第25話 ただいま……

 オレはギルドで換金を済ませると、約束通り、おっさんに十万エリスのボーナスを上げた。その後、オレはいつも通り、ウィズさんの店で回復薬を買った後、商店街に向かった。


「あいつらにもなんか、買っていってやらないとな……。今日は大量討伐達成のお祝いだ!」


 オレは、いつもの肉と野菜の他に、ケーキなんかのお菓子の類と玩具を買って帰ることにした。男の子二人……、コウとカイにはコマでいいだろ。マリにはおままごとセットを買って帰ろう……。


「あ、兄ちゃん。お帰り!」


 コウが家の前で遊んでいたが、オレに気づき、声をかける。お帰りって、別にオレはここに住んでるわけじゃないんだが……、でも悪い気分はしない……。家の入口の布が開き、アクエリが顔を出す……。


「あ、お帰りなさい!」


 アクエリもお帰りなさいと言ってくれる……。もちろん、仕事から帰ってきたことに対するお帰りの挨拶だ。だが、やっぱり、心が温かくなる。いつぶりだろう。オレが心からこの言葉を口にするのは……。


「ただいま……」


 オレは家にお邪魔する。いつものようにアクエリがご飯を作ってくれる。


「アクア様、今日も私達にお恵みを下さりありがとうございます」


 お祈りをして、食事を始める。初めて会った時に比べれば、子供たちもアクエリも顔色が良くなったと思う。オレが買ってきている肉と野菜を食べてくれているからだろう……。……きっとこれだけでもオレが生きていた意味はあったのかもしれない……。自殺を止めてくれたクリスには感謝しなければならない、かもしれないな……。

 オレは食事が終わると、買って来たおもちゃを子供たちに渡す。


「ありがとう! 兄ちゃん! カイ、向こうでぶつけて遊ぼうぜ!」

「コラ! 大事に使うんですよ!」


 男の子二人はコマをもらうと、外に出て行った。アクエリは二人に注意するが、聞いちゃいないだろうな……。


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 マリにも玩具を……おままごとセットを渡した。渡すとすぐにマリはおままごとを始めた……。


「じゃあ、お兄ちゃんがおとうさん役で、お姉ちゃんがおかあさん役で、私がこども! わかった?」


 マリがおままごとの配役を伝える。オレとアクエリは分かったと頷く。


「はい、じゃあ、わたしがごはんをつくります。おとうさんとおかあさんは待っててくださいね!」


 マリはどこに隠しもっていたのか、さっきの食事に出ていたパンを皿の上に置いて、アクエリの前に出した。


「はい、おかあさんはおとうさんに食べさせてあげてください!」

「ええ!?」


 アクエリが戸惑いの声を上げる。


「ほら、はやく! たべさせてあげるときは『あーん』って言って上げるんですよ!」


 マリが急かす。アクエリは赤面しながら、パンを持ってオレの口に持っていこうをする。


「あーん……」


 なんだ、この状況は。オレもこっ恥ずかしいぞ! オレも顔に熱を感じながら、パンを口にする。


「はい、おかあさんは『おいしかったですか? 旦那様』って言う!」

「ええ!?」


 アクエリは顔を真っ赤にして、俯く。


「……お、おいしかったですか? 旦那様……」

「は、はい。とても……」


 めちゃくちゃ恥ずかしいぞ! なんだ、このシチュエーションは!? 新手のいじめか!?


「よかったね! お姉ちゃん! お兄ちゃん、おいしかったって!」

「な、なにをいってるの!? マリ!」


 オレは顔を指で掻く……。恥ずかしさをごまかすように……。

 おままごとも終わり、オレは宿に向かうことにした。アクエリに挨拶をして、その場を去ろうとした。


「明日も来ていただけますか? 子供たちも喜ぶと思います……」

「ええ、もちろん……」


 オレはそう言って、アクエリたちと別れた……。




 ……正直に話そう……。オレは自分の命を自分で絶とうという思いが薄れ始めていた……。……失礼なことかもしれないが、あの子たちに補助をすることが生きがいになりつつあった……。勘違いかもしれないが……、アクエリもオレに対して好意的な様子だ、とオレの眼には映っていた……。今以上の関係になりたいとは思わなかった。この関係が壊れてしまうのが怖いから……。今の状況がずっと続いたら……、それは幸せなことだ、とオレは思っていた……。

 

 ……オレは忘れていたんだ……。幸せは長く続かない……。天から希望の光が射した時、足元には絶望が転がっているのだ。



 オレは誰よりも、そのことを知っていたはず、だったのにな……。

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