第63話 VS十司祭その4
……ノウレッジにはまだ意識があった。
「……お前、手を抜いてただろ?」
「そんなことは……ありませんよ……」
「いいや、手を抜いてたよ。オレに戦い方をレクチャーしながら、なんて余裕をかましてたんだからな。……やっぱりわからねえ。なんでお前、ワルモン教なんかに入ってるんだ? それだけの力があれば、従う必要なんてねえだろ……」
「……勇気がなかったのですよ。一人で立ち向かう勇気が……。……だから、素直にあなたが羨ましい。たった一人で、ワルモン教に立ち向かう勇気を持つあなたが……」
「……オレのは勇気じゃねえよ……。ただのヤケクソだ……」
「……そうですか……」
ノウレッジは「フッ」と小さく笑う。男前は劣勢になっていても絵になりやがる。
「じゃあ、オレは先に行かせてもらうぜ」
「私に止めを刺さないのですか……?」
「……自警団にいたころ聞いたことあんだよ……。自警団には、アクエリ本人に自警団自らが手を出してはいけないって決まりがあった。破ると偉い司祭に厳しくお咎めを受けるって話だった。……今まで誰のことか分からなかったが、あんたのことなんだろ……?」
「…………」
語らず、か。肯定と捉えて良さそうだ。自警団にいたころにはなぜ、そんな意味のわからない決まりがあるのか理解できなかったが……、この男、ノウレッジができる目一杯のワルモン教への反抗だったのだろう。
「アンタは、アクエリの味方っぽいからな。アンタがいるなら、オレが失敗してもアクエリは大丈夫だろ? そんな奴まで殴るつもりはねえよ」
「本当に止めを刺さないつもりですか……。……気をつけなさい。第三司祭となった私でさえ、未だにこの教団の秘密を全て知っている訳ではない……。……まだ、デモンズ司祭長は何かを隠している……」
「……そうかい。それじゃあな」
何かを隠している……か。秘密だか何だか知らねえが、オレにできるのは力いっぱいフライパンで殴るだけだ。オレは足早にノウレッジの部屋を後にした。
――――第三司祭、ノウレッジ、戦闘意欲消失――――
「ククククク、ハハハハハ!」
次の部屋に入ると、これまた、悪代官のような顔をした司祭がオレを待っていた。男はなにが楽しいのかわからないが、笑っていた。
「そうか、そうか。ノウレッジのガキは失敗したのか。これは愉快だな」
「仲間がやられたってのに、随分嬉しそうじゃないか。何をそんなに喜んでんだ?」
「フン、奴はあの若さにして第三司祭になっていたからな。このオレを蹴落とし、第二司祭に昇格するという噂もあったのだ。だが、あのガキが敗れた今、オレの地位は安泰というわけだ」
……小さい奴だな……。こんな男よりノウレッジの方が一回りもふた回りも器はでかいだろう。
「オレは第二司祭、ザイアック! オレの重力増加魔法を受けるがいい! クリエイト・グラビティ!」
オレは周囲の石畳みの床ごと押しつぶされる……。確かに重い。……体が床に貼りついたように、全く体が動かせない。だが、それでもオレは口に出した。
「軽い」
「なんだと!? 負け惜しみを言いおって!」
一旦、オレの周囲に掛っていた重力魔法が解けるが、再度奴は掛け直す。
「やっぱり軽い」
「ふ、ふざけるな! 手も足も動かせていないではないか!」
そうだな。確かにこいつの言うとおり、重力魔法をかけられている間、オレは全く動けない。それでもこいつの攻撃は軽いんだよ……! どうやら奴の魔法は一定時間経過後に解除され、再発動には数秒のインターバルが必要なようだ。オレは解除と同時に奴に攻撃しようと詰め寄る。だが奴はそれを防ぐために距離を取って逃げる。そんなやり取りを繰り返す……。
「小癪な……! だが、距離を取っていれば、インターバルなど関係ない!」
ザイアックはオレがインターバルの数秒では追いつけないくらいに距離を取る。……だが、それでいい。何発でも魔法を使ってくれればいい……。
「クリエイト・グラビティ……! あれ?」
「どうやら、魔力切れみたいだな……」
「そ、そんな……。クソッ! き、貴様が普通の人間ならば、とっくに決着はついていたはずなのに……。人外め……!」
オレは歩いて、ザイアックに近づく。ザイアックは魔法を何度も唱えるが、魔力が切れていて発動することはない……。
「ひ、ひい。近づくな! 近づくんじゃない!」
「……やっぱり、あんたの魔法は軽かったよ……。攻撃力がってことじゃねえ。自分の地位のことしか考えてねえアンタの攻撃は、あるシスターのことを思って放つノウレッジの魔法より、軽いんだよ!」
オレはザイアックに向かってフライパンを振り下ろす。叫び声を残して、ザイアックは気絶した……。……次……!
――――第二司祭、ザイアック撃破――――
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