第三章 心の壁

 良く晴れた日曜日の朝。

 川市市の特別地域交流課の課長であるユカリは海に近い大型ショッピングモールに足を運んでいた。六月の中旬だというのに非常に蒸し暑く、まだ午前中であるにも関わらず彼の額には汗が浮かんでいた。

 だがいつもと違い、本日の主役はユカリではない。彼の秘書である真壁リンスこそが重要人物だった。

 スタッフテントの中で時折ユカリが声を掛けてはいるものの、普段から裏方に徹している彼女にとっては表舞台に立つこと自体が未知の体験のようで、誰の目から見ても緊張しているのは明らかだった。

 支給されたペットボトルの水は既に空になっており、お手洗いで席を外すこと数回。段取りが書かれたホワイトボードを見つつも、視線が僅かにぶれていた。

 彼女のことだからどれだけ身体を強張らせてもきっと成功させるという、確固たる自信はあったものの、一抹の不安を拭いきれないのも事実だった。

 現在スタッフ用テントには二人しかいない。他の人間はイベントの準備に追われていた。

「リンス」

「…………」

「おーい、リンスさん」

 ダメだ、こりゃ。悪い意味で自分の世界に入ってる。

 あまりに反応がないので静かに頬をつついてみる。ぷにぷにとした感触が心地良く、マシュマロのような弾力がある。しかし、リンスは応えない。

 仕方なく今度は彼女の後方へと周り、両手で脇腹を押した。瞬間一一、

「あっひやぁ!」

 リンスがテントの外にまで聞こえるほど素頓狂な声を上げた。

「何するんですか、マスター! セク、セクハラですよ!」

 取り乱したリンスが頬と耳を赤く染めながら叫ぶ。公のスペースでなければぽかぽかと叩かれていたかもしれない。

「いや、何回も声掛けたのに反応なかったから」

「それでも他に方法があるでしょう!」

「うーん、そこまで言うならしゃーない。終わったら甘いものでも奢るから許してよ」

「むむむ。新しく西橋船に出来たお店のビワのゼリーで手を打ちましょう」

「現金だなぁ。てかリンスは緊張しすぎだよ。失敗しても死ぬわけじゃないんだからもっと気楽にいこうぜ」

「そうは言っても私は一一」

 言葉を詰まらせるリンス。続きは恐らくこうだろう。「大舞台に立った経験がないですから」と。

「確かに気持ちは分かるよ。俺も初めて大人に混じって議論した時や市民の前で挨拶した時なんて胃痛で倒れそうなほど緊張したし」

「私も今そのような気分です」

 か細い声でリンスが言う。

 辛そうな彼女を見ていると支えたい気持ちが溢れてくる。

「でもやってみた今だからこそ言えるけど、ほとんどの人間はまともに聞いてもなければ向き合ってもくれない。真剣に取り組んでも大多数は次の日には気にもとめない」

「しかし悪い出来事は意外と頭に残りますからそれには当てはまらない場合も」

「まあ数日は噂されるかもしれない。でも大抵は自分が気にしすぎてるだけだよ」

「そういうものですか」

「そういうもの。大体俺達まだ高校生なんだし、失敗してもこれからの糧にしてけば良いんだよ。それに今から失敗した後のこと考えてると、体が持たないぞ」

「……はい、確かに。確かにマスターの言う通りかもしれません」

「それにリンスは笑ってる方が似合うよ」

 言い放った途端、不意に沈黙が流れた。直後ユカリは「しまった」と心の中で思った。

 キザな発言を通り越して落としに掛かっているように思われても仕方のない内容だ。ユカリにしてみれば本心から出た言葉なのだが、いくらなんでもタイミングが悪かった。

「マ、マスター。それは、その。どういう意味で一一」

「ごめん、俺ちょっとトイレに行ってくるわ。すぐ戻るから!」

「え、あの、待ってください、マスター!」

 リンスの制止を聞かず逃げるようにテントから出る。

 そのまま建物の中へと入り飲食店が連なる一画へと飛び出すと、耳は溶岩のように熱を帯び、心臓は凄まじい速度で高鳴っていた。お腹の奥が締め付けられる感覚に苦しみながら木製のベンチに腰を下ろし、額に手を当て天井を仰いだ。

