第51話 強い心

「カズヤさんにはわからないんです……! お父さんとお母さんを殺された私の気持ちなんて……! こいつらがお父さんとお母さんを殺したから……私は不幸に……、いや、私だけじゃない! 街の皆が苦しい思いをしたんです……! 私はぜったい許さない! こいつらにも私達と同じ苦しみを与えてやるんだ……!」

「アクエリ!!」


 オレは……、アクエリを両手でギュッと抱きしめた……。オレの思いをアクエリに知って欲しかったんだ……。


「え……?」


 アクエリは呆気にとられて声を出す……。手からは力が抜け、ナイフを地面に落した……。


「……頼む……。アクエリ。アンタは憎しみに心を奪われないでくれ……。復讐をするな、なんて言うのは勝手なことだってわかってる……。でも、アンタには、みんなの光であって欲しいんだ……。いつも、どんな逆境に立たされても、人々の希望として輝く、アクシズ教のシスターという光でいて欲しいんだ……」

「うっ、うっ、うう……、ううううう……」


 アクエリはオレの胸の中で嗚咽を漏らす……。


「カズヤさん……、私、もう無理だよ……。あいつらのことが憎くて、憎くて仕方がないの……。あいつらへの復讐しか頭にないんだ……。もう、皆の光になるなんて無理……だよ……」


 アクエリは涙を流しながら訴える。……でも、オレは知ってる。この強い娘が……アクエリが復讐心なんかに負けるわけがない……。思い出すだけでいい。それだけで、アクエリはまた、前を見てくれるはずだ……。


「大丈夫だ……! 復讐心なんて、もっと強い思いがあれば消えてくれるもんだからよ……」


 オレはアクエリの双肩に両手を起き、見つめる……。


「オレはさ……、アクエリなんかとは比べ物にならないくらい、小さいことでこの世界を恨んでたんだ……。なんで、自分だけ世界に見放されたかのようにひどい目に遭うんだ! ってな……。恥ずかしい話だよ……。アクエリみたいに両親を殺されたってわけでもないのに、オレはこの世界に復讐しようとしたんだ。……人を殺そうとしたんだ……」


 アクエリは驚いたような顔でオレを見つめる。そりゃ、そうだ。人殺しをしようとしてた、なんて言えば、大なり小なり驚くのは無理もない……。


「でもよ、『夢』を思い出したんだ……。だから、オレは踏みとどまれたんだ……」

「……夢……?……」

「ああ、笑っちまうような夢さ……。オレは子供の頃、英雄になりたかったんだ。おとぎ話に出て来るような英雄にさ。その子供の頃の夢を思い出したから、オレは復讐心から解き放たれることができたんだ……。……アクエリ、アンタの夢はなんだ? それは復讐心に負けるようなもんなのか……?」


 アクエリの目に光が戻ってきたように感じた……。オレの言葉は少しでも彼女の心に届いてくれたのだろうか……。アクエリは口を開く……。


「……違います! 私の夢は復讐心なんかに負けるものじゃない……! どんな障害があっても、このスルアムの街の人々に夢と希望を与えるアクシズ教のシスターになること……、それが私の夢です!」


 ……やっぱり、アクエリは強い心を持ってる……。オレはそう思った。先ほどまで憎しみに囚われていた眼に、もう曇りはなかった。希望と光を与えるアクシズ教シスターの強い眼差しがそこにはあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る