第61話 VS十司祭その2

「ヒヒヒ、ウチは第四司祭、毒霧のぽいずん! 喰らえ! ウチの毒霧を……、一吸いでもしたらあの世行きだよ!」


 司祭服のローブをかぶり、口に毒ガス用マスクを装着した少女が持っている壺から紫色の煙を噴出させる……!


「……お前らさあ……。情報共有とかしてんの?」


 オレは毒霧の中を構わず、突き進む……!


「な、なんで!? この猛毒が効かないの!?」

「イービルに聞かなかったか? オレには呪いさえも効かないんだぜ?」


 オレはぽいずんの胸倉を掴んで持ち上げる。その拍子にローブは取れ、マスクも外れた。しまった! マスクが外れたら、こいつ毒を吸って死んじゃうんじゃ……。


「ヒヒヒ、マスクを外しても無駄だよ! ウチは毒への耐性を持ってるからね……。このマスクはウチの醜悪な顔を隠すための……」

「……かわいい……」

「んな!?」


 なんだよ、こいつ。メッチャかわいいぞ? 目に隈は出来てるけど、顔の造形は凄くいい。……アクエリには及ばないがな!


「な、なな、な……。ウ、ウチのこと……、か、かわ、かわかわ……」


 どうしたんだ? 様子がおかしいぞ。顔を真っ赤にして……。もしかして、かわいいって言われ慣れてないのか?


「……自分の顔に自信がないようだが……、十分かわいいと思うぞ? 目に隈ができてるから、ちゃんと寝るんだぞ? あと、髪がぼさぼさだ。ちゃんと風呂に入ったら洗いなさい。そしたらもっとかわいくなると思うぞ」


 アクエリには及ばないだろうがな!

 ぽいずんは恥ずかしいのか手で顔を隠して頷く。オレは持ち上げていたぽいずんを地面に下ろす。ぽいずんはそのまま地面に座り込み、小さくうずくまった。


「オレは女の子を殴る趣味はないからな。アンタがオレの邪魔をせず、人殺しもしないってんなら手はださない。約束してくれるか?」


 ぽいずんは一言も発さず、何度も頷いていた。……小動物みたいだ……。なんでこいつは十司祭をやってるんだろう……? ……次!

――――第四司祭、ぽいずん、戦闘意欲消失――――



「ごきげんよう……。スズキ・カズヤ殿。私は第三司祭、智略のノウレッジと申します。ワルモン教司祭及び教徒兵の『戦術』を担当しています。以後……という言い方はおかしいですが、お見知りおきを……」


 ……この男、他の司祭とは少し毛色が異なっている……。他の男の司祭はおっさんばかりだったが、こいつは十台後半から二十代前半くらいといったところか……。そしてさわやか風味のイケメンだ。涼しい顔してやがる……。


「アクアリウス様と仲睦まじいとお聞きしております……。あなたには感謝しています。シキィ・ヨーク殿の魔の手からアクアリウス様を救っていただいたのですから……。いいえ、それだけではありません。普段からあの方をお守りしてくれていたことにも感謝せねばなりません」


 ノウレッジはオレに向かって頭を下げる。……なんのつもりだ……?


「気色悪いことをする司祭だな……。何を企んでいやがる?」

「いいえ、何も……。……あなたにだけ教えておきましょうか……。私はスルアムの血を引いているのです……。そう、本来ならば、アクシズ教教徒として闘わなければならない者なのです……。しかし、私はアクシズ教を裏切り、ワルモン教に入信した……」

「……アクエリがシキィ・ヨークに乱暴されかけた時、アンタ、近くにいたのか?」

「ええ、あなたと同じ『超潜伏』のスキルを使ってね……。もっとも、私が止めるまでもなく、あなたがアクアリウス様を救ってくれたわけですが……」

「……オレとアクエリが一緒に逃げ出すのを目撃してたってのに、見逃したのか?」

「……まあ、そういうことです」

「それが本当だとしたら、尚更わからねえな。なんでアンタ、ワルモン教司祭なんてやってんだ?」

「どこかで聞いたことのあるような、他愛もない理由ですよ。妹が病気だったのです……。医師に見て頂くにはお金が必要だった。そんな時、ワルモン教会から入信するよう打診があったのです……。……自分で言うのもなんですが、私はこの街で一番頭の良い子供だったのです。神童と呼ばれていました……。それ故、ワルモン教は私を勧誘したのでしょう……。残念ながら今、二十歳を手前にして『只の人』になってしまいましたが……」

「……アンタも不本意にワルモン教に入信したのか……。じゃあ、もうオレと戦う必要はないんじゃねえか? ……一緒にワルモン教を倒さないか?……」

「それはできません。私はワルモン教司祭ですから……。それに久しぶりにケンカをしたくなったのですよ。知っていますか? アクエリは子供の頃からかわいかった。昔は誰がアクエリをお嫁さんにするかで、同年代の男子はよくケンカしていたものです。……あなたがアクエリに相応しい人間か、知りたい……。さあ、戦いましょう! アクエリを懸けて……! ……もっとも、私にその資格はないかもしれませんが……」

「…………」


 オレは無言でフライパンを構えた……!

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