「やっちゃった」

 リンスにお礼や行動を誉めることはあっても、容姿や彼女らしい一面に触れることは稀だ。身近に居るからこそ関与するには難しい箇所があるのだが、先程の台詞は完全に素の思いだった。それ故一切の躊躇がなく、理性のフィルターをすり抜けてしまった。

「あー、どんな顔して戻ればいいんだ……」

 後悔だけがしんしんと心に降り積もっていく。ただ失言に何時までも踊らされるほどユカリは弱くなかった。

「言ってしまったものは仕方ない! それよりも早く戻ってリンスを支えないと」

 隣に座っていた一般客に怪訝な顔で見られるも気にせず立ち上がる。そしてユカリはまず自分がやらないといけないことを果たす、と言わんばかりの表情で便所に向かった。


             ★


 顔が熱い。また呼吸が荒く、胸が締め付けられる感覚がする。しかし、次から次へと押し寄せてくるチョコよりも甘い幸福感がリンスの気分を昂らせた。

 言うと決意し思考を通して紡がれた言葉はどんなに良い意味でもわざとらしさがある。それが甘美な響きを持ち、心を震わせるワードであれば尚更だ。だが、ユカリが放った一言は何も考えずに出たもので、リンスを魅了するには充分だった。

「全然集中出来ません……」

 イベントまで三十分を切っている。ショッピングモールには既に何度もアナウンスが流れており、時折スタッフがテントの中に来ては外の様子を伝えてきてくれている。リンスが緊張していると思うや否や声掛けしてくれるスタッフの心遣いが有り難かった。

 しかしながらリンスの心に催しへの危機感はあまりなく、先程の自らの主人が述べた一言のみが気になっていた。

 笑っている方が似合う。

 初めて人から言われた言葉だった。リンス自身もそもそも自分があまり笑っている印象はなく、どちらかと言えば無表情なことが多いとさえ思えた。だからこそ笑顔になる時に印象が強くなるのかは分からない。ただ、彼が「似合う」と言ってくれたことが重要だった。

 リンスは主人のことが好きだ。それも友達や親へ向ける好意ではなく、恋人が持つ愛に近い。普通の高校生であれば、とっくに告白を経て人が羨む関係になっていたことだろうが、秘書と雇い主の関係である以上、彼と結ばれることはご法度だとリンスは決めつけていた。彼に想いを伝えるのは自分が仕事を辞める時。そう決心していても心が揺らがない訳ではなかった。

「どうしよう……」

 どれだけ気を集中させようとしても頬が緩む。雑念が混じる。

 このままでは失敗するのは火を見るよりも明らかだった。

「お邪魔しまーす一一って、貴女そんな浮かない顔をしてどうしたの?」

 気分が沈んできたところに珍客がやってくる。リンスにとっては全くもって視界に入れたくない人間だったが故に、確認した途端顔が全力で拒否反応を示しかけたがどうにか堪えた。

「い、いえ、何でもありませんよ。それこそヴァイザーさんはどうして此処に?」

 一呼吸遅れてやって来たエルナのお付きであるジークには軽く会釈してからリンスは言った。すると、その質問を待っていたと言わんばかりに胸を張るエルナ。リンスから挨拶がなかったことは特に気にしてないようだった。

「偵察よ、偵察! 貴女達が普段どんな活動をしているか見に来たってわけ」

「お忙しいところ大変申し訳ありません。スタッフの方にはお話を通してありますので、どうか私達のことはお気になさらず」

「そうね! 私達のことは一般市民AとBだと思って接しなさい! あとこれお土産の梨のコンポートを使ったタルトよ」

「は、はぁ。ありがとうございます」

 エルナらしからぬ行動に困惑しながらもタルトの入った箱を受けとる。袋の中にドライアイスが大量に入っているおかげで長時間持ちそうだった。意外と気配りが良いことにリンスは再び驚いた。

