第32話 いつもの日常

 習慣とは恐ろしいもので、オレは次の日の朝、いつもどおり、暴れ牛討伐に出発していた。何も考えず、いつも通りを貫く方が楽だった……。


「なあ、馬車のおっさんもワルモン教にお布施を払ってんのか?」

「……ええ……」

「不条理……だとは思わないか?」

「……もちろん、思いますとも……! でもねぇ、旦那、あっしも妻子持ちなんでさあ。自警団の連中に目を付けられるわけにゃいかねえ……」

「……そうだよな……」


 荒野に到着する。毎度ながら、香水を垂らす。暴れ牛がやってくる。いつものパターンだ……。


「……一匹で良いか……」


 そうだ。どうせ、お布施で持っていかれるんだ。なんで、必死こいて何匹も狩る必要がある? 狩れば狩るほど、お布施すればするほど、あのしょうもない教団が使うお金が増えるだけだ。

 オレはあえて一匹だけ狩ることにした。ギルドに戻ると、ご丁寧にも神父がいた。……オレを痛めつけた神父とは別の神父だ……。今まで気づかなかったが、皆、お布施をしている。オレは暴れ牛1体を換金すると、馬車のおっさんに賃料を払い、残った約九十万エリスの内の九割、およそ八十万エリスをお布施した……。


「改心なさったのですね? 良い心がけです」


 神父が話しかけてくる。内心、「クソが!」と思ったがケンカするだけこっちが損だ。先日の拷問みたいなことは死んでもされたくないからな……。



 オレはアクエリたちの元に差し入れを持っていく。一日おいて、少し気分が落ち着いたのか、水を見ても吐き気がすることはなくなっていた。


「お兄ちゃん、お帰り!」


 マリが出迎えてくれる……。オレはどこか安心していた……。いつもの日常が戻って来た。そんな感じがした……。


「カズヤさん、お帰りなさい! 大丈夫ですか? 昨日は調子悪かったみたいですけど……」

「ええ、大丈夫ですよ。見ての通りです。ご心配おかけしました……。……お食事もらっても良いですか?」

「もちろんです!」


 アクエリは満面の笑みで答えてくれた……。……この時、オレはまだ、気づいていなかったんだ……。このアクエリの笑顔を裏切る行為を、オレ自身がしていたことに……。

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