第77話 ボールや玩具じゃねえんだぞ……!

 ……剣を抜き、ワルモンに向けて構えたオレだが……、最初の一歩を踏み出せないでいた……。武術の達人でも何でもないオレだが……、こいつの……ワルモンの異常さはビリビリと肌に伝わって来た……。万に一つも勝ち目はない、そんなことを思うのに十分なプレッシャーを奴は放っている。


「おいおい、大見え切った割に攻撃してこねえじゃねえの? まさか、今になってビビッちまったのかぁ?」

「馬鹿言え! 間合いを計ってんだよ……!」


 オレは精いっぱいの強がりをワルモンに向けてぶつける……。……悔しいが、奴のいうとおりだ……。正直、オレはビビっていた……。


「間合い? 兄ちゃんにそんなもんを計る技量はなさそうだけどなあ……。見る限りだと兄ちゃん、てめえ戦闘は素人だろ? 強がるなよ。そうそう、デモンズちゃんよう……。手出しは無用だぜ? こいつはオレ一人で遊ぶからよ……!」


 ワルモンはデモンズに指示を出す……。デモンズも「承知いたしました……」と言葉を返した。オレからすれば舐められた行為だが、幸運だと思った。力が未知数のワルモンを相手にする上にデモンズにまで攻撃されたらはオレの技量じゃ対応できないからな……。


「さて、兄ちゃんはビビっちまったみてえだから……、オレ様から行かせてもらうぜ? 待つのは嫌いなんでなぁ!」

「え?」


 オレは呆気に取られて間抜けな声を出してしまった……。奴の姿がオレの視界から消えたのだ。気付いた時には……奴は既にオレの懐に潜り込んでいた……。


「オレ様の一撃に耐えられるかあ?」


 ワルモンはオレの腹に拳を叩きこんできやがった……! 腹から内臓の軋む音がする……。余りの痛みにオレは叫び声を上げながら吹き飛ばされる。


「うわあああああああ!?」


 オレは優に二十メートルは離れていたであろう室内の壁面に叩きつけられる……。オレの体がぶつけられた衝撃で壁面にひびが入る……。


「ガハッ……!」


 ……内臓へのダメージが酷いのだろうか……、オレの口から鮮血が飛び出す……。


「お次はこいつだ……!」

「なっ!?」


 まただ……。また、気付いた時には奴がオレの懐に入り込んでいやがる……。


「うらああああああああああ!」


 ワルモンは雄叫びを上げながらオレの顎を蹴りで垂直に打ち上げる。オレの頭が一瞬で室内の天井に埋まり込んでしまう。


「ひゃはははははは! 良いオブジェになったじゃねえか!」


 頭を天井に埋め込まれたせいで聞こえにくいが……、ワルモンの馬鹿にした声が聞こえる……。舐めやがって……! オレは頭を抜こうともがくが、まったく抜ける様子がない……。


「ひゃははははは! 困ってんなあ! 兄ちゃんよう! オレ様が手伝ってやるよ……!」


 右足首に掴まれた感覚を感じると同時に視界に光が戻る。確認すると、ワルモンがオレの足首を掴んで引っ張り出していた。……かなりの高さだ。まさか、こいつここまでジャンプしたってのか!?


「引っ張り出してやったってのに礼もなしかあ? そんな奴には仕置きをしねえとなあ……!」


 そう言うと、ワルモンはオレの右踝を握ったまま、重力に任せて落下を始める。床に激突する瞬間、奴はオレの体をまるで鞭を扱うように地面に叩きつける……。


「ガハッ!」


 オレは再び、吐血してしまう……。……クソが! オレの体はボールや玩具じゃねえんだぞ……! ボコスカぞんざいに扱いやがって……!

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