第23話 レストラン「ドラゴン」

 アクエリ達と別れ、オレはある所にやって来た。レストラン「ドラゴン」である。この貧民街スルアムにおいて、唯一と言っていい、高級レストランである。その名の通り、ドラゴン肉料理を得意とする店である。この世界では、ドラゴンが存在し、その肉は高級品として扱われている。なんでも、食べるとレベルが高まり、強くなれるというのだ。どうなってんだ、この世界。


「こちらが、ホワイトドラゴンのステーキ、ミディアムでございます」


 来た来た。店員がオレに食事を差し出してきた。このホワイトドラゴンの肉はドラゴン肉の中でもさらに高級品で、食べると、スキルポイントがアップするらしい。「デス・フェロ―」の習得に必要な百万スキルポイントを貯めるには必須の食事というわけだ。オレは早速ナイフで切り、口に運ぶ。……やけに切りづらかったな……。


「ええ……」


 ……オレはあまりのまずさに、呆然としてしまった。まず、固い。そして噛み切れない。おまけに独特の変な風味がする……。このまずさで、十万エリス……。


「くっそぉぉぉ!」


 オレは米と一緒にドラゴン肉を流し込む。スキルポイントのためだ。頑張れ、オレ! ……これなら、アクエリ達にもっと良いもの買う方がましだったか……? いや、オレにも目的があるのだ。死ぬという目標が。オレはアクエリ達への罪悪感と一緒にドラゴン肉を流し込む。


「ごちそうさん!」


 オレは、会計を済まし、レストランを出る。もう日が落ちようとしていた……。


「明日も早いからな。宿に帰って寝よう」


次の日もオレは、馬車のおっさんを連れ、暴れ牛退治に赴いた……。


「旦那ぁ。終わりやしたか?」

「ああ」


 オレは右手の甲をおっさんに見せながら、3本の指を立てる。


「3体だ!」

「はぁ。約三百万の稼ぎじゃないですかい。どうです? ひとつあっしに……」

「いやだ!」

「まだ、なんも言ってないのに……」


 何回、同じギャグをするつもりだ。


 オレはこの日も、肉と野菜と回復薬を買って、アクエリ達の家に向かった……。


「いつも、本当にありがとうございます……」


 アクエリがお礼をしてくる。


「もう、お礼はしてもらわなくていいですよ。勝手にやってることなんで……」

「今日はお食事食べていってくださいね」


 正直、2日続けて、ドラゴン肉はきつい。お言葉に甘えることにした。


「クリエイト・ファイア!」


 アクエリは、木に火を付ける。そういえば、この前はなかったが、簡単な作りのかまどが据え付けられている。


「この前、頂いたお布施でこのかまどを買うことが出来たんですよ。ありがとうございます」


 オレはどういたしまして、と答える。役に立っているようでよかった……。だが、ひとつ気になることがあった。


「アクエリさん、子供たちの服は新調したみたいですけど、ご自身の服は買わなくていいんですか? もし、お金が足りないのなら、……お貸ししますよ?」


 オレは、お布施しますよと言いかけたが、やめた。多分、この娘はそういう言い方では受け取らないだろう。お貸ししますという言葉をオレは選んだ。


「大丈夫ですよ。このシスター服は、3着ほどありますので」


 アクエリは調理をしながら話す。それ、シスター服だったのか……。


「あ、今、シスター服には見えないなあって思ったでしょ? これは、先祖スルアムの妻、シスターでもあったその方が着ていたシスター服なんです。長い年月を越えて、代々受け継がれ、私は母からもらったんです」


 なるほど、それで継接ぎだらけだったのか。


「私にとっては、誇りなんですよ。決して新調することなく、修理に修理を重ねて使われてきたシスター服……。自身の服よりも民への祈りを優先したご先祖の意思がこもってますから……」


 アクエリは本当に誇らしそうな顔をしていた。


「はい、みんな、できましたよ」


 アクエリが食事を装い終わると、子供たちも集まって来た。


「はい、頂く前にお祈りをするのですよ。アクア様、今日も私達にお恵みを下さりありがとうございます」


 アクアの言葉を子供たちが復唱する。今回はオレも遅れずに復唱することができた。


「お姉ちゃん、今日は一緒に食べてもらえてよかったね! 昨日は断られて、ちょっと落ち込んでたもんね!」


 女の子がアクエリに微笑む。


「な、何を言ってるの、マリ!! 落ち込んでなんていませんよ!?」

「そうなの?」

 

 女の子……マリは首を傾げていた。

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