第3話 いりませんよ?

「お、お願いよぅ! お願いだから異世界に行って! このままじゃまたエリスに馬鹿にされるからぁ! 後輩で上司の女神エリスに『お仕事ができない先輩ですね』って言われちゃうからあ!」

「知るか、そんなこと」

「そう、そんな態度を取るのね。じゃあ、私にも考えがあるわ」

「な、なんだよ」

「私が導かなければあなたは生まれ変わることも天国に行くこともできないの」

「は?」


 こいつ、まさか……


「アンタが異世界に行くっていうまで我慢比べよ」




 それからもう、三日三晩ほどたっただろうか、どうやら魂だけになっても精神的疲労というものはたまるらしい。


「はあ、はあ、なかなかに頑固じゃない……」

「お前もな……」


 しんどい! いつまでこんなことを続けにゃならんのだ! だが、意地でも人生をやり直すなんてしたくない……。……そうだ……!


「……オレの負けだ……」


 その言葉を聞いたアクアが嬉しそうに微笑む。


「ついに観念したのね。さあ、異世界に持っていくものを選びなさい」

「その前に、聞きたいんだが……」

「なに?」

「なんで、アンタはそんなにオレを異世界に行かせたいんだ?」

「今からアンタが行く世界はほんのちょっと前まで魔王軍の侵攻によって危機にさらされていたの。まあ、ちょっと前にアンタと同じ日本人を送り込んで、そいつが魔王をぶっ倒した訳なんだけど」

「じゃあ、オレは何をするんだ? というか運動神経皆無、無知無能なオレには世界を救うなんて無理な話なんだが」

「最後まで話を聞きなさいよ。魔王は倒したけど、そのせいで力の弱い魔物が好き勝手暴れ出したり、魔王や魔族を怖がっておとなしくしていたチンピラどもが調子に乗り始めたのよ。で、結局その世界に生まれ変わりたいって人が少ないの。魔王がいたときよりも少ないんじゃないかしら。そこでアンタみたいな他の世界で死んでしまった人を蘇らせて送ることで人口を保とうってわけ」


 元締めヤクザが消えたところでヤンキーたちが好き勝手やってる、みたいなイメージか。どの世界もしょうもないな。それにしても、人間をなんだと思ってるんだ神様は。わざわざ不幸な世界に送り込もうだなんて。まあ、神様に期待なんてしていないが。


「でも、そんな世界にただで行きたがる人間はいないわ。私達としても簡単に死んでもらっちゃ人口が増えないから困るのよ。そこで、色々な特典を与えた上で、転移してもらおうってわけよ。さ、このリストからほしいアイテムやら能力やら選びなさい。どれも反則級の代物よ」


 なるほど、特典で釣って異世界に送っているわけか……。よし、答えは決めたぞ。こいつに嫌がらせをするための答えをな!


「いりませんよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る