第70話 神速の斬撃

「うおおおおおおおおおお!」


 オレは例のごとく、デモンズに向かって、フライパンを振りかぶって突進する……。


「ただ、突っ込んでくるだけか……。芸の無い男だ……。クリエイト・ウインド!」


 突風がオレに叩きつけられる……。


「バインド!」

「ほう……。自らの足と地面を縛り付けるか……。足には相当の痛みと衝撃があるはずなのに、よく耐えるものだな……だが、それでは動けまい……。『バブルウォーター』!」

「ごぼばば!?」


 オレの周囲を球状の水が覆う……。


「フフフ、苦しそうだな? イービル殿から聞いているぞ? 死にはしないが水責めは効果があるのだろう?」


 オレはその言葉を聞き、にやり、とデモンズに対して笑みを浮かべる……。


「ばんべんばっばば。ぼう、べんぶいぼぶびぶをぶぼぶびべんば。ぼうびばばいべ(残念だったな。もう、潜水スキルを取得してんだ。もう効かないぜ)」

「ふむ、なにを言っているかわからんが、もう何かしらの対策をしているということか? ならば次の手を打つまでだ……。クリエイト・アイス!」


 ……オレは覆われた水ごと凍らされる……。ま、全く動くことができない……。


「さて、この状態で砕き割ったらどうなるかな? クリエイト・ロック!」


 デモンズはオレが閉じ込められた氷塊に岩をぶつけて来る……。巨大な音を立てながら、氷塊と岩は互いに砕け散る……。


「……貴様には何のダメージも入らず、か。まったくもって、呆れた固さだ」

「ああ、オレ自身、嫌になってくるくらいの防御力だ。……もう諦めてワルモン教を解体したらどうだ?」

「フフフ、そんな言葉をよく吐けるものだ……。さて、では私も少し本気を出させてもらおうかな?」


 そう言うと、デモンズは司祭服を脱ぎ去る。司祭服の下から現れたのは騎士が身につけるアーマーだった……。デモンズはアーマーに取り付けられていた剣と楯を持ち、構える……。


「久方ぶりだな……。剣を使うのは……。元王国騎士団第三分団長の実力を見せてやろう……!」


 デモンズは高スピードでオレの懐に入って来た……。おっさんの動きじゃねえ!


「呆気に取られている暇があるのか?」


 デモンズはオレに素早い斬撃を繰り出す……。


「ぐっ!?」

「休む暇は与えんぞ? はぁっ!」


 デモンズは目にもとまらぬスピードで斬撃を繰り返す……。速いのではない。はやいのだ。単純なスピードなら、教徒兵兵長のスパイルドの方が速いだろう。だが、技を繰り出すスピードという点で、デモンズは迅いのだ。オレはフライパンで殴ろうと振りかぶるが、その振り上げた腕をデモンズははたき落とす……。当然のごとく、オレは防戦一方となってしまう……。


「どうだ? これが私を王国騎士団第三分団長に、そしてワルモン教司祭長にまで上り詰めさせた剣技だ! 剣を振らせる暇も与えない、神速の斬撃だ……!」


 神速……、その名前に偽りはないようだ。現にオレは少しずつだが、ダメージが蓄積していく……。


「ぐっ! バインド……!」


 オレはデモンズの足と地面をバインドで拘束し、距離を取る。


「ちっ! 無駄なことを……」


 デモンズはバインドを解除する。どうやら、解除魔法を習得しているようだ。くそ! 剣技も迅く、魔法も使えるなんて反則だろ……。どうすればいい、どうすれば……。……オレに一つのアイディアが思いつく……。まだ一度も使ったことのないスキルだ……。上手くいくかはわからない。だが、今のオレにできるのは可能性にすがることだけだ……。


「もう、バインドは効かんぞ? 万策尽きたか? ククク、貴様の体力が尽きるまで斬撃を加え続けてやる……!」


 再度、デモンズはオレとの距離を詰めて来る。猶予はない。このスキルに全てを賭ける……!


「スティール!!」

「な、なにぃ!?」

「へ、へへ……。当たりも当たり……。大当たりだあああああ!」


 オレの手にはデモンズの剣が収められていた……。


「スティールだと? か、確率で相手の持っているアイテムを奪うスキル……。この土壇場で私の剣を奪い取るだと……?」


 オレは奪い取った剣でデモンズを攻撃する!


「くう!?」


 デモンズは盾でオレの剣を防ぐ……。オレは盾が使えなくなったデモンズの隙を見逃さない。もう片方の手に持ったフライパンで奴の側頭部を打ち抜く!


「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

「ぎぃああああああああああああああ!?」


 手応えアリ! デモンズは衝撃で盾を手放し、ぶっ飛ぶ……! オレの勝ちだ……!

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