第48話 殺してやる!
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――――ワルモン教総本山 スルアム教会 留置場――――
「さて、ここで大人しくしていてもらおうか?」
アクアリウスは牢の中に閉じ込められた。牢の中はそれほど狭くはない。大人2~3人が入っても十分なスペースがある。壁の上部に穴が開けられ、柵が付けられている。簡単な明かり窓だ。牢としてはグレードの高い部屋になっている。ただ、それでも押し込められるというのは気分のいいものではない。アクアリウスはイービルに反抗する。
「私を捕えてどうするつもりなの?」
「心配するな。貴様になにかするつもりはない……」
「だったらなんで、こんなこと……」
「無垢で純粋なアクシズ教シスターにお教えしよう……。今、一部のアクシズ教徒が徒党を組んで我らワルモン教に反旗を翻そうとしていることをご存じかね?」
「え?」
「やはり、ご存知ではないようだな……。貴様はそいつらをおびき出すための餌というわけだ。わざわざ貴様を連れて街の大通りを通ったのは『ワルモン教がアクアリウスを捕え、スルアム教会に連れて行った』という情報をそいつらに与えるためだ。おそらく、今頃奴らは血相を変えて貴様を連れ戻そうと準備しているだろうな。我らの罠とも知らず……」
イービルは瞼を瞑り、口角を吊り上げる……。
「我々は焦って戦力・戦略が整っていない状態で攻めてきたアクシズ教徒の反乱者たちをなぶり殺しにする、と言うわけだ。精々そこで奴らの悲鳴が聞こえて来るのを待っておくといい」
「そ、そんな……」
アクアリウスは絶望する……。自分のせいで多くのアクシズ教徒が傷付き死んでしまうという現実を突きつけられて……。
「や、やめてください……。アクシズ教の布教も毎日やってる儀式もやめます……。だから、みんなを傷つけるのは……やめて……!」
「フフフ、そういうわけにはいかんのだよ。君には布教も儀式もやめてもらっては困るのだよ……」
「え? な、なんで?」
「我々ワルモン教が、なぜ小娘一人の布教を見逃してやっていたと思っているのだ……? 全てはお前を利用するためだ……。貴様にはこれからもアクシズ教徒の光として働いてもらわねばならんのだよ。偽りの光としてな。偽りの光に群がる愚かな民衆が偽物の希望のために生きて働き、富を築くために……。我々が搾取する富を築いてもらうためにな……」
「な、なにを言っているんです? な、なにを言ってるのかさっぱりわからない……」
アクエリは理解が追い付いていない様子で震え声を上げる。……本当は理解できている、が脳がそれを拒んでいる……。
「フン。貴様もカズヤとかいう男も、……この街の民衆も純粋だな……。いや、愚鈍というべきか……。まあ、そのおかげで我々は簡単に支配することができているわけだから、感謝すべきかな……?」
イービルはアクアリウスの様子を見る。精神的に弱ってきたアクアリウスを確認し、とどめを刺そうと試みる。強すぎるアクシズ教の光を弱めるための言葉をアクアリウスに刺そうと……。
「フフフ、貴様には感謝しているのだよ。貴様の父、スリウスとその妻、アリアを事故死させてしまった時はどうなることかと思っていたが……、こうして貴様が見事に両親の代役を果たせているから、我々も安心して民から搾取できるのだからな……」
「事故死……させてしまった……? ど、どういうことよ!? させてしまったってどういうことよ!? お父さんとお母さんは落石の事故で死んだんじゃ……違うの……?」
「いいや、違わないな。事故だった。貴様の両親は我らワルモン教の悪政を国に訴えようと、馬車で都に向かおうとしていた。当然、我々としてはそんなことをされては困るのでね……。警告の意味で落石を故意に起こしたのだよ……。計算では、馬車の前を通すだけだったのだが……、まさか直撃してしまうとはなあ……。本当にあの時は焦ったものだ。指導者を失ったアクシズ教徒がどう動くか予想ができなかったからな……。ククク、本当に残念な事故だったよ……」
「じ、事故? ふ、ふざけないで! こ、この人殺し! お父さんとお母さんを返して!」
アクアリウスはイービルを睨みつける。目に涙を浮かべながら……。イービルは邪悪に微笑む……。イービルはアクアリウスの純粋な心が憎しみに支配されていく様子を見て、愉悦を感じているのだ。それは悪趣味という言葉では収まらない、イービルの遊戯であった……。
「お前ら、絶対、殺してやる! 殺してやる、殺してやる、殺してやる!」
アクアリウスは感情に任せ、憎しみの言葉をイービルにぶつけるが、イービルには愉快で仕方がなかった。アクアリウスは「殺してやる」と何度も繰り返し叫ぶ……。叫び疲れたのだろう。アクアリウスは息切れを起こし俯く……。その様子を見て、イービルは口を開く。
「クク、『殺してやる』、か……。なんと醜い言葉をアクシズ教シスターが口にするのだ。あの世に逝かれた貴様の父親と母親が見たらどう思うだろうな……。さぞ、がっかりなさるに違いない……。アクシズ教の信者たちも失望するであろうな……」
アクアリウスはイービルの言葉で自分を取り戻し、気づく……。自分の心が憎しみに染まっていることに……
「殺……して……や……、あああ……、あああああああああああ!」
イービルは笑みを浮かべて牢を去る……。イービルは満足したのだ……。アクシズ教の光が鈍ったことを確信して……。
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