「ところでアイツは?」

「マスターならお手洗いに行っています」

「あら、イベントの開始時間まであまり間がないでしょうに。本当無能はこれだから困るわね」

 彼女が言い放った瞬間、リンスのこめかみに微弱な電流が走った。エルナが暴言を吐くのはいつものことだが、今日だけはやけに癇に障った。

「どういう意味ですか……?」

「どうかしたの? あぁ、もしかしてアイツを無能扱いしたのが許せなかった?」

「それ以外に何がありますか。マスターは優秀な人です。主人を馬鹿にされて黙っていられる従者なんていません」

 必死に怒りが表に出ないように精一杯制御する。これが公な場ではなければ既に掴み掛かっているところだ。

「エルナ様、言葉が過ぎます。私達は今日お邪魔している立場ですよ。言葉を慎んでください。真壁様、大変申し訳ありません」

 雰囲気が険悪になり掛けるや否やジークが間に入り、リンスに向かって深々と頭を下げた。

 角度まで計算され尽くしたかのような丁寧なお辞儀に圧倒されてしまう。だが、エルナの暴言が原因で彼が謝るのは筋違いだとリンスは思った。

「あ、頭を上げて下さい! そこまでされなくても私は大丈夫ですから!」

「ですが、主人を思いやる気持ちは私には大変理解出来ます。エルナ様を馬鹿にされれば私も同様の態度を取るでしょう。また主が他人を貶めたとあっては、責任は止められなかった私にもあるのです」

 これまた難儀な性格ですね! やはり文化の違いはこのような場面でも出るものなのでしょうか!

「本当に大丈夫ですから。逆に気を遣ってしまいます」

「大変申し訳ありません」

 渋々頭を上げるジーク。凛々しい顔立ちながら信念を曲げない図太い精神を持っている。エルナの側近はこれぐらいの精神力がなければやっていけないのかもしれない。

「そうよ。私は本当のことを言っているのだから貴方が謝る必要なんてないわ」

「でしたらエルナ様が?」

「はぁ? どうして私が謝罪しないといけないの。冗談じゃない」

 やっぱり頭おかしいですよ、この人。

「エルナは変人だからこんなことでストレスを溜めるのは無駄だ」と、自分に言い聞かせどうにか苛立ちを抑える。数度深呼吸を挟み、掻き乱された精神に対して慌てず対処した。

「大丈夫ですよ、ジークさん。私は気にしていません」

 嘘だ。本当は今すぐにでも八つ裂きにしたい。

「本当に申し訳ありません」

 今一度頭を垂れるジーク。しかし今度はすぐに頭を上げた。

 不意に彼と目が合う。澄んだ綺麗な瞳の中には一貫した強さがあり、何故だか背筋に悪寒が走った。更に脳を揺さぶられるような感覚と同時に目眩に似た錯覚を覚える。

「貴方は人に頭を下げすぎよ」

「エルナ様はもう少し人を敬ってください」

 二人の問答を聞いていると先程の緊張が霧散しているとに気付く。

 いけない。緊張し過ぎは良くないが、全くないのもそれはそれで良くない。適度な緊張感こそ行動には必要だと私は思う。

 気を取り直し、時計を見ると時刻はイベントの約十分前となっていた。そろそろスタッフがリンスに力を促す時間だ。

「すみません。もう少しでイベントが始まりますので、一旦テントから出て貰えますか?」

「ああっと、申し訳ありません。もうそんな時間ですね。ほらっ、行きますよエルナ様!」

「はぁ! まだ話は終わってないわよ!」

「いえ、終わらせた訳ではなく、今真壁様がお仕事の準備をするので一度外へ」

「……仕方ないわね、行きましょうか。でも、無能を無能扱いして何が悪いのよ。アイツは害虫にも劣るクソみたいな奴だわ。私にとって最低最悪」

 出ていこうとするエルナの言葉を聞いて今度こそ頭に血が上った。直ぐにでも飛び掛かり、罵倒し、殴りたかったが今は仕事中という意識がセーフティとなった。

「ま、約束も守れないような奴が今の大役勤まると思えないし、そのうちボロが出ても可笑しくないわね」

 エルナが背を向けながら言い放つ。

 約束? 約束って何? マスターとこの人は以前からの知り合い?

