第82話 ガーゴイルの能力

「く、くそがああああああああああ! よくも、オレの足をぉおおおおおおおおおおおお!」


 奴の怒りの咆哮がビリビリと司祭長室の空気を揺らす……。……相変わらずのとんでもないプレッシャーだ……。


「へ、へへ……。ざまあみやがれ……」


 オレはワルモンに貫かれた腹を抑えながら、息を整える……。奴の左大腿部を確認すると、かなり深手の傷があることが分かる。大きなダメージを負わせることに成功したようだ。かなり出血している。敵ながら痛々しい姿だ……。


「こ、殺す……!」


 ワルモンは物騒な言葉を放つが、相当にダメージが入っていて余裕がないのか、攻撃しようとしてこない。


「何が、種も仕掛けもない、だ……。お前の強さは仕掛けだらけじゃねえか……」

「ああ!? てめえ……、何が言いたいんだ! クソ野郎!」


 ……さっきまで、オレのことを『兄ちゃん』と言っていた余裕が奴にはもうない。……どうやら、奴の治癒力は大したことはなさそうだ。オレの体が回復するまで時間稼ぎしてやる……。


「お前と闘っているとき、ずっと不思議だったんだ……。オレはワルモン教徒兵のスパイルド兵長と闘った……。そいつもスピードを得意とする奴だった……。だが、ワルモン、お前とは大きく戦闘スタイルが違っていた……。スパイルドはオレに攻撃を仕掛けて来る時もスピードを緩めるなんてことはしなかった。まあ、普通に考えれば、スピードに乗ったまま攻撃する方が勢いも付いているし合理的だ……」


 オレはワルモンの目線を見て、オレの話に耳を傾けていることを確認し、話を続ける……。


「だが、ワルモン……お前は超スピードで移動した後、何故かオレの前に姿を現していた。スピードを緩めていたわけだよな? なんで、そんなことをする必要があるのか。……不思議なことはそれだけじゃねえ。お前は最初、オレの剣を受けてもかすり傷一つ付いてなかった……。防御態勢を取ってすらないのに……だ。だが、オレから不意討ちを受けた時は防御態勢を取ったにも関わらず、ダメージを受け出血していた……」


 ワルモンは鬼のような形相でオレを睨みつける。……オレの予想が真実に近いからだろうな……。こいつは人間を見下している。その人間ごときに自分の能力を見破られそうだとなれば、怒り心頭だろう。


「オレは一つの予想を立て、行動に移した……。お前が攻撃に転じる。その瞬間を狙って、カウンターを入れてみたってわけだ。……結果は、見ての通り。オレが思っていた以上のものを残してくれたぜ……」

 オレはつい、顔を緩ませてしまう。正直、ここまで上手くいくとは思わなかったからな……!


「お前は種も仕掛けもねえと言いながら、能力を行使していたんだ。その正体は……自分の筋力、防御力、敏捷性などのポイントを任意に振り分けることができる力……そうだろ? だから、オレを攻撃する瞬間、敏捷性を下げ、筋力に割く必要がある。そのために、わざわざ、超スピードを解除してから攻撃に移っていたんだ……。防御の件も同じこと……、オレの攻撃を受ける時には、筋力と敏捷性を下げ、防御に振らなければいけない。だから、不意討ちとカウンターを受けた時だけお前はダメージを受けてしまった。防御力を上げる時間が無いせいでな……!」

「…………」


 ワルモンは無言でオレを睨み続ける……。図星ってとこだろう。これで決着は付いたはずだ。


「もう、降参しろ。今、おしゃべりしている間にオレの体は回復した。だが、お前はどうだ? どうやら、お前の能力じゃ治癒力まで上げることは出来ないみたいだな。このままやり続ければ、治癒力の差でオレが勝つ……! スルアムの街から出て行くんだ!」

「……なに、調子こいてんだ? てめえ……」


 ワルモンが放つプレッシャーに反応し、オレの背筋が凍る……。……奴の表情が一変したからだ……。今までもオレを睨みつけていたが、……奴の纏う雰囲気が明らかにガラリと変化した……。


「てめえの言うとおりだ……。オレ様達ガーゴイルの固有能力は、筋力、防御力、敏捷性の一部を自由に変化することだ。もちろん制約はある……。ご解説通りだよ。クソ野郎。筋力を上げるならそれ相応に防御力と敏捷性を下げなきゃならねえ……。防御力、敏捷性も同様だ。なんとも不便な能力だ……」


 ワルモンは両手を少し上げ、お手上げだという風なポーズを取った。


「だが、オレ様の能力を見極めた……、だから何だってんだ? てめえ、忘れてねえだろうなぁ? オレ様が防御力を上げちまえば、てめえはオレに傷一つ付けられねえんだぜ? てめえは、治癒力がオレ様を上回ってるだなんだと言ってるが……、てめえもオレ様に勝つ方法なんざ持ってねえだろうがよう……! オレ様の百パーセントの勝利が九十九パーセントになった……。精々、その程度のもんだろうが……!」


 ワルモンはそう言いながら、まるで四股を踏むように腰を入れて構える……。


「殺す……殺す殺す殺す殺す殺す、殺すうぅううううううううううううう!」


 ワルモンが拳を握りしめ、気合を入れている……。大気が揺れ、ビリビリとした空気が伝わってくる。建物が……ワルモン教会も奴のエネルギーに耐えられずグラグラと揺れ始める……。


「イービル! 早く地下に逃げるのだ! 巻き添えを喰らうぞ!」

「はっ! 承知いたしました」


 デモンズがイービルと共にワルモンが出てきた地下の階段へと降りて行く……。……嫌な予感がする。オレもデモンズ達の後を追い、階段に向かおうとした……。


「どこにいくつもりだ? クソ野郎!」

「がっ!?」


 ワルモンに右頬をぶん殴られ、吹き飛ばされる……。


「逃げられると思ってんのか?」

「くっ……。ワルモン! お前、何をするつもりだ!?」

「てめえには世話になったからなあ! 礼に見せてやるよ。選ばれたガーゴイルにしか使えねえ特別な固有能力を……!」

「特別な固有能力……!?」

「ああ……! オレ様達ガーゴイルは筋力、防御力、敏捷性の一部を振り分けることができる。そして、オレ様を含む一部のガーゴイルは振り分けることができる能力をエネルギーに変換することができる……!」

「エネルギーに変換!?」

「大爆発を起こせるってことだ! 間抜け野郎!」


 ワルモンの体が白く発光し始める……。どうやら爆発の合図らしい……。まずい! どれくらいの爆発が起こるのか、皆目見当も付かないが……、この至近距離は絶対にまずい!オレは司祭長室の出口に向かって走り出した……。


「ヒャハハハハァ! 無駄だ無駄だぁ! 逃げ切れねえよ! ……てめえが悪いんだぜ? このワルモン様に傷を付け、虚仮にしやがったんだからよう!」


 ……オレの視界が閃光で真っ白に染まる。強力な熱が体を襲う……。爆音もあったような気がするが……すぐに聞こえなくなった……。……体が千切れそうになる……。そんな感覚だけが残った……。

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