第44話 目の奥
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――――ワルモン教総本山 スルアム教会――――
「さて、どう思うかね? イービル殿。今の『人外』の言動について……」
「は、デモンズ司祭長様……。『人外』ですが……、このままの状態で教徒兵として置いておくのは、危険であると私は思います」
「貴殿もそう思うか……」
「はい、もうお気づきかとは思いますが、奴はアクシズ教シスターの名前を『アクエリ』と口走っておりました。あの娘のことをそう呼ぶのは古くからのアクシズ教信者たち……、アクアリウスと親交の深い者たちに限られます。あの『人外』、アクアリウスと浅くない繋がりを持っているかと思われます」
「そうだな。『人外』の並はずれた生命力と防御力……、こちらに付けることができれば大きな利益になるかと思ったが……、アクシズ教に……、ましてやアクアリウスに付くとなれば、もはや障害でしかあるまい……」
「で、あれば……。デモンズ司祭長様、今一度、私イービルに『指導』の機会を……。次こそは完璧なるワルモン教への服従を『人外』に教え込ませてみせます」
「ふふ……。イービル殿の『指導』への熱心さは素晴らしい。他の司祭にも見習ってほしいものだ……。だが、イービル殿、今回はもうその必要はない。いや、意味がないといった方が良いだろう。イービル殿、奴の目を見ていたかね?」
「は、恐れながら……、表情は観察しておりましたが、目までは……」
「イービル殿。私の次の司祭長にはそなたが最も適任であると私は考えている。これは司祭長である私から次期司祭長への助言だ。人間を観察する時は表情だけでなく、目からも感情を読み取れるようになった方が良い……。あの『人外』、私に対して表情は作ることができていた……。反抗する意思などないような表情をしていた……。しかし、目は違っていた……。奴の目の奥は『憎悪』と『責任感』に満ちていた。『正義感』と言ってもいいかもしれん。あの類の目をする人間は決して屈することはない。どんな『指導』も通用せぬ。……アクアリウスの父親以来だな……。あの目を見たのは……」
「ご助言感謝いたします……。……『指導』が通用せぬのであれば、私が『人外』を天に導きましょう。我らが主も御喜びになるはず……」
「フフフ……。本当にイービル殿は仕事熱心であるな……。しかし、その必要はない。奴には『贄』になってもらうつもりだ……」
イービルは驚いたように目を開く。
「私としたことが……、失念しておりました……。もう、そんな時期でございましたな……。確かにあの人外、『贄』に相応しいかと存じます……」
「さて、アクアリウスの誘拐の件であるが……、『人外』には期待できぬ。しかし、奴はアクアリウスの居場所を知っている可能性が高い……。イービル殿。頼めるかね?」
「もちろんにございます……。兵長はいるか!?」
「は! ここに!」
「今すぐ、『人外』の後を追跡させる兵を一人出せ! 『人外』はアクアリウスと接触する可能性が高い。居場所が分かり次第、数名の兵を向かわせる。私も行く。貴様らだけでは、『人外』とは闘えまい……」
「は、イービル様のお手を煩わせることを……我らの力の無さをお許しください。既に『人外』の後を潜伏スキルを持った隠密兵に追跡させております。また、3名の兵を司祭長室前に集めております……!」
「ほう……」
イービルは感心して口を開ける……。デモンズもにやり、と笑みを浮かべる……。
「さすがは兵長。仕事が早いな……」
「もったいないお言葉……。ありがたき幸せにございます……。司祭長様」
デモンズ、イービル、兵長は互いに目を合わせ、悪意で顔を歪めていた……。
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