 たった一言で頭の中が狂ったかのように反転し乱れた。それこそ視界の中の隅で謝り続けるジークが気にならないくらいには。だからこそ一一、

「約束ってなんですか」

 反射的に口に出してしまうのは仕方ないことで、

「貴女には関係のないことよ。あんなクズとの話なんて」

 彼女の返答にとうとう堪忍袋の緒が切れるのも当然だった。

 理性という鎖が切れ、頭の中にあった感情がぐちゃぐちゃと入り混ざり爆発した。

「マスターを、マスターをバカにするなぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!」

 瞬間、リンスの世界が黒く染まった。


             ★


 トイレで用を足し間を開けてしまうと、先程の信念は根本からポッキリと折れてしまったようで、未だにユカリはアウトレットモールの一角をぶらついていた。特に欲しいものもなく、雑貨屋と時計屋を廻り結局元居たベンチに戻ってきてしまった。

 休日によるせいか人が多い。その中には魔族や勇者の一族も含まれたが、ただの人間に比べれば極々少数だ。周りもあまり気にしてないようで何よりだ。

 やっぱこういう関係が良いよなー。

 特別仲良くしろとは言わない。最低限その人種が居るだけで訝しげな視線を送られなかったり、文句が飛んで来ない関係を構築したい。しかし、意外とそれが難しい。

 魔族の中には人の形を保ってない人もいるしなー。偏見は人それぞれで周りがどうこう口出し出来る問題じゃないし。

 通行人が正面を通る度に思いを巡らせていると、突如莫大な魔力が膨れ上がるのを感じた。しかし別段驚きもせず、ただただ腕時計に視線を落とす。

「やっば! もう始まる時間だ。全然気付かなかった」

 ベンチから離れ、急いでスタッフテントへと向かう。本件にユカリは絡んでないとはいえ、普段サポートして貰っているリンスを蔑ろにしたとあっては主人失格だろう。

「もう始まっちゃってるなぁ。急がないとヤバイな」

 自身の心の弱さを後悔しながら走る。

 人の波を掻き分けながら走っていると辺りの建物の壁や地面が徐々に何かに犯されているように変化していた。姿形が変わるものがあれば、色合いだけが変わっているものがある。前者は店の看板や証明、柵。後者はエスカレーターに窓ガラス、床といった具合だ。

 人が周囲の変化に気付き、ざわつき始めたところで更にスピードを上げる。スマホで録画する者、SNSに投稿する者、単純に歓声を上げるものとそれぞれだが、反応が聞こえてくる度にユカリの心は高鳴った。

 リンスの力が人にウケている。それだけのことがまるで自分のことのように嬉しかった。

 正面の自動車侵入防止用の鉄棒がメルヘン溢れるチョコレート型の棒へと変化していたが、気にせず脇を抜ける。そして地面から飛び出てきている直方体の壁を飛び越えると、テントまで一直線に向かった。

「ふぅ、危なかった」

 目的地目の前まで来ると、周囲の変化がより明らかになっていた。眼前には童話の世界に迷い混んだようにファンシーな世界が広がっており、アウトレット奥の広場だった場所には小さめな西洋風の城が。そこに至る経路は約2メートル程度の蔦で出来た壁が出来つつあった。スタッフテントもすっかりチョコやクッキーのお菓子に侵食されている。

「な、何よこれ!」

 不思議と知っている人間の声がした。同時にこれから起こるであろう厄介事に頭痛がした。

「凄まじいですね。何もかもがスケール外です」

 今のはジークさんか? それなら俺がしゃしゃり出る必要はないよな。

 ユカリはそっと踵を返すと現場から離れようとした一一途端、

「ぐふぇ!」

 何者かに首根っこを掴まれ無理矢理引き寄せられた。

「何しやがる!」

「それはこっちの台詞! どうして逃げるのよ!」

「お前との間に良い思い出がないからだよ!」

 案の定エルナだった。

 異変についていけてないのか若干焦っているようにも見えた。

「何よこれ! 説明しなさい!」

 知らないでここにいるのかよ!

 ユカリは心の中で激しく突っ込むと黙って上方のスピーカーであったものを指差した。

「ただの古時計じゃない!」

「もうちょい待て」

「何なのよ一体!」

 腕時計に目をやり秒針が12に辿り着くまで待つ。そして、時計が11時を示した瞬間、頭上の時計の上部が横に開き、見るからに作り物の鳩が姿を現した。

『皆様、大変長らくお待たせしました。これより張幕アウトレットモール大迷路大会を開催致します!』

「大迷路大会ぃ?」

 隣のエルナが素頓狂な声を上げる。

「お前本当に何も知らずにここに来たんだな」

「良いじゃない、別に! ジークは把握してるわよ!」

「エルナ様。そこは威張るところではありません」

 確かに。

「う、五月蝿いわね。」

『ルールは簡単。制限時間一時間以内に迷路を踏破し、皆様の前方に聳え立つお城に入り、宝箱を開けること。見事宝箱を開けることが出来ましたら豪華景品を差し上げます!』

「何だ、簡単じゃない」

 腕を組ながらエルナが言う。反対にジークは右手を顎に当てて考え込んだ。単調で豪快なエルナと慎重で思慮深いジーク。対照的である。

『この迷路にスタート地点はありません。皆さんが今居る場所こそがスタート地点となります。スタート地点はバラバラですが、開始位置によって不公平にならないような構造となっておりますのでどうかご安心を』

