第67話 VSイービルその4

「……あれ?」


 オレは独り言を呟く……。たしか、イービルに精神魔法を掛けられて、それで……。


「ククク、聞こえるか? 化物よ……」

「その声はイービルか!? どこにいやがる!? 出てきやがれ!」


 オレはイービルを探して周囲を見渡してみる……が、どこもかしこもまっ白だ……。一体ここはどこなんだ?


「ククク、出て行ってやりたいのは山々なのだがな……。残念ながらそれは不可能なのだ……。今オレは貴様の頭の中に直接喋っているだけだからな……」

「頭の中に直接……だと? どういうことだ?」

「言葉通りの意味だ……。貴様には私の最大の精神魔法をかけさせてもらっている……。今の貴様は意識がはっきりした状態で夢を見ているというわけだ」


 夢の中だと? 確かにこの不可思議な世界も夢だと言われれば納得できる……か?


「オレに夢なんか見せてどうするってんだ?」

「貴様に良い夢を見せてやろうというわけだ……。最高の悪夢をな……!」


 チッ! 悪趣味な野郎だ……。悪夢を見せるなんてな……。


「もちろん、ただの悪夢ではないぞ? 貴様のトラウマを想起させ、見せ続けてやろう、というわけだ……。貴様自身が忘れてしまったようなトラウマも含め、全てな! 残念なのは貴様がどんなトラウマを見るのか……私にはわからないことだな。ククク、私にとっては一瞬の出来事だが……、貴様にとっては永遠とも言える長さの精神的『拷問』だ……。喰らうが良い……。私の最大精神魔法、『マインド・デストラクション』を!」

「うっ! が、あぁ!?」


 激しい頭痛がオレに与えられる。頭の中からトンカチで殴られているみたいだ……。……オレの頭の中に記憶が流れ込んでくる……。父親の蒸発、母親の死、伯母の嫌味、中学のいじめ、借金の取り立て、秋葉原で人を殺そうとしたこと、イービルの拷問……、小さなトラウマから大きなトラウマまで……、今までの人生で経験したあらゆるトラウマが一気に頭の中を駆け巡っていく……!


「う、うううう、ううううううううう……!」


 頭を抱えるが、頭痛も、トラウマの洪水も治まらない……。


「クククククク……! 貴様の精神が死ぬまで、トラウマを流しこんでやる……」


 イービルの声が聞こえる……。だが、それもトラウマにかき消される……。


「いつまで、正気を保っていられるかな……?」


 その言葉を最後にイービルの声は消えた……。オレは延々と思い出したくない映像を頭の中で再生させられたのだ……。そう、永遠に感じられるような長時間の間、何回も……何百回も……。

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