレッジに伝える……が、もう遅い……。ワルモンはヘクセライの懐に現れ、打撃を与える体勢を取る。オレに何度も見せた、奴お得意のパターン攻撃だ……。


「なっ!?」


 突然現れたワルモンに3人は驚きの声を上げる……。


「まずはじいさん……てめえからだ!」


 ワルモンはヘクセライに向かって拳を叩きこもうとする……。ヘクセライは咄嗟に魔法で光のバリアーのような丸い防御壁を作りだす……が、ワルモンはその防御壁をものともせず、そのまま殴りつける……。


「言っただろうがよう……! 防御魔法なんざ意味ねえってなぁ!」


 ワルモンは防御魔法を打ち砕き、その勢いのまま、ヘクセライを殴り飛ばす……!


「ば、馬鹿な……。す、素手でワシの光の防護陣を……。うぐ、うぅうううう!?」

「ヘクセライ殿!?」


ノウレッジはヘクセライの身を案じ、大声を上げる……。しかし、返事をしたのはヘクセライではなく、ワルモンだった……。


「人の心配してる暇があんのか? 男前くんよう……」


 ワルモンは、ノウレッジに手刀を浴びせかけようとする……。


「なめるな……!」


 ノウレッジもヘクセライと同様の光の防護陣を作りだし、ワルモンの手刀を受けとめる……。


「やるじゃねえか……。男前くんよう……。万全でないとはいえ、このオレ様の……元魔王軍幹部候補の攻撃を受け止めるとはなぁ。デモンズちゃんとイービルちゃんが認めるだけのことはある……。生まれる時と場所を間違えなけりゃ、勇者にもなりえたんじゃねえか……? ……てめえは後回しだ……」


 ワルモンは、ノウレッジの防護陣から手を離すと、狙いを変える……。怯えて動けなくなってしまったぽいずんに……。


「先に穣ちゃん、てめえを殺させてもらう……」

「あ、ああ、ああ……」


 ぽいずんは腰が抜けてしまったのだろう……。全く動く様子が無い。ワルモンは再び手刀を作り、振り上げる……。


「死ねえええええええええ!」

「ぽいずん殿!」


 ノウレッジがワルモンの手刀とぽいずんの間に入り込む……。ぽいずんをかばおうとしたのだ……。突然の乱入にもワルモンは意に介さず、手刀を躊躇なく振り下ろす……。手刀はノウレッジの右腕に衝突し、そのまま切り落とす……。


「ぐああああああああああああ!?」


 ノウレッジは切断された右腕の肩口を左手で押さえながら、のたうちまわる……。


「クク、面倒そうだから、後回しにしてやるつもりだったんだがな……。まあ、手間がかかりそうな奴を先に片づけられて良かったぜ……」

「ノウ……レッジ……!」


 オレはノウレッジを呼ぶ……が、オレの声はワルモンの『ヒャハハハ』という不快な高笑いにかき消された……。

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