第53話 ショーの準備

 オレ達は『超潜伏』のスキルを使ってスルアム教会を出た。途中、門番のような奴らもいたが、気づかれることなく、外に出ることができた。スルアム教会から少し離れ、市街地へとつながる道でオレ達は、ある男と接触した。オレが前もって依頼しておいたのだ。


「旦那ぁ。無事に帰ってこれやしたかい?」

「ああ、なんとかな……」


 そう、馬車のおっさんだ。アクエリがすぐに市街地へ移動できるよう手配しておいたのだ……。あと、ちょっとした仕事も併せて頼んだのだ。


「これはアクアリウス様……。お初にお目にかかりやす……。あっしもアクシズ教徒の端くれなんですが……、毎日広場でやってる儀式には足を運べなかったんです。お許しくだせえ。あっしにも妻子があるもんで……、自警団の連中に目を付けられるわけにはいかなかったんです……。それにしても驚きましたぜ。旦那がいつも話してる姉さんってのが、まさか、アクアリウス様だったとは……。旦那も隅に置けないお人ですぜ」

「おっさん、冗談はそこまでにして、アクエリを頼む!」


 アクエリを一刻も早く市街地に戻し、無事であることを街のアクシズ教徒に知らせなければならない……。さもなくば、アクシズ教徒の一部が反乱を起こして無駄な血が流れることになるからな……。


「あと、おっさん、例のものは持ってきてくれたか?」

「ええ、旦那に頼まれたとおり、持ってきやしたが……、こんなもん何に使うんですかい?」

「……演出さ……、オレの一世一代のショーのな……。……アクエリ、馬車に乗ってくれ!」

「は、はい!」


 オレはアクエリを馬車に乗せて、アクシズ教徒の一部が反乱を起こそうとしていることを伝えた。どうやら、アクエリも牢に入れられていた時に、その話を聞かされていたようで、説明に時間はかからなかった……。


「アクエリは街に入ったら、なるべく派手な行動を取るんだ……。……いつもの儀式でいい……。アクアリウスが無事に教会から戻って来た。その事実だけで反乱は一旦収まる……と思う。だから、移動中も馬車から顔を出しておいてくれ。おっさんも、なるべく大通りを走らせて帰ってくれ! 目立つようにな! ……それじゃあ、馬車を出してくれ! 気を付けてな……!」


 オレがおっさんに出発するよう合図を送ると、アクエリが驚いた顔でオレに問いかけてきた。


「カ、カズヤさんはなんで馬車に乗らないんですか!?」

「……言ったろ? 今からオレはショーをやるんだ……。一世一代のショーを……な……!」


 オレはそう言って、アクエリに微笑みかける。


「だから、絶対に街の人を……、アクシズ教徒の人々をワルモン教総本山、スルアム教会に近づけさせないでくれ……。アクシズ教徒とワルモン教徒がぶつかったら……、ショーじゃなくて、復讐になっちまうからな……。心配すんな……。人の血は流さない。そのためのこれ、さ」

 

 オレは手に持ったフライパンをアクエリに見せる。


「おっさん! 出してくれ!」


 空気を読んで、馬車を出していなかったおっさんに、今度こそ出発するよう再び合図を送る。馬車はアクエリを乗せて街に向かって動き出した……。


「ひ、人の血は流さないって……。何をするつもりですか!? カズヤさん!」


 アクエリはオレに質問するが、答えるまでもない……。アクエリも大方予想はできているはずだ……。アクエリの呼びかけをオレはサムズアップで受け流した。アクエリはオレを心配してやめるように声をかけてくれていたが、その言葉も、オレは微笑みで受け流した……。アクエリはやめさせるのが無理だと思ったのだろう。最後は祈りのポーズをオレに向かって行っていた。……女神アクアへの祈り、か。残念ながら、ほぼほぼ効果はないだろうな、その祈り……。あのクソ女神がオレに加護を与えてくれるとは到底思えない……。なんてことを考えながら、オレはスルアム教会へと足を向けたのだった。


「……さて、準備するか……!」

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