第38話 この一万エリス、受け取っておきなさい

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 私、アクエリはその日も広場で、儀式をしていた。皆、私に向かって石を投げつけ、罵声を浴びせる……。でも……、私は知っている。皆が自警団に……ワルモン教に脅されていることを……。私は負けるわけにはいかない……。私が屈することはアクシズ教が屈することと同義なのだ……。死んでも、負けるわけにはいかない……。アクシズ教の光が消えた時、この街は本当に貧しい街に戻ってしまう……。偉大な先祖「スルアム」が来る前の貧しい街に……。


「アクア様、どうかご慈悲を……」


 信者の一人、ミズさんが、祈りを捧げる……。ミズさんは、私も知らない私のひいおじいちゃんとひいばあちゃんが教会をしていた時から、毎日祈りを捧げに来ているおばあちゃんの信者さんだ。いつも、こんな危ない場所に来てくれて、お布施を缶の中に入れて行ってくれる……。もちろん微々たる金額だけど……、私はその気持ちが嬉しかった……。

 今日もお布施をしてくれている……。


「って、えええええ!?」


 ミズさんは一万エリスを缶の中に入れていったのだ。この街で一万エリスはそれなりの大金だ。


「ミズさん、駄目だよ。こんな大金を入れたら! ミズさんにも生活があるでしょ!?」


 私は慌ててミズさんを止める。


「安心しな。アクエリちゃん。これは私のお金じゃないんだよ。頼まれたんじゃ……」

「頼まれたって……、誰に……?」

「あそこにおる、カズヤとかいう自警団の若い男にじゃ……」


 私は驚き、そして顔に血が上る……。まだ、私を騙すつもりなんだろうか……。


「こんなのいらない!」


 私は、ミズさんにお金を返そうと、一万エリスをミズさんに押しつけた……。


「アクエリちゃん! 私の話をお聞き!」


 ミズさんが、珍しく声を荒げる。私はビクっとしてしまう……。


「アクエリちゃん、あの男から一万エリスを受け取った時、私も『なんだ、こいつ? アホか? 頭どっかおかしいのか? なんで自警団になんかなってるんだ? クズか?』と思ったよ」

「……け、結構、辛辣ですね……」

「だけどねえ、あの男の目、決して腐ってはいなかった。他の自警団の連中がお布施を徴収しているときも、あの男は徴収しようとしなかった。上司と思われる人間からどれだけ殴られようともね……」

「え?」

「今もそうだろう? 他の自警団の連中がアクシズ教徒を迫害している中、あの男は何もしていない」


 確かに、カズヤさんは何もしていなかった。ただ、腕を組んで壁に寄りかかっているだけだ……。


「悪いことをしていないだけで、そいつが良い奴とは限らない。だから、これは勘だよ。耄碌した私の戯言と捉えてもらっても構わんよ。あの男、信じるだけの価値はある……。アクエリちゃんとの間に何があったかは知らんが……、私はそう思うよ。この一万エリス、受け取っておきなさい……」


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