第17話 暴れ牛討伐

「よーし! やるぞ!」


 オレは一人、街から少し離れた荒野で気合を入れていた。ついに今から、暴れ牛討伐を始めるのだ。ギルドから借りた馬車は少し……、いや、かなり遠いところに停めてある。雇った騎手……正確には御者のおっさんが万が一にも巻き込まれたくないと言ったからだ……。薄情な奴だ。もし、オレがたくさん暴れ牛を仕留めても特別ボーナスは絶対、出さないからな!


「よし、この辺りで良いだろ」


 オレは布袋から瓶を取り出す。先日、魔道具店ウィズで購入した「暴れ牛を引きつける香水」だ。数滴、地面に垂らす。すると、どこからか地響きが聞こえてきた……。


「ンモオオオオオオオオオオッ!」


 明らかに牛の声だ。やった! おびき出すことに成功したようだ。五百メートルぐらい先だろうか、土煙が上がっている……。土煙は確実にこちらに向かっている。


「よっしゃー! かかって来いやああああああ!」


 オレは雄叫びを上げて、これまた魔道具店ウィズで購入した日本刀チックな剣を鞘から抜き、構える。

 土煙はどんどんオレの方に近づいてくる……。距離は百メートルほどだろうか、牛の姿がはっきりと見えてきた! ……はっきりと、見えてきた……。


「って、ええええええええええええええええ!? 何頭いるんだよ!? それにデカくない?」


 暴れ牛は大群でオレに向かって来たのだ。だが……きっと、大丈夫……。オレには最高の防御力があるからな! クリスいわく、魔王の攻撃にも十回耐えられるって話だからな!

 オレは暴れ牛を迎え撃つ。奴らの動きに合わせて斬撃を繰り出す! 

 いやあ、それはもう華麗に吹っ飛んだね。オレが。


「あああああああああああああああああああああああああああ!!」


 オレの体が暴れ牛の体当たりで宙に舞う。そのまま、地面に落ち、後続の牛たちに踏みつけられる! めちゃくちゃ痛え! ギルドから飛び降りても全くダメージを受けなかったオレの体が悲鳴を上げている。これ、絶対凄いダメージ入ってるだろ! これで十分死ねるだろ! オレは冒険者カードを素早く取り出し、自分の体力を確認した。受けたダメージは1だけだった……。そして、オレが冒険者カードを見ているその時に、その1ダメージは自然に治癒された……。


「なにい!?」


 オレは思わず声を出してしまった。あんなに痛い思いをしたのに1ダメージだけだと!? しかも、すぐに回復してしまった。これじゃあ、オレは死ねない上に、ただただ痛い思いをするだけだ。そんな最悪なことがあるか!

 暴れ牛たちは折り返し、再びオレの方に向かってくる……!


「今度は飛び乗ってやる!」

「ンモオオオオオオオオオッ」


 暴れ牛が唸り声を上げて突進してくる。オレは飛び乗ろうとした、がそんなに格好良く行くわけがない。なんとか暴れ牛の体にしがみ付き、頭に生えた角を掴んだ。


「ンモッ、ンモッ!」


 暴れ牛がオレを振り払おうと頭を上下左右に振り回す! この千載一隅のチャンス、逃すわけにはいかない! オレは最低レベルの筋力を振り絞り、暴れ牛の弱点である眼に剣を突き刺そうと試みる。くそっ! わずかにしか刺さらなかった。「眼の奥までは入りきらなかったか」と思った瞬間、先ほどまで元気よく動いていた暴れ牛がコテンと絶命した。


「ええ……」


 ホントにちょっとしか、1、2ミリくらいしか眼に刺さってないのに……、あっけなく暴れ牛は死んでしまったのだ……。何なの? この世界。

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