第69話 司祭長室と第八司祭
……オレは司祭長室の前に立つ……。無駄に豪華絢爛な装飾が扉に施されている。こんなもん作るために、一体どれだけの人々が血と汗と涙を無駄に流したんだろうな……。だが、それもこれで終わりだ……。教会に乗り込んだ時は、どうなるかわからなかったが……。なんとかワルモン教を潰すという目的は達成できそうだ……。
「デモンズ! 入らせてもらうぞ!」
オレは大声を出して、扉を勢いよく開け放つ。広い司祭長室の中央、趣味の悪い装飾が施された巨大な机と椅子が設置されている。その椅子に男は座っていた。……デモンズだ。
「ふむ。まさか、イービル殿までがやられてしまうとは……。想定外だったぞ、人外よ……」
「……後はあんただけだ……。覚悟しやがれ!」
「……威勢が良いのは結構だが……、君は十司祭を一人忘れておるのではないかね?」
そう言うと、デモンズはオレに目配せをする。デモンズの視線の先には……うずくまっている司祭が一人いた。土下座をしているようだ……。
「十司祭、第八司祭、シキィ・ヨーク殿。汚名返上のチャンスをやろう……。今すぐ、この人外を始末せよ……!」
「ひ、ひぃ。デモンズ司祭長様、お許しを……。イービル様を倒した人外に私がかなうはずが……」
『バンッ』という音が司祭長室の空気を引き締める……。デモンズが机を叩いたのだ……。その表情は鬼の形相だった。思わず、オレもたじろいでしまう……。
「シキィ・ヨーク……。貴様、私に恥をかかせるつもりか……? 今すぐ、私に殺されるのと、人外と闘うのと、どちらが良いのだ……?」
「も、申し訳ありません!」
シキィ・ヨークは謝罪の言葉を口にすると、すぐさまオレの所に寄ってきた……。
「オ、オレは、第八司祭、『回復』のシキィ・ヨーク……。今から貴様を葬ってくれる……」
シキィ・ヨークは明らかに怯えていた。オレに対してなのか、デモンズに対してなのか、あるいはその両方か……。誰に怯えているのかはわからないが、腰が完全に引けている……。少し、可哀想な気もしたが、オレもデモンズを倒す邪魔をされるわけにいかない。シキィ・ヨークをフライパンで殴る……。
「ぐ、うううううう」
意外にもシキィ・ヨークはオレの攻撃に耐えた。防御力は結構あるらしい。『回復』と名乗っていたし、もしかしたらタフなのかもしれない。
「『オール・ヒール』!」
シキィ・ヨークは呪文を唱える……。
「ははは、オレの『オール・ヒール』は体力を全回復させる魔法だ……! 牢の時には不意を突かれ、貴様の攻撃に意識を失ってしまったが、この構えている状況ならば、貴様の攻撃に意識を奪われることはない……!」
「そう……」
オレは再び、シキィ・ヨークの頭にフライパンを放つ。
「がああ!? な、なんのこれしき! 『オール・ヒール』!」
「……で、全回復するのは良いけど、その後はどうするんだ?」
「え?」
おい! この流れ、前もあったぞ! 最初の十司祭を倒した時もこんな感じだったぞ!
「……どうやら、回復はできるが、攻撃は部下任せで自分は何もできないみたいだな……。それなら、あんたの魔力が尽きて回復魔法が使えなくなるまで、ぶん殴るだけだ……!」
「ヒ、ヒ、ヒィイイイイイイイイイイイイ!」
シキィ・ヨークは恐怖に耐えられなかったのか、泡を吹いて気絶する。こんなメンタルで良く十司祭を務められたな……。防御力と回復魔法はそれなりに凄いとはいえ……。
「十司祭の……いや、ワルモン教の面汚しめ!」
デモンズは鬼の形相を崩さずに、意識の無いシキィ・ヨークを叱責する……。
「クリエイト・ウォーター!」
デモンズは水魔法を繰り出す……。オレに対してではなく、シキィ・ヨークに対して……。水を掛けられたシキィ・ヨークは目を覚まし、デモンズに謝罪をする。
「申し訳ありません! デモンズ様! ど、どうか、もう一度チャンスを……ご慈悲をお与えください……!」
「もう一度……だと? 貴様、甘いことを抜かしおって! そもそも、貴様の失態は今に始まったことではない……。色欲に溺れ、これまでも我々ワルモンに多大な不利益を与えてきたであろう? 貴様の罪はもはや、貴様の命でしか償えぬ……。貴様は『贄』に決まったのだ……」
「『に、贄』? 贄とはなんなのです? デモンズ司祭長様!」
デモンズは吊り上げた眉を下ろすことなく、シキィ・ヨークを睨みつけ続ける。
「もはや、貴様が知る必要はない! クリエイト・ファイア!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
デモンズが放った炎がシキィ・ヨークを襲う……。シキィ・ヨークは真っ黒焦げになってしまった……。間違いなく絶命している……。
「ふむ。見苦しいところをお見せしたかな? もう、ご存じだろうが、名乗らせて頂こう。私はワルモン教司祭長、デモンズ……。まったく、よくもくだらないことをしでかしてくれたな? カズヤ殿……。十司祭の編成を考え直さなければいけないではないか……」
「……その必要はねえよ……。ここでアンタを倒してワルモン教は終わりだ……!」
「世迷言を……!」
オレはデモンズと向き合い、睨みつける……! 最後の勝負だ……! この戦いに勝利し、オレはワルモン教をぶっ潰す!
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