第10話 暴れ牛討伐 百万エリス
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オレ、鈴木和哉は高校卒業と同時に親族経営の中小企業に就職した。労働時間はブラックだったが、雇い主の人柄は良く、オレからすれば良い職場だった……。金を貯めて大学に行く……。そんな淡い夢を持ちながら働き始め、3ヶ月が経ったときのことだった。
「おりゃあ! ここに鈴木和哉いう奴がおるやろ!? 出てこんかい!」
突然、ヤクザな男たちがオレを尋ねに職場に突撃してきた……。
「鈴木和哉は僕ですが……」
「おどれが鈴木和哉か! てめえの親父が残した借金、耳揃えて返さんかい!」
意味が分からなかった。親父の借金は法的にはもうオレの責任になっていないと思っていたからだ。ヤクザ達の話を要約すると、どうやら親父は母と別れた後も借金を重ねていたようだ。そして、闇金よりもタチの悪い連中から金を借りていたのだ。
弁護士に相談したが、金のないオレに味方してくれる弁護士はいなかった。後で分かった話だが、オレが相談した弁護士は、依頼を受けるな、とヤクザ達に脅されていたようだ。オレは職場を辞めざるを得なかった。その後、転々と職を変えたが、どの職場でもヤクザ達はオレの勤務先を嗅ぎ付け、顔を出しては返済を求めてきた。悪質な嫌がらせだった。
オレは定職に就くことを諦め、日雇い労働でホームレスのような生活をすることを余儀なくされた。
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「スキルポイントを貯めるには、レベルアップをしないといけないってクリスが言ってたな……」
オレはクリスが教えてくれたことを思い出していた。モンスターを倒したり、特別な料理を食べることでレベルとかいうものが上がり、身体能力が上がったり、スキルポイントがもらえたりするとのことだった。不思議な法則の世界があるもんだな。また、金を稼ぐにはギルドに張り出されている依頼を成功させることで、報酬がもらえるそうだ。オレは早速、ギルドに向かった。
ギルドに到着し、張り出されている依頼を見ると、やれドラゴン退治だの、やれ巨大カエル退治だの、やれ薬草取りだの、様々な依頼が掲げられていた。
どの依頼も最低筋力○○以上の人、魔法が使える人、上級職種の人などを求めており、オレが受けることのできる依頼はなかったのだが……、オレが掲示版を見ているちょうどその時、新たな依頼を受付嬢が貼り始めた……。
『暴れ牛討伐。一体死体を持ちかえる毎に百万エリス』
「お姉さん、この暴れ牛ってのはどんな動物なんです?」
受付嬢が「あ?」みたいな顔をしてオレを見る。そんな怖い顔するなよ……。
「最近この街周辺に群れで集まって来た巨大牛ですよ。肉はかなりの美味。高値で売れるので、ギルドが買い取ります」
受付嬢が不機嫌そうに、ぶっきらぼうに答える。せっかくの美人が台無しだぞ。
「誰でも依頼を受けれるんですか?」
「ええ」
「この牛、どんな特徴があるんです?」
鬱陶しいな、早く消えろ、と言わんばかりの目付きで受付嬢は見て来るが、オレも負けるわけにはいかない。
「突進してきた時の攻撃力は、その辺の上級魔族よりよっぽどすごいそうですよ。ただ、防御力はほとんどないみたいです。特に、急所の目玉を剣で刺せば、駆け出し冒険者でも倒せるそうですよ。刺せれば、の話ですが」
話が終わると受付嬢は早足で持ち場に戻って行った。
「これだな……」
オレは暴れ牛の依頼を受けることに決めた。
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