第36話 ……すまなかった……

 オレは走ってアクエリの後を追った……。謝りたかった……。最低の行為に加担してしまったことを……。アクエリは家の前に立っていた……。


「アクエリ……」


 オレは声をかけた……。許して……もらいたかった……。


「カズヤさん、自警団の人だったんですね……。おかしいとは思っていたんです……。この街で人に情けをかける余裕がある人なんてほとんどいないですから……」


 アクエリは、顔を俯かせたまま、怒りと悲しみが混じった様な声でオレに話しかける……。オレは、その声に戸惑いを隠せなかった……。


「私を騙してなにを企んでいたんですか? そうか、私がこの街を去るように仕向けてたんですね。私の体のことを心配してたのも……、それを口実にこの街から私を追い出すためだったんですね……。この街から逃げようとか言って私が従えば、邪魔なアクシズ教のシスターをこの街から消すことができますもんね……」

「違う! オレはそんなこと……、騙したり、企んだりなんかしてない!」

「そう、ですか……。でも、わからないです。カズヤさんが今、本当のことを口にしているのかどうか……。わたし、嬉しかったんですよ? 私の味方をしてくれる人が現れてくれて……、お父さんとお母さんが死んでから、私の味方をしてくれる人はいなかったから……」


 オレは、アクエリに近づこうと歩みを進めた……が、アクエリは拒否した。


「近づかないで! ……近づかないで下さい……」


 アクエリは俯いていた顔を上げた。その目からは涙が流れていた。


「お姉ちゃんとお兄ちゃん、ケンカしてるの?」


 マリが心配そうに家の中から顔を出す……。


「マリ、中に隠れてろ! この兄ちゃん、悪い奴だったんだ! 姉ちゃんを泣かすな! どっか行けぇ!」


 コウとカイがオレに向かって石を投げる。石がオレに当たる……。……痛ぇ……。暴れ牛に踏まれるよりもよっぽど、そして、苦しい。水責めなんかよりよっぽど。こんな痛みと苦しさがあるなんてな……。


「……すまなかった……」


 オレは謝罪の言葉を述べてアクエリ達の家の前から去った……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る