第64話 VSイービルその1

 オレは次の部屋の扉に手を掛ける。今までの扉と違う……。形や大きさもそうだが……、何より感じるプレッシャーが段違いだ……。それでもオレは退くわけにはいかなかった。意を決して、扉を大きく開け中に入る……。


「ほう、まさか、ここまで来るとは……。ノウレッジまでもがやられてしまうとは……、どうやら私は貴様の力を過小評価していたらしい……」


 その男は初めて会った時と変わらない邪悪な笑顔で顔を歪めていた……。拝みたくもない顔だが、この宗教を潰すためには避けては通れない男……。イービルがそこにはいた……。


「ノウレッジがやられた……だって? あんたの一つ前の司祭はザイアックだろ。間違えてるぜ?」

「フフフ……。そんなことは承知に決まっているだろう? ノウレッジを倒した相手ならば、ザイアックが敵うはずがないということだ……」


 なるほど、ザイアック自身が話していた噂のとおり、ザイアックよりもノウレッジの方が評価が高いらしい。ザイアックの方がこの悪徳宗教において、上に立てそうなもんなのに……、わからないもんだな……とオレが思っていると、イービルが口を開く。


「カズヤ……人外よ。貴様はこう思っているだろう。なぜ、アクシズ教の……アクアリウスの味方をしているノウレッジよりも、ワルモンに染まっているザイアックの方が評価が低いのか、とな……」

「なっ!?」


 こいつ、ノウレッジがアクエリを守ろうとしていることに気が付いていたのか!? ならば、なぜノウレッジを見逃しているんだ? そして、こいつが知っているということは……当然、トップのデモンズも知っているはずだ……。なのに、ザイアックの話した噂通りなら、ワルモン教はノウレッジを昇格させようとしている。何を考えてやがる……。


「クク……」


 イービルは邪悪な笑みをさらに歪める。まるでオレの思考はお見通しだ、と言わんばかりに……。


「貴様にとっては不思議だろうな……。ワルモンの敵になり得る人間を手元になぜ置いているのか疑問に思うだろう……。簡単なことだ。優秀な人間は光となりうるのだ……。ノウレッジはもちろん、第四司祭ぽいずん、第六司祭ヘクセライ……、奴らも才能にあふれた人間だ……。そんな奴らを野放しにしていたらどうなる? アクアリウスのような光に……いや、それ以上の光となり得る可能性がある……。ならば、そうなる前にワルモン教に引き込んでいた方が、眼の届く所に置いている方が都合が良いというわけだ……。光は強すぎてはいけないのだ……」


「……前から思ってたが……、お前ら一筋縄じゃいかねえ宗教だな……。全員悪ってんなら単純にぶっ飛ばすだけで済むってのによ……。……ノウレッジの昇格も考えているそうじゃねえか。それはなんでだよ……? なぜ、危険因子となりうるノウレッジをどんどんと上層部に組み込むんだ?」


「クク。現在進行形で単純にぶっ飛ばしているだけの貴様がそれを口にするか……。ザイアックは余計なことも口にしているようだな。仕方あるまい。答えてやろう。ノウレッジを昇格させる理由は単純だ。能力があるから、だ。奴がこのワルモン教に不満を持っているのは承知しているがな。役に立つ人間は上に上げる……。当然のことだろう?」


 こいつらは本当に狡猾だと、オレは感じていた。この街の住人たちを支配するために、あれやこれやと考えてやがる。利用できるものなら善意のある人間も……自分達の脅威となりうる人間も利用する……。戦隊物の悪党みたいに世界征服を企んで、人々を恐怖に陥れる、なんて単純な思考ではないから、胃がむかむかしてくる。


「ノウレッジのガキは、自分がトップとなり、ワルモンを内側から変えてやる、などと愚かなことを考えているようだが……、将来、私の右腕となってもらわないといけない人材だ。第二司祭になってもなお、ワルモンの思想に染まらない時は、『指導』せねばならんかもな……」

「そんなこと、させるわけにはいかねえな……」


 オレはフライパンを構え、戦闘態勢に入る……。


「ククク。最後に一応聞いておいてやろう。貴様、ワルモン十司祭に入るつもりはないか? 今回の件で、十司祭のポストに空きが出るのは間違いない……。貴様が望むなら、そのポストを貴様にくれてやるぞ? アクエリ達にも楽をさせてやれるのではないか?」

「……今更、そんな申出をオレが受けると思うか? オレの気持ちは決まってんだ。お前らワルモン教を潰す」

「それは残念だな」

「……あと、アンタ勘違いしてるみたいだが……。これはアクシズ教のためでも、アクエリのためでもねえ。ワルモンが気に入らないオレが、むしゃくしゃしてやった。ただのテロ行為だ……」

「クク……。詭弁を言いおって……。……名乗りが遅れたな……。私はワルモン十司祭、第一司祭、『指導』……もとい、『拷問』のイービル……! 精神魔法を得意とする者だ……! かかって来い! クソガキ!」


 オレ達は視線を会わせる……。それが闘いの合図だった。

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