第40話 良い演技だ!

 翌日、オレは……、暴れ牛討伐を終え、自警団の仕事をしていた……。あ、ばあちゃん見っけ!


「おい、そこのばばあ! ちょっと来い!」


 オレは班長たちに聞こえるように、通りにいたおばあさんを脇道に連れ込む。ミズさんといういつもアクエリの儀式に参加しているおばあさんだ。


「おい、ばばあとはなんじゃ! ばばあとは!」

「しーっ! もうちょっと小さい声で話してくれよ! 演技してんだからよ……」


 オレは脇道に入り班長たち、自警団の目の届かないところに移動し、小声でミズさんに話す。


「そんじゃ、これ、昨日と同じ手はずで頼むわ」


 オレはアクエリへのお布施をミズさんに渡す。オレの名前を出さないように念押しして……。


「ん、確かに。そして……、ん」


 ミズさんは右手にお布施の1万エリスを受け取ると、左手を出してきた。


「え、なに?」

「昨日はただでやってやったが……、駄賃はもらわんとのう……」

「だあー! やっぱりクソばばあじゃねえか! わかったよ! ほら!」


 オレは追加で一万エリスをミズさん……もとい、クソばばあに渡す……。


「それじゃあ、最後まで演技頼むぜ……」

「……こんな、狡いことをせんでも、お主はワルモン教と渡り合えると思うんじゃがのう……」

「んなわけねえだろ」

「……そうかのう。わしは物を見る目は曇ったが、人を見る目はまだ曇ってないつもりなんじゃがのう……」


 オレは脇道から出ると、班長に報告する。


「班長! このババアからお布施を徴収しました! 1万エリスです!」

 オレは自分の懐から1万エリスを取り出し、班長に見せつける……。偽装工作だ。

「やっと仕事したか。クソ新入り!」

「く、くそったれ。この悪魔たちめ……」


 よし、いいぞ。クソババア。良い演技だ! お布施以外の合計2万エリスがパーだけどな!


――――――――――――――――――――――――――――――――――

「アクエリちゃん、今日も大変だねえ。ほら、あの小僧からのお布施だよ」

「あ、ありがとうございます……。ミズさん……」

「礼ならあの小僧にするんだ。アクエリちゃん、あの小僧のこと、やっぱり信じられないかい?」

「…………」

「今日、ちょっと話したが、やはり悪いやつじゃないよ、あの小僧。いや、良い奴だ。間違いない」


 ……ミズさんがここまで言うなんて……。


「アクエリちゃん、私はアクエリちゃんを信じておるよ……」

「え、ど、どうしたんですか? 急に……」

「アクエリちゃんに信じられる人はおるかい?」

「…………」

「数少ない信じられる人間……、それがあの小僧だったわけじゃな……」

「なっ!?」

「隠さんでもいい……。このミズ、伊達に長いこと生きとらん! 男女の仲くらいすぐに見破れるわい!」

「男女の仲!?」

「アクエリちゃん、私も死んだ爺さんとよくすれ違いを起こしたもんじゃ……。あの小僧としっかり話したか? まあ、あの小僧もしっかり話をしてなさそうじゃが……」

「おら、そこのクソばばあ! なに、アクシズ教にお布施してんだ!」


 自警団の男が、ミズさんに詰め寄る……。


「ひぃっ! お許しください! 一万エリスお渡ししますので、この件は水にお流しください。ミズだけに!」

「い、良い心がけじゃねえか……。お布施の件は不問にしてやる……」


 自警団の男は一万エリスを懐に入れると去って行った……。


「ごめんね、ミズさん。このお布施は返すから……」

「なんで、アクエリちゃんが謝るんじゃ……。心配するな。今渡した一万エリスも小僧の金じゃ。賢く生きねば損じゃて。……まだ、信じられんか……?」



 ……もう一度だけ、信じても良いんでしょうか? アクア様……。

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