第21話 アクシズ教の神父『スルアム』の子孫

「なんで、そこまでして……」


 オレはアクエリに問いかけた。そこまでして体を張る理由が分からない。


「こんなことを言ってはいけないかもしれないけど、この街はワルモン教徒が大半を占めているんだろ!? わずかなアクシズ教徒のために、わざわざアンタが傷付く必要はないだろ!」


 オレはつい、声を荒げてしまう。だが、正直な思いを伝えたつもりだ。今の状況じゃ、アクエリはいつ死んだっておかしくない。


「たしかに、いま、この街はワルモン教が大勢を占めています。でも、私は信じているのです。皆、今はワルモン教徒になっていますが、その心中では、アクア様のご慈悲を求めているのです。だから私は大道げ……儀式をやめることはできないのです」


 おい、このまじめな状況で大道芸って言いかけたぞ、この子。やっぱり、宴会芸スキルじゃねえか、あの花鳥風月ってやつは! って今はそんなことどうでもいい。その後もオレはアクエリに大道芸をやめるように説得した。だが、彼女が首を縦に振ることはなかった。


「なんで、そんなに頑なにやめようとしないんです?」

「……私は、かつてこのスルアムの地に平穏をもたらしたアクシズ教の神父……『スルアム』の子孫だからです」

「平穏をもたらした?」

「はい、かつてこの地は今よりももっとひどい貧困地域でした。田畑も家も全てが荒廃していました。もちろん民の心も……。しかし、スルアムはこの地に来て、アクシズ教を布教し、民の心を豊かにしたのです。心が豊かになった人々は一生懸命に働きました。そして、豊かに栄える街になったのです。人々はスルアムの功績を称え、この街にその名を付けたのです……」


 この街にそんな歴史があったのか……って、でも、じゃあ今、なんでまた貧民街になってしまっているんだ?


「しかし、十年前、魔王軍が押し寄せてきたのです。再びこの地は、荒れ果ててしまいました……。なにもかも奪われてしまったとき、この地に新たな宗教が入ってきました……。ワルモン教です。ワルモン教徒はこの街の人々を魔王軍から守り、復興の手伝いもしたのです」


 ……ワルモン教ってのは結構良い奴らなんだな。悪者なんて響きだからちょっとマイナスイメージを持ってしまってたぜ。アクエリは語りを続ける。


「ただ、彼らワルモン教は歴史的にアクシズ教に敵対心を持つ宗教だったのです。ここ、スルアムのアクシズ教会はことごとく潰されました。私の家、先祖のスルアムが建てた教会も……」

「…………」


 オレは言葉に詰まる。ワルモン教が悪いともアクシズ教が悪いとも言えない。宗教ってのはこの世界でもややこしいらしい。


「話を戻しましょう。この地はワルモン教が支配する街になりました。しかし、私は、数少なくなったアクシズ教徒にとって、最後のシスターなんです。しかも、偉大なスルアムの血を引いている……。やめることはできません。私がいなくなったら、希望を失ってしまう教徒が少ないとはいえ、いるのです」

「……わかりました……。もうやめろとは言いません。でも、危なくなったらすぐ逃げてくださいよ?」

「ええ」


 アクエリは微笑む。


「一応、回復薬も置いていきます。ゆっくり休んでください……」


 オレはアクエリ達の家を後にした……。

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