第45話 「……信じます……」

 オレは、歩いてアクエリたちの元に向かっていた……。大丈夫なはずだ。オレは『ゴマスリ』のスキルを使用して、ワルモン教の連中と会話している。デモンズにも不信感は与えなかったはずだ……。冷静にいつも通りの表情でいろ……。変に焦ったりした方が奴らに気づかれる。

 オレは以前のように肉と野菜を買った。あいつらには体力を付けてもらわないといけない。これから……、この街から一緒に逃げるのだから……。どんな旅路になるかわからない。食える時に食っておかなければならない……!


「ほんの一週間程度ぶりだってのに、随分久しぶりに来た気がするな……」


 オレはアクエリの家の前でそんな独り言を呟く……。家の前にはコウとカイがいた……。


「お、お前! なにしに来たんだ!? また、姉ちゃんを泣かしに来たのか!? そんなことしたら絶対許さないからな!」

「まったく、大の大人に対してそんなことを言えるんだから……。お前ら二人は良い男になるだろうよ。オレと違ってな……。姉ちゃんを泣かしに来たってのは……当たらずとも遠からずってところだな……」

「あたらずともとおからず? 難しいこと言ってぼくたちをだます気だな!」

「いや……、難しい言葉ではないと思うぞ……?」


 オレと、コウ、カイがそんな問答をしていると、声が聞こえたのだろう。アクエリが家から出てきた……。


「カ、カズヤさん……。どうしてここに……?」

「姉ちゃん、こいつ悪い奴なんだろ? 僕達が追い払うから!」

「大丈夫ですよ。この人は、きっと……良い人よ」

 アクエリの目からは緊張が窺えた……。無理もない……。今のオレは自警団、いや教徒兵か。……どっちでも大差ない。アクエリ達から見ればヤクザ者だからな……。


「アクエリ……さん、こんだけ、アンタを裏切っておいて、こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないけど、オレと一緒にこの街から逃げるんだ。アンタはワルモン教の連中に狙われている……」


 アクエリがこの街から去る……。それはアクシズ教徒の希望の光を奪うことと同義だ……。それでも、オレはアクエリを連れてこの街を去る決意をした。アクエリを人殺しの道具にだけはさせたくない……! 信じてもらえないだろうが……、拒否されるだろうが……、その時は無理やりにでも連れて行く。アクエリを泣かせることにはなるだろうけどな……。


「……信じます……」

「え……?」

「私は……あなたを信じます……」

「……信じてくれるのか、オレなんかを……?」

「はい。むしろ、私の方なのです……。責められるべきは……。私はあんなに私達のために動いてくれたカズヤさんのことを信じずに……裏切ってしまったのですから……。教えてください。なぜ私はワルモン教に狙われるのですか……?」

「それは……」

「おっと、カズヤ殿。逢引はそこまでにしてもらいましょうか?」


 嫌な声がオレとアクエリの会話を引き裂く。


「な、なんでアンタがこんなところに……?」

「これからしばらく我がワルモン教総本山スルアム教会にご滞在して頂くのですから、一言ご挨拶しておこうと思いましてね……。初めまして、アクシズ教シスター、アクアリウス様。私はワルモン教司祭、イービルという者です。以後、お見知りおきを……」


 邪悪な笑みと空気がオレとアクエリ達を包み込んだ……。

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