第49話 それがいるんだよなあ……
――――ワルモン教総本山 スルアム教会 留置場――――
私、アクアリウスは憔悴していた……。お父さんとお母さんが、ワルモン教によって殺されたことを知って……。女神アクアに仕えるものとして、憎しみに囚われててはいけない……。アクシズ教シスターとして、全てを許さなければならない……。……そんなアクシズ教の教義が頭をめぐるが……。ただただ、あいつらが憎かった。私から両親を奪ったワルモン教が……。
……一人の人間としての怒りとアクシズ教シスターとしての使命に板挟みにされて私の心はどうにかなりそうだった……。
「おやおや、顔色が悪いではありませんか? せっかくの美人が台無しですよ?」
不快な声が聞こえる。振り向くと、そこには司祭服を着た中年の男が兵を二人連れて牢の前に立っていた……。
「牢を開けよ」
司祭服を着た男は兵に命令をすると、牢の中に入って来た……。
「私の名前はシキィ・ヨーク……。ワルモン教司祭です。全く、イービル様も困ったお人だ。こんなかわいい子を虐めるとは……。悪趣味にも程がある……」
言葉は優しい。だけど、この男、薄気味悪い。生理的に受け付けない、というのはこのことをいうのだろうか……。
「さて、少々健康状態が悪いようだ。私の魔法をかけてあげよう。『プラス・ヒール』!」
傷付いていた私の体が、治っていく……。それだけではない。体から活力が湧いてくるような感覚が伝わってくる……。
「どうだね、わたしの『プラス・ヒール』は……?『ヒール』の上位魔法だ。傷の回復だけではなく、対象者の健康状態も本来あるべきものにする回復魔法だ。君はどうやら、あまり良い生活を送っていなかったようだね? 非常に高い効果があったことが見た目からもわかる……」
シキィ・ヨークは舐め回すように私の体に視線を向ける。やはり、この男、生理的に受け付けない……。
「フフフ、私の見込んだ通りだ。顔色が良くなり、肌のつやも良くなって……まるで天女のようだ……」
そう言うと、シキィ・ヨークは私に近づいてくる。私は気味が悪くて後ずさる……。
「ち、近づかないで!」
私の要望を無視してヨークは近寄ってくる。
「フフ、良いことをしてやったのだ。お前も私に良いことをしてくれないとな……」
ヨークはそう言うと、私の服に手をかけ、脱がそうとしてくる……。お父さんとお母さんを奪われて……、もう、これ以上こんな奴らに奪われたくない……。
「いやああああ! だれか……、だれか助けて……」
「フフフ、助けを呼んだところで誰も来るやつなど……」
「それがいるんだよなあ……」
「な!? 誰だ!? どこにいる!?」
「この、クソエロ坊主どもが……! 覚悟しろよ?」
それは確かに私が聞いたことのある声だった。私もヨークたちも声の主を探すが全く見当たらない……。
「うりゃ!」
掛け声とともに金属同士がぶつかったような鈍い音がする……。兵の一人が倒れる……。金属製の甲がへこんでいるようだ。声の主が攻撃したようだが、依然として姿は見当たらない……。ヨークたちも動揺している。
「もう一丁!」
再び、鈍い音が鳴り、もう一人の兵も倒れて気を失う……。
「ば、ばかな!? 私は高レベルの感知スキルを持っているのだぞ。な、なのに何故、私の眼に映らぬ!?」
「そりゃ、単純な話だ。オレの潜伏スキルの方が、さらに高レベルだからさ」
突然、男が姿を現す。緑の服をベースにした防具を身に付けた人。私がいつも目にする見慣れた服装をした人、カズヤさんだった。ヨークは突然現れたカズヤさんに対して恐怖の表情を浮かべていた……。
「お前ら。アクエリに手を出してなくて良かったな? もし手を出してたら……、こんな程度じゃ済まなかったところだ!!」
カズヤさんは手に持ったフライパンをヨークの頭に振り下ろす。ヨークは「あぎゃ!?」という悲鳴を残して気絶する……。
「大丈夫か!? アクエリ! ……さん!」
私は茫然としながら、カズヤさんの顔を見て頷いた……。
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