第84話 第三司祭の援護
「クソが! まだ悪あがきしやがるのか? 兄ちゃんよう!」
……どうやら、オレの必死のあがきはワルモンをいらつかせる程度にしかならないようだ……。ワルモンは地面に何かが落ちていることに気付き、拾い上げる……。
「この剣……。デモンズちゃんのか? まあいい……。この剣で兄ちゃんの首をスパッとちょん切ってやるぜ……」
ワルモンはゆっくりとした速度でオレがいる場所に歩みを進める。オレは必死に体を動かそうと試みたが……上手く体が動かせない……。どうやら、左腕だけでなく、両足にも深刻なダメージがあるようだ。
……万事休す、か……。ワルモンはオレを斬るのに十分な距離に近づき、剣を振り上げた……。
「死ねえええ!」
ワルモンの怒声が聞こえ、オレが思わず目を瞑った……その時、だった……。
「サンダーボルト!」
叫び声とともに、どこかで見たことのある閃光がワルモンに直撃する……。ワルモンが持っていたデモンズの剣は、真っ黒に炭化し、ボロボロと崩れ落ちた……。
「あぁ……? 誰だ、このオレ様に電撃魔法を放ったのは……!?」
「……命中率の低い『サンダーボルト』ですが……、金属には当たりやすい……。まあ、一歩間違えば、カズヤ殿の剣に当たる危険もあったわけですが……、ひとまず、賭けには勝ったようですね……」
若い男と思われる声がオレの耳に届く。オレはうつ伏せのまま、視線だけを声がする方に移す。そこには十司祭の第三司祭、ノウレッジの姿があった……。ノウレッジだけではない……。他の十司祭もいるようだ……。もっとも、立っているのは数人で、他の奴らは意識を失っているみたいだ。……そりゃ、そうか。オレがフライパンでぶん殴ったんだもんな……。
「こ、これは……一体どういうことですか!? なぜ、魔王軍の残党が……憎むべき敵が、こんなところにいるのですか……!?」
ノウレッジは眉間にしわを寄せ、眉を吊り上げていた……。
「おいおいおい、イケメンくんよう……。憎むべき敵ってのはオレ様のことかぁ? ワルモン教の主……神たるワルモン様に向かって、えらい口の利き方だなぁ!? さっきの電撃といい、これは神罰を与えなきゃならねえなぁ!」
ワルモンは額に血管を浮かばせ、ノウレッジを睨みつけていた……。ノウレッジもオレと同じく、ワルモンの異常なプレッシャーを感じたんだろう……。額に冷や汗をにじませている……。
「……貴様がワルモン教の神……だと?」
「この方こそ、我らワルモン教の主、ワルモン様だ……。不敬な態度は許さんぞ? ノウレッジ……」
デモンズはノウレッジに向かって不敵な笑みを浮かべる……。
「先ほどの爆発はこいつが起こしたのですか……!?」
「……そういえば……、さっきのワルモン様の爆発に巻き込まれたにも関わらず、よく生きていたものだな? さすがはワルモン教の未来を託すにふさわしい、と私が認めただけはある……。他の十司祭も助けたのか……? この機に無能な十司祭を一掃できれば、と思っていたのだが……」
今度はイービルがノウレッジに問いかける……。ノウレッジは緊張した顔を崩さずに答えた。
「イービル殿以外の十司祭を一部屋に集め、介抱していたのです……。十司祭だけではありません。教徒兵と自警団の気を失っている者も……。突然、爆風が我々を襲ったので、慌てましたよ……。咄嗟に防御魔法を張らなければ、今頃我々もワルモン教会と同じく、バラバラになっていたところだったでしょう……」
「ほう、お前の魔法だけで、ワルモン様の爆発攻撃から守ったのか?」
「……いえ、ぽいずん殿とヘクセライ殿の協力がなければ……危なかった……」
ノウレッジ以外に立っている十司祭は二人だけだった。女の子の毒使い、ぽいずんとエクスプロージョンとかいう爆発魔法の使い手、老人のヘクセライだ……。二人はノウレッジの後ろで杖と毒壺をそれぞれ構えていた……。
「なるほど、なるほど……。十司祭の中でも有能な者たちが、他の有象無象を救ったというわけか……。……ところで、なぜお前はワルモン様が魔王軍残党だとわかったのだ?」
「ヘクセライ殿に今しがた聞いたのです……」
イービルはヘクセライに目線を向ける……。
「……そこの魔族、ワシは見たことがあったのじゃ……。十年前、スルアムが魔王軍に侵攻してきた時、ワシは闘ったからのう……。今でも印象に残っておるぞ……。強力な魔族達の中でもひと際大きな力を持っていたそこのガーゴイルは我々をこれでもか、と蹂躙しておったわ……」
「へぇ……、オレ様のことを覚えてくれている奴がいたとはなぁ……。光栄だぜ? じいさんよう……」
「……魔王軍の残党とワルモン教がなぜ、手を組んでいるのです……!? 答えてください。デモンズ様……。……いや、答えろ!! デモンズ!!」
ノウレッジは持ち前の涼しげな男前の顔を怒りの感情で崩し、デモンズを睨みつけていた……。
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