第20話 敬虔なアクシズ教シスター

 緑色の布がベースになっている防具を買い、オレは魔道具店ウィズを後にした。今日の宿を探そうと広場に来た時だった……。


「さあさあ、女神アクア様が実際にやっていた神聖な儀式! 花鳥風月だよー。見なきゃ損だよ―!」


 大声を出す大道芸少女が一人、そこにはいる……。アクエリだ。


「帰れー! このブス! この街にアクシズ教なんていらないんだよ!」

「ワルモン教の邪魔をするんじゃねえ!」


 相変わらず、ヤジが容赦ねえ! 石を投げつけている奴もいる。当たったらどうするんだ!? いや、もう当たっているか……。

 ……だが、中には、アクエリに向かってお祈りを捧げている人もいる。その大半は老人だったが……。アクエリの前に置かれた缶の中にその老人たちは僅かばかりではあるが、金を入れている……。十分、十五分ぐらいだろうか……。アクエリは花鳥風月を終え、缶を持って広場から去っていった……。


「クソ! 気分悪いな!」


 オレは魔道具店ウィズに戻り、手当に有効な薬を買って、急いでアクエリ達の家に向かった。家の入口には男の子が一人いた……。


「おい、お姉ちゃんはどこにいるんだ?」

「中で寝てる……。いつも『ぎしき』をした後は横になって休むんだ……」


 そりゃ、そうだ。あんな体力的にも精神的にも辛いことをすれば寝るくらいするだろう。傷は大丈夫なんだろうか?


「入りますよ? アクエリさん」


 中から「どうぞ」という、どこか力のない声が聞こえる……。オレはすぐさま家の中に入った。アクエリはゆっくりと寝床から上半身を起こす……。


「……ひどい傷じゃないですか……」


 アクエリは体中傷だらけだった。顔にも……アザがたくさんある。石を何度もぶつけられたのだろう……。


「だ、大丈夫ですよ! こう見えてもプリーストですから! 自分に回復魔法をかければもとに戻ります」


 昨日もそうだ。広場で見た時は顔のアザがひどかったが、オレと会ったときには治っていた。自分に回復魔法をかけているというのは本当だろう。だが……。


「オレは回復魔法なんて使えないから……というか魔法が使えないから分かりませんが、魔法を使うにも魔力が必要なんでしょう? 体の傷が治ったとしても魔力の消費で体力も減るはず……体に負担がないはずがない。回復薬を買ってきました。飲んで下さい」


 アクエリは申し訳なさそうな顔をしたが、素直に飲んでくれた。みるみる内に体の傷が治って行く。この世界の薬はすごい。だが、今のオレには感動する余裕はなかった。


「もう、あんなこと止めた方がいい! 体がボロボロじゃないですか。いくら信仰のためだからって……。このまま続けたらいずれ、大けがをしますよ?」

「お気づかいありがとうございます」


 アクエリは「でも……」と続ける。芯の強さが伺える笑顔をしながら……。


「止めるわけにはいかないんです。この街のアクシズ教徒のために……!」


 彼女の決意に、オレは気圧される。そこにはどんな逆境にも屈しない敬虔なアクシズ教シスターの姿があった……。

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