第71話 トップに必要なもの

「が、がはっ!」


 デモンズの口から血が滴り落ちている……。もうこれ以上の攻撃は無意味だ。


「く、くそが! 人外め! 悪運まで強いとは……。剣さえ奪われなければ、貴様など……。時間をかけることさえできれば貴様などぉ……!」


 ……確かにこいつの言うとおりだ。オレはこいつの神速の剣技の前に、防戦一方だった。勝てたのは運が良かったからだ。まさに、薄氷の勝利と言っていいだろう。実力では負けていた……。……だが、勝ちは勝ちだ……!


「運も実力の内っていうじゃねえか……。……さあ、大人しく、ワルモン教を解体して、この街から去ってもらおうか……! 殺されたくなかったらな……!」


 オレはデモンズを脅す。命まで取るつもりはない。


「この街から去れだと……くく、ククククク……」


 なんだこいつ? 明らかに優勢なのはオレの方だろ。その余裕は一体どこからきやがる?


「何を笑ってんだ!? 冗談なんかじゃねえぞ! 今すぐこの街から……」

「トップに必要なものは何だと思う? 人外よ……」


 オレの言葉をかき消すように、デモンズが質問をしてくる。


「なんだよ。いきなり……。トップに必要なものだと……?」

「そうだ。なんだと思う? ……道徳か? カリスマか? 頭脳か? お前は甘そうだからな。慈愛だのとのたまいそうだな……」

「質問してきたのに、オレに答えは言わせねえんだな……」

「これは失敬した……。私の中で答えが決まっているものでね……」

「……で、アンタは何が必要だと思うんだ?」

「く、くくく。至極単純なものだよ。……力だ……! トップには力が必要なのだ……。どんな綺麗事を抜かそうと、力がなければトップにはなれぬ……。悪だの、正義だの。道徳だの、愛だの。圧倒的な力の前には何の意味もないからな……。そういったくだらないものは勝ったものが……力のあるものだけが作ることを許されるのだ」

「……それだったら、今のオレとアンタならオレの方が力があるじゃねえか。オレの方が偉いわけだ。指示に従ってもらおうか……」

「く、くくく。馬鹿な奴だ。オレがこの状態で貴様に力こそが全てだと言っているのだぞ? 冥土の土産に教えてやろうこの教団の秘密を……。光栄に思え? この秘密を知っていたのは私とイービル殿だけ……。貴様は三人目というわけだ……。……貴様を冥土に送るのは……我らが主だ……! 『ムーブ』!」


 デモンズが魔法を唱えると、司祭長室にある巨大な悪魔像が動き出した……。現れたのは階段だ……。地下へと続く階段……。


「ワルモン様! ここに『贄』をご用意致しました! 存分にお召し上がりください!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る