第78話 傷付かないワルモン

 ……オレはふらつきながらも立ちあがり、ワルモンを睨みつける……!


「よくもやってくれやがったな。次はオレの番だ……!」

「ヒュウ! こんだけぶっ潰してもまだ立てるのか。いいねえ、兄ちゃん。やっぱ今までで最高の『贄』だぜ。普通の人間なら……、いや、上級の冒険者でもただじゃ済まねえ攻撃を与えたってのに、鼻血垂らすだけで済んでるなんてなぁ! 剣も手放してねえ……。大したもんだ! ヒャハハハ!」


 ワルモンは口笛を吹きながら、軽口を叩く……。こいつの軽口に付き合ってやるつもりはない……。


「おおおおおるああああああ!」


 オレはワルモンの首めがけて剣を振り下ろす……。


「な、なに!?」


 ワルモンはオレの剣に対して防御態勢を取らず、モロに攻撃を受けていた……。だが、奴は全く動じない。……むしろ、にやついた顔でオレを見ている……。


「おいおい、折角オレ様の首を取らせてやるチャンスを上げたってのに……無駄にしちまったなあ?」


 ……奴の首には何のダメージも入っていなかった。かすり傷ひとつ付いていない……。


「そんな馬鹿な……」

「なに驚いてんだ? ほらほら兄ちゃんよう……大サービスだ。もう一遍、おまえの攻撃を受けてやるよ。オレ様の体のどこでもいいぜ? 切るなり突くなり好きにしてみろよ」

「ふ、ふざけやがって……! 後悔すんなよ!?」


 オレはワルモンの腹を剣で一突きする。……しかし……。


「そ、そんな……」


 オレの攻撃はまたしても奴の体に傷一つ着けることができなかった……。突き刺すことの出来なかった衝撃が剣を媒介にしてオレの手を痺れさせる……。


「く、くそおおお! おらあああああああああ!」


 オレは攻撃の手を緩めることなく、何度もワルモンに切りかかる。奴は防御態勢を取るわけでもなく、オレの攻撃を受け続けるが、何のダメージも与えることができない……。しばらくして、疲労が溜まってしまったオレは、息切れを起こして攻撃を中断せざるを得なくなってしまった……。


「おいおいおい……。もう終わりか? 兄ちゃんよう。もうちょい根性あるかと思ったんだがなあ……。さて、今度はオレ様の番だな」


 また、ワルモンの姿がオレの視界から消える……。どこに行きやがった……。


「うがああああああああ!」


 オレの背中に激痛が走る……! どうやらワルモンに蹴り飛ばされたらしい……が、いつの間にオレの背後に回ったんだ……。まったく見えなかったぞ。オレは再び、室内の壁面に打ち付けられ、そのまま床に倒れ込んでしまう……。


「兄ちゃん、まだ生きてっかぁ? まだ死ぬんじゃねえぞ? 死ぬのはもっとオレに遊ばれてからにしてくれや」

「く、くそ……!」


 オレは剣を握りしめ、立ちあがる。


「て、てめえ。さっきからおかしな技使いやがって……!」

「技?」

「とぼけんじゃねえよ。さっきから、オレの視界から消えるような技使いやがって……」

「消える? ヒャハハハ! 兄ちゃんから見たらオレ様が消えてんのか?」

「何がおかしいんだ!」

「そりゃ笑っちまうだろ? オレ様は種も仕掛けも持ってないんだからよ!」

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