第18話 約二百万エリスの儲けじゃないですかい
暴れ牛を一匹倒してホッとしているのも束の間、仲間を殺されて怒ったのか、他の暴れ牛がオレに向かって突進してくる……。
「ちょっとでも眼を傷つければ、良いんだな!? これならいくらでも倒せる!」
オレは自分自身に自信を持たせるように、声を出す。あんなに簡単に倒せるなら、何百匹でも仕留められそうだ……。
「ンモオオオオオオオオ!」
暴れ牛がオレに襲いかかってくる!
「うおおおおおおおおお!」
オレは暴れ牛にも負けない大声を出しながら、1匹目と同じく飛び乗る……! 今度は1匹目よりも上手くしがみつくことが出来た! この体勢なら、目玉を容易に刺すことが出来るはず…………だ?
「こ、この牛、眼を閉じてやがる……!」
なんてこった! それはもうガッチガッチに眼を瞑ってやがる! オレは瞼の上から剣を突き刺そうと試みたが、瞼を貫通しそうな様子はなく、全くの徒労に終わった。
「ぐっふうううう!」
しがみ付ききれなくなったオレは、地面に打ち付けられる。当然のごとく、オレの体の上を暴れ牛の大群が通り過ぎていく。
「あああああああああ!」
再び、オレは踏みつけられ、悶絶する。これで体力1しか減らないってマジで詐欺だろ……。
「くっ! 奴らも馬鹿じゃないってことか……。そりゃ、弱点が目だって分かってれば瞑るくらいするよな……」
だが……、それならなぜ一匹目の暴れ牛は目を瞑らなかったんだ……? オレは少し考え込む。そして、一つの答えに辿り着く。
「経験が浅い牛は自分の弱点を知らないんじゃないか?」
若い牛は自分たちの弱点が目だと気づいていなくて、経験のある牛は気づいている。ただ、それだけのことかもしれない。それなら簡単な話じゃないか。若い牛に狙いを絞ればいい! オレは目を凝らし、若そうな牛を探す。……若そうな牛、若そうな牛……。
「ってわかるか!」
そりゃ、子牛と大人の牛くらい見分けはつくが、わざわざ子牛を襲うほどオレは外道ではないつもりだ。だから大人の牛を狙うわけだが……、畜産農家でもないオレが、若い牛を見分けるなんて土台無理な話だった。
「ちくしょー! こうなりゃ、手当たりしだいだ!」
結局、オレは向かってくる暴れ牛に飛び乗っては弱点の目を狙い、駄目そうなら別の牛に狙いを定めるという非効率極まりない暴れ牛狩りをしてしまうのであった……。1時間程暴れ牛との格闘を続けたころだろうか、暴れ牛たちが次第にオレから離れて行った……。
「香水の効果が切れたのか……?」
気付いた頃には、あんなに群がっていた暴れ牛たちは完全に姿を消していた……。
「おーい! 旦那! 終わりやしたか?」
十万エリスで雇った馬車の御者のおっさんが能天気に声をかけて来る。暴れ牛がいなくなって安全になったから近づいてきたのだろう。
「ああ、終わったよ……」
「そいつはご苦労さんでしたぁ。で、収穫はどんなもんですかい?」
オレはピースサインをして答える。
「2匹だ」
「はあぁ、約二百万エリスの儲けじゃないですかい。どうです? ひとつ、あっしに特別ボーナスでも……」
「ぜったい、いやだあああああ!」
「冗談に決まってるじゃないですかい……。そんな食い気味に嫌がらんでも……」
うるさい、今のオレは気が立ってるんだ! なんであんな痛い思いしたのに、金を分けてやりゃにゃあかんのだ! 冗談でもそんなことを口にするんじゃない!
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