第15話 お布施をしているだけです

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 ぼく、たなかかずやにはゆめがあります。

 それは『れっどれんじゃー』になって、わるいやつをやっつけることです。

 おとうさんは『かずやならきっと、なれるぞ』といってくれました。

 おかあさんも『かずやはやさしいから、よわいひとをたすけるひとになれるわよ』と、言ってくれました。

 ぼくは『れっどれんじゃー』のように『よわきをたすけ、つよきをくじく』、かっこいいおとなになりたいです。

 ○○ようちえん はなぐみ たなかかずや

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 オレは隙を見て、急須の中を覗き込んだ。


「ええ……」


 そこには色素が抜けきったお茶っ葉らしき物体が入れられていた。そりゃお湯にしかならんわ!


「……何人ここに住んでるんです……?」

「さっきの男の子二人とそこにいる女の子と私の四人で住んでるんです」

「そうですか……」

「みんな、みなしごなんです……」


 アクエリは哀しそうな、優しそうな、そんな目で女の子を見ていた。布の入り口から誰か入って来た……。さっきの男の子二人だ……。


「おかえり」とアクエリが言うと、「ただいま」と男の子たちは答える。

「あ、さっきの怖い人だ」

 男の子の一人が口を開く。誰のせいで怖い顔をしたと思ってるんだ。クソガキめ。

「こら、許してくれた寛大な人になんてことを言うんですか! 見た目は怖いけど良い人よ! 謝りなさい!」


 おい、大道芸少女、それはフォローになってないんだぞ? 男の子はごめんなさいと謝って来た。素直じゃないか……。


「それじゃあ、今日のご飯をいただきましょうか」


 アクエリは小さなパンを五つ出してきた。それを、オレを含めて皆の前に一つずつ皿に載せて置いていく。え、これだけ? しかも『今日の』って言ったか? 一日にこれだけしか食べないのかよ。

「では食べる前にお祈りをするのですよ。アクア様、今日も私達にお恵みを下さりありがとうございます」


 アクエリの言葉を子供たちが復唱する……。オレも慌てて真似した。子供たちは「いただきます」と言って少しずつ食べていく。切ない。オレはパンを譲るべきか悩んだが、口に運んだ。まずくはないが美味くもない。そんな味だった。


 オレは食事が終わると、立ちあがり、この家を後にしようとした。


「それじゃあ、オレはこれで帰りますよ。ごちそうさまでした」

「また、来てください。子供たちも喜びますから……」


 いや、子供たち、また来てくださいって言葉をアンタが言った瞬間にメッチャ嫌な顔しましたけど。傷付くからヤメテ!


「ちょっと、良いですか?」


 オレはアクエリを呼んで、外に連れ出した。子供たちの目が届かない所に。


「これ、お渡しします」


 オレは十万エリスを取り出し、アクエリに渡そうとした。


「わ、私達は物乞いじゃないんです! ほどこしなら要りません!」


 アクエリが拒否する。


「別に恵んでやろうとかそんなんじゃないですよ。今日のパン代と……、そして敬虔なアクシズ教のシスターにお布施をしているだけです」

「…………」


 アクエリが黙り込む。受け取るべきではないと考えているのだろうか……。


「受け取れ!」


 オレは無理矢理アクエリの手に握らせると、その場を走り去った。「ちょ、ちょっと」とオレを呼びとめようとするアクエリの声が聞こえたが無視した。

 そう、ただの偽善だよ。あのまま、何もせずに帰ったら目覚めが悪いと思っただけだ。罪悪感から逃れるために渡しただけだ!

 オレはそのまま、馬車の手配をしにギルドに向かった。

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