第81話 一筋の光
「あぁ!? 兄ちゃんよう、てめえの腹……オレ様が確かに穴を開けてやったはずだ! なんで塞がってやがる!?」
「種も仕掛けもねえぜ?」
オレはワルモンからの質問を軽くあしらう。驚いているワルモンにイービルが報告する。
「ワルモン様、そのカズヤという男は防御力だけでなく治癒力も人外なのです……!」
「治癒力も高い……だと? だが、この回復力は異常すぎるだろうがよう……。兄ちゃん、てめえ何者だ?」
「今、お前が言ったとおりの人間だよ。異常者だ……。この世界に復讐しようなんて思っちまう異常者さ……」
「異常者か……。ククッ……。なるほどな。確かに異常者だ。防御力も治癒力も……おまけに頭の方もな。……オレ様に傷を付けた代償は高いぞ? もう楽には死なせねえ……!」
ワルモンは再び超高速でオレの懐に入り込む。……こいつ、戦法のパターンが少ない。……こいつくらいの身体能力があれば、戦法なんて持つ必要はねえってことか。圧倒的なパワーとスピードで敵を……オレを押しつぶせば良いだけの話だからな。
奴の拳が、防御のために構えたオレの剣の上から強引に叩きこまれる。……なんだ、この違和感は? スパイルドや名前は覚えてないが……十司祭の一人もスピード移動を得意としていた。しかし、ワルモンはそいつらと根本的に戦闘スタイルが違う……。わざわざオレの目の前に姿を露わにしてから攻撃に移る……。一体何の意味があるんだ? オレに屈辱を与えるため……か? オレはワルモンに吹き飛ばされながら奴の不可解な行動について思考する。
「ククク、治癒力が凄えってんなら、死ぬまで痛めつけてやるぜ? 兄ちゃんよう!」
くっそ! ぼこすか殴りやがって……! このままじゃ拉致があかねえ。考えろ、考えるんだ。奴にダメージを与える方法を……。……そう言えば……、さっき、腹部を貫通される攻撃を受けた後、オレが繰り出した不意討ちで、なぜ奴はダメージを受けたんだ? 最初、奴が余裕ぶってオレの攻撃をわざと受けた時はかすり傷ひとつできていなかったってのに……。あの時、奴は防御態勢すら取ってなかったはずだ。それなのに、なぜ……。
……もしかして、奴の強さにはなにか、からくりがあるのか……? ……試してみる価値はある……! オレは何度もワルモンの攻撃で吹き飛ばされながら、機会を待つ……。
オレが吹っ飛ばされてワルモンとの距離が大きく開いた。来る……! 超高速からの間合いをつめての拳……。奴の得意とするパターンが……!
「死ねえ!」
ワルモンがオレの前に姿を現し、拳を叩きこもうとしてくる……。オレは、防御態勢を取らずに魔法をかける……!
「バインド!」
相手の動きを縛り付ける魔法だ。だが、魔力の少ないオレでは奴の腕一本の動きを縛り付けるので精いっぱいだ……。
「しゃらくせえええええ! こんな低級魔法でオレ様を止められるとでも思ってんのかぁ!?」
……奴の攻撃を止めることができたのは、ほんのコンマ数秒だけだった。……だが、それで十分だ……! 奴にカウンターを喰らわせるには十分な時間がある……!
「うおぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
オレは右手に握りしめた剣を奴の左足に向けて振り下ろす……! ……同時にワルモンの拳がオレの腹部を貫く……! めちゃくちゃ痛え……。痛いなんて言葉じゃ足りないくらいだ。だが……その痛みの甲斐はありそうだ……!
「うがあああああああああああ!?」
司祭長室に響くその悲鳴はオレのものではない。ワルモンのものだ……! オレの捨て身の一撃が奴の左大腿部に届く……! この勝負、一筋の光が見えたかもしれない……!
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