第16話 嫌な夢

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 オレ、鈴木和哉は幼稚園の頃に書いた作文を思い出していた。そう、オレはなりたかったのだ。今、秋葉原の電気店のテレビに映し出されている正義のヒーロー『レッドレンジャー』に。


「うっ、うっ」


 オレは年甲斐もなく、泣いていた。親父とおふくろと一緒に過ごしていた幼い頃を思い出して……。そんなオレを不気味に思ったのだろう。オレが殺そうとしていた親子はその場を早足で去って行った。


「なにやってんだよ。オレは」


 オレはまた、独り言を呟く。そう、なにをやってんだろうな、オレは。『弱きを助け、強きを挫く』……。そんな人間にオレはなりたかったはずなんだ。いつの間にこんなに醜く歪んでしまったんだろう……。弱きを助ける人間になんかなれなかった。強きを挫く人間になんてなれるはずもなかった。でも、弱きを挫く人間にだけはなっちゃだめだろ……。……オレは間違いを犯す寸前で、自分を取り戻した。


「でも、このまま生きていても、オレは弱きを挫こうとする最低の行為に、また、走るかもしれないな……。それならいっそ……」


 オレは秋葉原の6階建くらいの建物の屋上に入り込んだ……。ポケットからナイフを取り出す。このナイフの切っ先は弱い者に……まじめに生きている者に向けちゃいけない。せめて、悪い奴に向けてから死なないといけないんだ。悪い奴って誰だ? すぐそこにいるじゃないか。オレだ。オレこそが悪い奴だ。自分の弱さに負けたクソにも劣る悪い奴だ。オレは自分の腹にナイフを突き刺し、屋上から飛び降りた。下に人はいないことを確認して……。最後に映ったのは綺麗な青空だった。都会の青空は汚いと聞いたがそんなことはない。このくだらなくも美しい世界に幸福あれ……。そんなことを祈るくらいしかオレにはできなかった。

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「くそっ、嫌な夢を見たな」


 オレは死ぬ直前の夢を見た。宿のベッドから起き上る。まだ、日は出ていないが準備をしないといけない。


「そうだ、早く死ななきゃなんねえんだ。オレみたいな奴は……」


 また、弱い者を挫く……、そんな最低な行為に走るかもしれないんだ、オレという人間は……。オレの顔は醜くなくなったかもしれないが、魂はもう醜く歪みきってる。だから、今日の暴れ牛ハントを絶対に成功させなければならない。それを足がかりにレベルアップとスキルポイント取得を重ねて、「デス・フェロー」で死んでやるのだ。

 顔を洗って鏡で自分の顔を見る。昨晩初めて自分の顔を見たが、確かに平均より少し男前の顔だ。めちゃくちゃ男前とは言い難いが、昔のオレの顔のように醜いとは到底言えない。そして、目付きが悪かった。子供たちが怖がるわけだ……。

 オレは手配した馬車に乗るため、ギルドに向かった。

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