第54話 ……むしゃくしゃしてやった! ワルモン教徒ならだれでもよかった!

 オレは、再び、スルアム教会の門の前に到着し、準備を始める。この暗がりだ。超潜伏のスキルを用いていれば、門番の奴らも異常には気付かない。オレは馬車のおっさんから受け取った「例のもの」をセッティングしていく。セッティングが完了したオレは時期が来るまで待機した。……始めるのはアクエリが広場に到着してからだ。それが一番効率が良い。というかそうじゃないと逆効果だ。


「そろそろ、かな」


 アクエリたちと別れてから十五分ほど経っただろうか。アクエリが広場に到着するには十分な時間だ。オレは、『超潜伏』のスキルを解除して「例のもの」にマッチで火を点けた……! 「例のもの」から独特の爆発音とともに綺麗な火柱が上空へと舞い上がる。舞い上がった火柱の先端では再び爆発が起き、美しい炎の模様が描かれる。……そう、花火だ。オレは、町内会の花火大会で使われるような、あのデカイ花火を5発、門の前でぶっ放してやったのだ……。ていうか、音デカっ! 耳壊れるわ!


「な、なんだ? アクシズ教徒の奴らか!?」


 自警団の奴らが次々と門に集まってくる。……ワルモン教司祭の連中がアクシズ教徒の反乱に備え、普段よりも多く、というかほとんど全員の自警団を教会に集めていたのだ。そのことはアクエリを救出する時に、確認済みだ。正直言って、好都合だ……。

 

 集まってきた自警団の一人と目が合う……。オレが良く知る男、オレが所属していた自警団の班の「班長」だ。班長は目を丸くして口を開ける。


「て、てめえ! 新入りじゃねえか。こんな所で何してやがる!?」

「いえ、ちょっと野暮用が……」

「野暮用だと……? てめえ、もしかしてアクシズ教徒の反乱者か……?」

「違いますよ……。班長も知ってるでしょ? オレはまだ、この街に来て日が浅い……。それにオレは元自警団で、現教徒兵ですよ? ワルモン教徒に決まってるじゃないか!」

「まともに仕事をしようともしなかったてめえが、ワルモン教徒だと? 白々しいことを抜けぬけと……。まあいい。アクシズ教徒でも、ワルモン教徒でもねえてめえが、こんな騒ぎを起こして何のつもりだ? 正義の味方にでもなったつもりか? くだらねえ」


 ……正義の味方? オレが? そんなわけねえだろ。これからやるのはただの犯罪だ。狂った男が一人で起こす、ただのテロだ……。


 そう、これはオレが単独で起こす犯罪だ。それを印象付けるために、『超潜伏』を解除して、花火なんて目立つものを用意したんだ。アクシズ教徒でもワルモン教徒でもないオレが一人でスルアム教会に乗り込んだことをワルモン教の連中に見せつけるために……! そうすりゃ、たとえオレが失敗しても、アクシズ教徒達は白を切れるだろ?


「……正義の味方、なんて立派なもんにオレがなれるわけねえだろ……」


 班長の問いにオレはそう答えた。

 ……今からオレが倒そうとしている自警団、教徒兵、もしかしたらワルモン教幹部の連中の中にも……、オレみたいな奴がいるかもしれない。家族のためにお布施から逃れたいという一心で、不本意にワルモン教に加担している奴がいるかもしれない……。だが、オレは今からそんな区別などせずにぶっ飛ばすんだ……! そんなオレが正義の味方なわけねえだろ。


 ……だれかが言ってたな。正義の反対は別の正義だ、って……。てことは、ワルモン教とかいう悪に反対する奴ってのは、別の悪に違いない。敬虔なアクシズ教徒の連中を悪にするわけにはいかない。ましてやアクエリを悪にするわけにはいかない。悪に走るのは……、間違うのは……オレ一人で十分だ……!


 そんな悪で犯罪者のオレがこいつらに言う台詞はもう決まっている……。


「ワルモン教の連中よ! よーく聞きやがれ! オレは異常者なんだよ! このくだらない世界に復讐を……なんて思っちまうような異常者だ! 可哀想にな! てめえらはオレの八つ当たりの相手に選ばれちまったってわけだ!」


 自警団の連中がざわめく。連中の話す声が聞こえて来る。「頭のおかしな奴がいるぞ」ってな具合の悪口が聞こえて来る。そうだ、それでいい……。……最後に『決め台詞』だ……!


「……むしゃくしゃしてやった! ワルモン教徒ならだれでもよかった!」

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