第31話 トラウマ

 それからのことは記憶がほとんどない。気づいた時にはオレは、取り上げられていた剣、防具、冒険者カードなどを返され、ギルドの銀行前にいた。銀行から約二千七百万エリスを引き出し、自警団の男に渡した……。何の感情もなかった。早く終わらせたいという感情以外、なにも……。


「あ、あいつらの……ところに……行か……なきゃ……」


 オレはふらふらした足取りでアクエリたちの家に向かった……。オレの体は大丈夫なんだろうか……。冒険者カードを見る限り、体力は全回復している。他のステータスにも異常はない。だが……、どうにも気分が悪かった……。


「に、兄ちゃん!?」


 家の前にはカイがいた……。


「姉ちゃん、兄ちゃんが帰ってきたよ!」


 アクエリが家から飛び出してくる……。


「カズヤさん! 心配しましたよ! この3日間、顔を出してなかったから……! っ! どうしたんですか!? その目の隈!」

「大丈夫ですよ。気にしないで下さい……」

「気にしますよ! とにかく入って下さい!」


 オレはアクエリに促されるまま、家の中に入った。アクエリはお茶をオレに出してくれた……。


「うっ!?」


 オレはお茶を見た瞬間、吐き気を催した……。たまらず、家の外に出て嘔吐する……。


「だ、大丈夫ですか!? 今、水を持ってきますから!」

「大丈夫です!!」


 オレはつい、声を荒げてしまった……。アクエリに水を持ってきてほしくなかったからだ……。


「すいません、大丈夫です……。今は……水を見たくないんです……。皆の顔が見られて良かった……。今日は何も持ってきてないんです……。明日は持ってきますから……」

「無理しないで……下さい……」


 アクエリが心配そうにオレを見送る……。オレは宿に向かった……。何もする気が起きなかった……。ベッドに横になると、そのまま眠りに就いた……。


「うああああああああああああああああああああ!」

「うるせえぞ! 何時だと思ってんだ!」


 隣部屋からの怒鳴り声を聞いて、ふっと我に返る……。


「ははっ……、情けねえ……」


 オレは夜の暗闇に動転して大声を出してしまったのだ。あの狭い牢を思い出してしまって……。オレはベッドの傍らに設置してある魔動式のランプを点灯したまま、眠りに就こうとした。……暗闇では眠れなくなってしまったのだ……。

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