第4話 特典

「は?」

「特典なんていりませんよ? 早く転移してくれ」

「いらないってどういうことよ?」


 アクアは悟った。オレが何を考えているかを。


「アンタ、転移先ですぐ自殺するつもり?」

「え、なんでわかったの?」

「ふざけるんじゃないわよ! アンタ人の話聞いてた!? すぐ死なれたら困るのよ! そんなことされたらまた、エリスに『人間に希望を与えられない駄女神ですね』って感じで嫌みを言われちゃうじゃない!」

「知らんわ」

「こ、この男……」

「とにかく早く転移してもらえます? 転移先でそれはもう華麗に死んで見せますよ」

「そう、なら、アンタの特典は私が勝手に決めさせてもらうわよ」

「どうぞ、ご自由に」

「それじゃ、転移するわね」


 アクアはあきらめたのか、素直に転移させてくれるようだ。オレの足元に光る円が現れる。円の中には幾何学的な模様と何語かは分からないが、文字が書いてある。


「さあ、勇者よ。願わくば、あなたが新たな世界で平和を築くことを祈っています」


 アクアがテンション低い様子で、オレを送り出す。異世界に到着次第、オレは死んでやるのだ。


「あ、そうそう私が選んだ特典だけど……防御力と体力を魔王クラスにまで高めておいたから。あと、治癒能力を限界まで高めておいてあげたわ。やけどや毒を受けてもすぐ治るから」


え? それってまさか?


「どんなに頑張っても死ねないと思うから。精いっぱい苦しんで生きてちょうだい。そうそう、知力は私と同じにしといて上げたわ。感謝しなさい」


 アクアがにこやかに笑顔を作る。


「ふざけんなあああああ!」


 オレは光の中に包まれた。

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