第22話 暴れ牛ハンターの朝は早い……こともない

「うおおおおおおおおおおおおお!」


 暴れ牛ハンターの朝は早い……こともない。9時くらいだろうか。オレはこの世界に飛ばされてから三日目にして、2回目の暴れ牛討伐を行っていた。


「ああああああああああああああ!」


 相変わらず、手当たりしだいに牛に飛びつき、眼を狙うという非効率極まりない攻撃をオレは続けていた。もちろん失敗するたびに、暴れ牛の大群に轢かれた。……香水の効果が消えたのか、暴れ牛は去っていく。


「旦那あ。終わりやしたか?」

「ああ」

「で、収穫はどうですかい?」


 馬車のおっさんが暴れ牛が去ったのを確認して近づいてくる。オレは天高く人差し指を掲げる。


「一体だ!」

「はあぁ。約百万の儲けじゃないですかい。どうです。ひとつ、あっしに特別……」

「いやだ!」

「まだ言いきってないのに……」


 うるさい! 図々しいにも程があるってもんだ。なんで、付いてきているだけのおっさんに特別ボーナスを払わなあかんのだ。


 オレはギルドで換金を済ませると、魔道具店ウィズに向かった。回復薬を買うためだ。


「いらっしゃいませ! いつも、ありがとうございます!」


 いつものとおり、ウィズさんが愛想よく挨拶してくれる。オレは回復薬を買うと、店を出ようとした。


「ちょっと待って下さい。カズヤさん!」


 ウィズさんが呼びとめる。どうしたんだろうと思いながらオレは振り返る。


「カズヤさん、良ければ、このブーツを持って行ってくれませんか? もちろんお代はいりません。日頃のご愛顧に感謝してってやつです。余計なお世話かもしれませんが、大分靴が傷んでいるように見えたので……」


 たしかにウィズさんの言うとおり、オレは生き返る前から履いていたスニーカーで暴れ牛と格闘していて、もうボロボロになっていた。


「ありがとうございます! 大事に使わせてもらいます!」

「一応説明しておくと、それも魔王を倒した勇者が履いていたブーツのレプリカになります」


 オレはブーツに履き替え、ウィズさんに礼をして店を後にした。勇者のレプリカの剣に、防具に、ブーツか。人が見たら、勇者のコスプレにしか見えないかもな。そんなことを考えながら、オレは精肉店と青果店によってから、アクエリたちの家を訪れた。入口の前には男の子二人がいた。服が新しくなっている。この前、オレが渡した十万エリスを使ってくれたのだろう。


「元気か? お姉ちゃんはどこにいるんだ?」

「あ、怖い顔のお兄ちゃんだ!」


 おい、開口一番それかよ……。


「姉ちゃんなら、中にいるよ!」


 オレは入口から声をかける。


「アクエリさん、入りますよ」

「どうぞ」という声が聞こえてから中に入り込む。アクエリはまた、傷付いた状態で寝ていた。


「無理したらいけないですよ。回復薬置いておきます。飲んでください」

「す、すいません。いつも……」

「こう見えて稼ぎはあるんで、気にしなくていいですよ。後、これも良ければ、もらって下さい……」


 オレは精肉店と青果店で買った肉と野菜を籠ごと、アクエリに手渡す。子供たちが中を覗き込む。


「すっごーい、お肉とお野菜だあ! これ食べてもいいの? お姉ちゃん!」

「こら、はしたないことを言うんじゃありません! ……本当に頂いていいんですか?」

「良いですよ。そのために持って来たんですから……」

「ありがとうございます! ほら、あなたたちもお礼を言うのですよ」


 子供たちは各々、オレにお礼を言ってきてくれた……。オレはちょっと照れてしまった。


「それじゃ、オレはこれで……」

「良ければ、食事していきませんか?」


 アクエリが誘ってくれた……。


「申し訳ありませんが、今日はある所で夕食を取ることにしてるんです。また、誘っていただけますか?」


 オレはアクエリに断りを入れて、その場を立ち去った。そう、今日、オレは行かなければならない場所があるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る