第30話 水責め

 どこからか音が聞こえて来る。何かが流れる音だ。……水だ、水が流れる音がする。今いる小さな部屋を水没させようと水が流れ込んでくる!


「うあああああああああ! 何を、何をするつもりだああ!?」

「水責めですよ。この牢の全てが水に浸かります。生きていられますかねえ?」

「やめろ! やめてくれぇ!」


 オレの願いが聞き入れられることはなかった……。再び扉が閉まり、光は消滅し、水が襲う。


「あばばばば」

 あっという間に水は牢を埋め尽くし、オレは息ができなくなる。苦しい、苦しいのに、死ぬことができない。ただ、苦しいだけだ。水が引き、再び扉が開く。


「ふむ、十分間でしたが、問題なく生きていらっしゃるようですねぇ。素晴らしい」

「もう……やめて……ください。お願い…します……」

「何を言っているんです? 今のはお試しですよ? 今からもう一度、三十分耐えていただきましょうか? 死ななければいいですねぇ」

「うああああああ、やめてくれええええええええ」





「あばばば、あばばば、あばばばばば」


 オレは何とか苦しくないように、と色々してみた。舌を噛んでみた。意味はなかった……。水を飲んでみた。意味はなかった……。ただただ苦しいだけだ。溺れる苦しさが延々と続く……。

 ……水が引く……。……扉が開く……。


「生きていらっしゃいますかぁ?」

「は……い、生きていま……す……。神父様。今までの無礼……、お許しくだ……さい。どうか……、どうか……、寛大な……ご処置……を……」

「ほほほほほ、ようやく改心なされましたか」

「は……い……、改心……させて……いただきま……した……。私が……間違っていま……した……。お許し……くださ……い……」


 オレはもう自分が何を言っているのか理解していなかった。いや、理解したくなかった。だが、もうこの苦しみから逃れるために手段は選んでいられなかった。靴を舐めろと言われたら靴も舐める……。そんな心持でいた。


「いいでしょう、いいでしょう。愚かなあなたを許しましょう……とでも言ってもらえると思ったか? クソガキ……!」


 神父の顔から邪悪な笑みが消え、憤怒の表情が表れる……。


「散々、このワルモン教司祭、イービル様に手間と恥をかかせやがって。一度の懺悔で許してもらえると思っているのか……! 水責め3時間追加だ……!」


 扉が閉められる。外の声が聞こえてくる。


「それでは、3時間後に水を抜けばよろしいですね?」との部下の問いかけに対し、イービルは答える。


「何を寝ぼけたことを言っている? 丸一日だ! 奴の体に絶対の服従を刻みつけるためにな!」

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