第39話 いるか、そんなもん……!
無事、アクエリはお布施を受け取ってくれたようだ。あのおばあさんには、オレが一万エリスを出したことをアクエリに言わないようにお願いしたから、当たり前っちゃ、当たり前なんだが……。
「おい! クソ新入り! 仕事の依頼だ!」
班長が声を荒げてオレを呼ぶ。
「イービル様から直々のご依頼だ。なんだってお前みたいな仕事をしないクズにこんな仕事をお回しになるのか……、理解に苦しむぜ」
「イービル……様直々?」
「ああ、光栄に思えよ! デモンズ司祭長様の警護だ! 1時間後にスルアム教会に集合だとよ! 遅れんじゃねえぞ!」
……警護か……。それなら、まあ、やってやらんこともない。人々を傷つけることはないだろう。イービルに目を付けられるのも避けた方が良いしな……。オレは時間に間に合う様、教会に向かった。
「久しぶりですねえ。お元気でしたか?」
「そんなに久しぶりとは思えませんが……」
オレはイービルの挨拶に適当に答える。相変わらず、邪悪な笑みを浮かべてやがる……。
「それでは、街外れの教会に向かいます。教徒兵と自警団のみなさん、デモンズ司祭長様にもしものことがない様、しっかり警護して下さいよ?」
なんのことはない、デモンズのお出かけに付き合う。ただ、それだけの仕事だった。デモンズが馬車に乗り込む時、ちらっとその姿を見たが、それなりに風格の漂う立ち振る舞いだった。ヤクザみたいな宗教だが、トップともなると、それなりの威厳を持つものなのだろう。ムカつく話だが……。
街外れの教会まで、何もなく到着する。なにかあっても困るけどな……。デモンズとイービルをはじめ、神父共は教会の中に入って行った。中で何を話しているんだろうな……。きっと、碌でもないことを計画しているに違いない。
二時間程経っただろうか……。どうやら会合は終わったらしい。デモンズが馬車に乗り込み、帰りの移動を始める……。……もう、日が落ちようとしていた頃、オレ達はスルアム教会近くの繁華街に差し掛かっていたいた……。
「ワルモン教……! デモンズうぅうう! 殺して、やるぅうううう!」
穏やかでない声が聞こえてきた……。繁華街の脇道から、一人の男がナイフを持って襲いかかって来た……! ていうか、オレの目の前かよ……!
オレは反射的にその男を押さえ込んでいた。男の顔が目に入る……。この男、どこかで見たことがある……。……思い出した。いつだったか、病気の娘がいることを理由にお布施を拒んだ人だ……。結局、支払っていたが……。
「おい、アンタ! 病気の娘がいるんだろ!? こんなことして、娘はどうするんだ!」
「……娘は……死んだ……死んだんだ……」
「なっ!?」
「お前ら、ワルモン教が無茶な徴収をしなければ……娘を医者に見せることができたはずなんだ……。つ、妻も早くに亡くし、一人娘の成長だけが私の希望だったんだ……。その希望を失った苦しみが貴様らにわかるか……!」
「…………」
オレは何も言えなかった。言えるはずがなかった。……それでも、オレは言わなければならない、そう思った。
「気持ちはわかる……なんてことは言えない。オレは娘を持ったことも、ましてや理不尽に失ったこともないから……。でもその娘さんはこんなこと、望んでないはずだ……!」
男は力を緩めた。オレの言葉に耳を傾けてくれたんだろうと思った。その時だった。男の口から鮮血が飛び出す……。教徒兵が一斉に攻撃したのだ。男の体には無数の剣が突き刺さっていた……。
「なんで……だ、なんで……殺した?」
「何を言っている? デモンズ様に刃を向けた時点で殺すのは当然だろう」
教徒兵の一人が事務的に答える。
「このおっさんはオレの言葉に耳を傾けていたはずだ……。アンタらだってそれくらい、見極められるだろうが!」
「感情に流されたか? くだらん。なぜ、お前程度の人間をデモンズ様とイービル様は気にかけていらっしゃるのだ……。見当がつかん」
「なにかあったのか?」
デモンズが能天気に馬車から顔を出し、イービルに尋ねる……。
「いえ、暴漢が言い掛かりをつけてきたのです。ご安心ください。既に始末いたしました」
言い掛かり、だと? 今のおっさんの悲痛な叫びが……言い掛かりだっていうのか……!
「そこにいるカズヤという者が身を呈してデモンズ司祭長様を守ったのです……」
「ほう、それは見事な『功績』だな……。褒美をやらねばならんな……」
いるか、そんなもん……!
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