第37話 やっぱり習慣というものは恐ろしいもので……

 次の日、やっぱり習慣というものは恐ろしいもので……、オレは暴れ牛討伐に出掛けようとしていた……。


「よう、馬車のおっさん……。今日も頼む……」

「……旦那……。その左肩に付いているのは……。自警団に入ったんですかい?」


 馬車のおっさんが冷たい目でオレを見る……。


「ああ、ちょっとな……」

「魂までワルモン教に売っちまったんですかい?」

「……気に障るなら、他を当たるよ……」

「いや、あっしもプロだ。ご依頼とあらば、誰が相手でも馬車を出しやすぜ……」


 馬車の道中、おっさんとオレは会話した。他愛もない話だ……。


「……旦那……、いつも話してる姉ちゃんと子供たちは自警団になったこと、どう思ってんですかい?」

「嫌われちまったよ。家、追い出されちまった……」

「そりゃ、そうだ。身内がヤクザ者になって喜ぶ奴なんざぁ、いやしねえ」

「……そうだよな……」


 なんで、そんな簡単なことに考えが及ばなかったんだろうな……。オレはその日、久々に十体以上の暴れ牛を狩った。裏切ったなら裏切ったなりの誠意を見せなきゃいけない……。オレには金が必要なんだ……。



――――――――――――――――――――――――――――――――――


――――ワルモン教総本山 スルアム教会――――


「イービル殿。どうかね? 例の「人外」の様子は……」

「は、デモンズ司祭長様……。予定通り、自警団に入団させましたところ、一日約一千万エリスを稼ぎ、約六百万エリスをお布施しております……。一定の効果があったと言えます。しかし……。」

「なにか問題を起こしているのかね?」

「はい、全く自警団の仕事をしていないという報告を受けております……。雑用はするようなのですが……、お布施の徴収、アクシズ教徒への迫害といったメインの仕事を全くしないそうなのです……。班長が殴……厳しく指示しても、ご存知の通り、人外の防御力を持っているため、言うことを聞かないとのことです」

「ふむ。困ったものだな。それでは、ただお布施を減額しているだけと同じことだ。他の自警団の不満も溜まってしまうだろう。早いうちに、教徒兵に格上げをする方が毒にならぬかも知れん……」

「は、しかし、何の功績も上げていない人間を教徒兵に上げてしまいますと、それこそ自警団の不満が溜まってしまいます……」

「貴殿の言うとおりだ……。……明日、街の外れにある教会に私は出向く予定なのだが……、その際、その『人外』を警備の一人として連れて行こうと考えておる」

「は、それは構いませんが……、一体どのようなお考えで?」

「なに、難しいことではない。道中で、その『人外』のなにかしらの行動に私が感銘を受けたことにするのだ。ごみ一つを拾っただけでも良い。人外の功績を作り上げるのだ。私の一存でな。それならば『人外』が教徒兵に格上げされても不満を持つ者は少なかろう」

「司祭長にそこまで、気を使わせてしまうとは……、このイービルの力の無さをお許し下さい……。早速手配させて頂きます」


(まったく、厄介な人間もいるものだ……。だが、わずかでも可能性があるならば、芽は摘んでおかなければならん。ワルモン教を脅かす芽はな)


 デモンズ司祭長は、不敵な笑みを浮かべていた……。


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