第6話 盗賊クリスとの出会い
「あれ?」
全く痛くなあい。あの高さから落ちたのに……オレの体はかすり傷一つなくピンピンだった。
「そんな馬鹿な!」
オレはもう一度ギルドの最上階に駆け上がりダイブを試みるが……、結果は同じだった。それでも信じられないオレは何度もシーサイド・ダイブをするが骨ひとつ折れる気配がない。そろそろ周囲にいる人の視線が気になりだしてきた。その頃だった。一人の少女にオレは話しかけられた。
「き、君……、さっきから何やってるの?」
そこには、引きつった目でオレを見るボーイッシュな美人が立っていた……。ショートカットの銀髪、紫色の眼、えらく短いズボン、そして何より整った顔をしていた。整った顔の右頬にはナイフか何かで切られた痕らしきものがある……。美人なのに顔に傷が付いてしまって可哀想だなあと思った。
「自殺です」
オレははっきり、きっぱり、迅速にその少女に答えた。
「じ、自殺って、こんな所でそんなことしたら迷惑だよ!?」
それもそうだ。早く死にたすぎて人の迷惑のことなんて考えてなかった。この少女には感謝しなければいけないなあ。
「ありがとうございます。それじゃあ、山か森かどこか人気のない所に移動してから死にます」
「ちょ、ちょっと、そもそも自殺なんかしたらダメだって!」
「お気持ちはありがたいのですが……、僕が生きていても迷惑をかけるだけなので……」
「そ、そんなこと言わないでよ。そ、そうだ。とにかくギルドで適正を確認してからにしなよ」
「適正?」
「そう! 君も男子だったら冒険者に憧れたことがあるでしょ? ギルドでは冒険者としての資質をカード化して視ることができるの! 死ぬかどうかはそれから決めても良いんじゃないかな?」
「冒険者ぁ? なんです、それ?」
「ぼ、冒険者を知らない? ほ、ほら良く物語とかであるじゃん! 魔王を討伐に行く勇者とか、魔物を倒して人々を守る騎士とか、ああそうだ、宝物を探しに行くトレジャーハンターとかもいるよね!」
ああ、アクアという女神が言ってたな……。この世界には昔、魔王がいて、今は魔族やならず者が幅を利かせているって。そういう奴を倒す役目が冒険者ってわけか……。
「適正を調べるのはやめときます! それじゃ!」
どうせ死ぬんだ。冒険者の適正を把握して何になるってんだ。
「ちょ、ちょっと、ちょっと」
オレはその場を去ろうとしたのだが……、少女はオレの裾を掴んで止める。
「なんです? 僕、急いでるんですが……」
「別にそんなに死に急ぐ必要ないでしょ! それにこの街から近くの森や山に行くには魔物がいる荒野を抜けていく必要があるの! 自殺スポットに到着する前に魔物に殺されるのは嫌でしょ?」
確かに……、オレは自殺はしたいが、殺されるのは嫌だ。街の近くで魔族に襲われて死ぬのは誰かに迷惑がかかるだろう。オレが少しそんなことを考えて思索に耽っていると、少女は突然自己紹介を始め出した。
「あたしの名前はクリス、見ての通り盗賊だよ。盗賊っていっても冒険者の職業の一つで、ホントに人から盗みをしている訳じゃないから安心して」
見ての通りと言われても、全く盗賊感なんてないんだが……。魔族専門の盗賊ということだろうか。
「まあ、取りあえず死ぬにしてもある程度この世界を知る必要があるでしょ? 冒険者適正を調べるくらいしても良いんじゃないかな?」
オレは取りあえず、クリスという少女の意見に乗り、冒険者適正を確認しにギルドに行くことにした。
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