第29話 寝返りも打てない牢の中で

 ……オレは目を覚ました。真っ暗だ。何も見えない。目隠しを巻かれいているわけではなさそうだ。うつ伏せにさせられている……。……手枷、足枷をされているわけではなさそうだ。でも体が動かせない。正確には体を起こすことができない。

 オレの目の前が急に明るくなる。横開きの小さな扉が開いたのだと、目が慣れてから気づいた。


「気分はどうですかな?」


 あの邪悪な笑みの神父が顔を覗かせた。


「こんな所に閉じ込められて気分が良いわけねえだろ!」


 オレは即座に反駁する。小さな扉から入る光で自身がどんな状況にあるのかが見えてきた。オレは床と天井の距離が異様に短い部屋に入れられていた。体を起こすことはもちろん、寝返りも打つことが出来ない狭さだ。


「どうです? 苦しいでしょう? そこにいるのは。お布施の支払いとワルモン教への忠誠を誓うなら出してあげても構いませんよ?」

「誰が忠誠なんて……誓うか……!」

「そうですか。残念です……。またお会いしましょう……」


 そういうと、神父は小さな扉を閉める。部屋は暗闇に包まれる。言いようのない不安がオレを襲った……。だが、オレは心に誓う。あんな奴らの言うことなんか聞いてたまるか!

 何時間経っただろうか……。再び扉が開き、神父が顔を覗かせる……。


「3時間たって様子を見に来ましたが……、案外お元気なようですねぇ……。忠誠を誓う気になりましたか?」

「誰が……誓うか……」

「そうですか……。ではまた、3時間後に……」


何時間経っただろうか……。少しずつだが、確実にオレの精神はストレスに侵されはじめていた……。また扉が開く。


「やあ、ごきげんよう。3時間経ったので様子を見に来ましたが……、ちょっとだけお疲れの様ですねぇ。忠誠を誓いますか?」

「誰が……」

「そうですか……。ではまた、3時間後に……」


……………………

…………

「ああ、ああ、あああああああああ!」


 オレはストレスに耐えられなくなってきていた。明らかに長い時間、光を見ていない。3時間以上確実に経っている。もう駄目だ。そう思った時だった。


「こんにちは、どうしました? そんな獣のような声を出して……」

「ああ、光、光だ……」

「6時間ぶりの光ですもんねえ。癒されるでしょう?」

「3……時間……なんて、嘘を……吐きやがって……」

「ほう、まだ、そんなことを言う元気があるのですか……。さすがの私も少々気が立ってしまいました。では次は十二時間後だ……!」


 扉が閉まり、光が消える。


「あああ、うああ、うあああああああああああああ!」


 ……それから、何時間が立ったのだろうか、オレの心はもう摩耗していた。限界が来ようとしている。少しの物音がするだけで、扉が開くんじゃないかと期待するが、もちろん期待はずれで……、そんなことを何回も繰り返していたとき、ついに扉が開く。


「こんばんわ」

「お布施も……する。忠誠も……誓う。だから……、だから……ここから出してくれ……!」

 我ながら情けない嘆願だった。だが、オレはもう限界だった。もうここからでなくてはオレの精神は死んでしまう……!


「ふむ、少しは素直になったようですが……、もう遅い。もうそれだけの言葉では許されない事態になっているのですよ?」

「ああ、ああ、あああ」

「ちょっと、実験をしてみたくなりましてねえ。人外の防御力を持つ人間に対して実験をね……。君たち、例の準備を……」


 外に神父の部下がいるのだろうか……。いや、そんなことはもうどうでもいい。これ以上何をされるってんだ?

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