第46話 人質交換

「アクエリ! 子供たちと一緒にこの場から逃げるんだ! こいつらはお前を誘拐するつもりだ!」


 オレは大声で叫ぶ! こんな奴らにアクエリを連れて行かれてたまるか! オレは剣を抜き、イービルに向かって構える……。……他にも3名の教徒兵がイービルを守るようにして立っている……。奴らを倒せるとは限らない。アクエリたちを守りながらではなおさらだ……。……アクエリたちには逃げてもらうしかない……!


「わ、わかりました! で、でもまだマリが帰っていないんです!」

「なに!?」

「お探しのものはこれかな?」


 イービルは縄で拘束された少女を片手で持ち上げていた……。マリだった。


「うわあああん。お姉ちゃん、助けて……!」

「マリ!!」


 アクエリがマリに駆け寄るのをオレは背中越しに片手を広げて止める……。


「クク……。適当にその辺にいた子供を利用しようと捕まえたのだが……、大当たりだったようだな……」

「て、てめえら。子供を利用するなんてどこまで汚い奴らなんだ……。ワルモン教ってのは根っこから腐ってるみたいだな……」

「フン。デモンズ司祭長様に教徒兵に登用して頂きながら、平気で裏切り、アクシズ教に加担する者には言われたくないな……」

「マ、マリを開放してください! あなたたちの狙いは私なんでしょう? 私と引き換えです……」


 アクエリは俺の前に出て、イービルたちに近づく……。


「アクエリ! やめるんだ!」

「おっと、カズヤ殿は黙っていただきましょうか?」


 イービルが持っている杖をマリに向ける……。


「私がその気になれば……、この幼い娘など一瞬の内に黒焦げにできる……。そんなものは見たくないだろう……?」

「くっ……!」

「……おとなしくあなたたちの言うことを聞きます……。だから、マリを放して……」

「フフ……、さすがはアクシズ教のシスター、話が早い……。まずはお前がこちらに来るんだ……。娘の開放はその後、だ」

 

 アクエリはイービルの言葉に従い、奴らのもとに近づく。


「そこのお前、シスターに縄を!」

「はっ!」


 教徒兵の一人がイービルからの命令を受け、アクエリを拘束する。


「……約束は守ってください……。マリを放して……」

「うむ……。そうしてやろう……。私も鬼ではない……」


 そう言うと、イービルはマリの縄をほどき、開放する……。えらく正直だなと思ったが……、何か裏があるに違いない。こいつらはそういう奴らだ……。


「お、おねえちゃん……」

「マリ、大丈夫よ……。カズヤさんのところに行きなさい……」

「おねえちゃん……。ごめんなさい……」


 マリがオレのところに駆け寄ってくる。マリに後ろに下がるように指示し、オレは再び奴らと対峙する……。


「アクアリウスさえ手に入れば、もう貴様に用はない……と言いたいところなのだが……、デモンズ司祭長様はどうもお前のことが気に入ったようでな……。貴様は『贄』に選ばれたのだ。光栄に思うがいい」


 今、こいつなんて言った? 『にえ』? なんだそれは。


「何のことかわからない、といった表情だな……。まあ、仕方のないことだ。簡単に言えば、貴様に利用価値があるから生かしておいてやる、ということだ。だが、このまま追いかけてこられても鬱陶しいのでな……。ここで足止めはさせてもらおう……。スリープ!」


 イービルがオレに向かって睡眠の魔法をかけてくる。以前は俺に効いた魔法だ。だが、残念だったな……!


「ほう……。対精神系魔法無効化体質のスキル……か」


 そうだ。俺もバカじゃあない。例の拷問から学んで、オレはスキルを複数取得した。……デス・フェローの習得もまだ諦めていないから……、なんでもかんでもってわけにはいかないが……、比較的低ポイントで取得できるスキルはすべて習得した……。


「なるほど、デモンズ司祭長様のお見込みは正しかった、というわけか。だが、その程度のことで得意顔になられると、少々気に障るな……。これなら、どうだ……!」


 再び、イービルがオレに向かって魔法を放つ……。…………!? オレは以前スリープにかかったように眠くなっていってしまう……。な、なぜ、だ……?


「フン! 対精神系魔法無効化体質に対して私が対抗策を持ってないとでも思ったか? 対精神系魔法無効化体質無効化魔法だ……。残念だったな」


 そ、そんな魔法があるの……か……? 反則……だろ……。

 オレは瞼が重くなり、視界が暗くなっていくのを感じていた。眠気に耐えられなくなったオレは地面に倒れこむ……。


「イービル様、この者はどう処分すればよろしいのですか?」

「放っておいて構わん……。本来ならば『指導』をしてやらねばならんところだが……。こいつは『贄』に選ばれたからな。鮮度を保たねばならん。クク、『贄』の儀式が楽しみだ……。スルアム協会に戻るぞ。シスターをしっかり捕まえておけ」


 奴らの声と、アクエリがオレを心配する声がどんどん遠ざかっていく……。く……そ……。……俺の意識は途絶えてしまった……。

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