「そんなことってある? どう考えても近い方が有利でしょ」

「それはどうでしょうか。予め構築されていた建物なら兎も角、これは真壁様が創られた迷宮。壁の操作も自由自在なのではないでしょうか」

「どうだか」

 軽くあしらうエルナ。恐らくジークの言う通りなのだろうだが、何も知らない参加者には彼女と同じ意見を持つものも少なくないだろう。こういう点は次回への反省点だろう。

 後でリンスに伝えておこっと。

『不参加、若しくはリタイアされる方は大変お手数お掛けしますがその場で両手を高くお挙げください。出口が自動的に現れます』

 聴いてエルナが手を上げた。何も出なかった。

 憤慨するエルナに続いて今度はジークが両手を上げる。すると正面の蔦の壁が光った。それもこちらが安心する場所なのだと伝えるような柔らかな光り方をしていた。

「なるほど。あそこから出れば迷路の外に出られるというわけですか」

 納得したのかジークが言う。

「ちょっと! 私の時は出なかったのだけれど一一もひゃ!」

 エルナが憤慨するや否や彼女の顔面に何処からともなく飛来した板チョコが直撃した。

「にゃによこれ!」

 赤くなった鼻を押さえながら、割れてしまったチョコを拾うエルナ。ただし彼女が注視しようと顔の前に持ってきたところで光の粒子となり消えてしまったが。

「どうやら現実のものではなく、真壁様が創られたもののようですね」

「私が何したって言うのよ! これだから貧乳一一はぎゃあ!」

 今度はエルナの居た地面だけ消失し、残念な悲鳴を上げながら奈落へと落ちていった。

「大丈夫ですか、エルナ様」

「無事なわけないでしょ、何なの本当に!」

 瞬時に主人の安否を確認し穴から引き上げようとするジークに感心しつつ、ユカリもそっと穴に近付く。深さはそうでもなかったが、突然消えたのが問題だったようで喋らなければ美少女に見えるかもしれないエルナも胎児のように穴の中で丸まっていた。

「あーもう、本当に最低ね!」

 ジークに手を借り脱出したエルナが髪や衣服に付いた砂を払いながら騒ぐ。

「なぁ、エルナ」

「何よ!」

 エルナが叫んだ途端、今度は空から鳩が集まり彼女に襲いかかった。

「何!? いたっ、いたたっ! 何なのよもうー!」

 数十秒ほど頭を中心に攻撃し満足したかのように散っていく鳥達。反面エルナは更にボロボロになっていた。綺麗にセットされていた金の髪など見る影も無いくらいに。

「大丈夫か?」

「先程も言ったけれど、これが問題ないように見えて!」

「そりゃそうか。それよりお前リンスと今日会った? あと怒らせるようなこと言った?」

「会ったわよ。怒らせたかどうかと言えば……まあ、怒らせたかもしれないわね」

「いえ、完全に真壁様の逆鱗に触れていましたよ」

 歯切れの悪い暴君の言葉に御付きが付け加える。それを耳にしてユカリは納得がいったように首を二度縦に降った。

「あらら、それなら仕方無い。自業自得だ」

「どういうことでしょうか」「どういうことよ!」

 二人同時に食い付いてくる。ユカリは圧倒される気持ちをリセットするために一度咳払いをした。

「リンスは≪デモンズウォール≫という魔族の子孫なんだよ」

「デモンズウォール?」

 パッと思い付かないのも無理はない。魔族の中でも非常に稀有な存在だ。

「魔王の居住地を守る為の迷宮を管理し、侵入者を排除する存在。かつては魔王の守護者として一番位が高かったから、今でも信頼が厚くてリンスの父親は市長秘書を勤めてる」

「侵入者を排除する……。つまり真壁様は迷路を構築するにあたりエルナ様を敵として認識したと」

「そういうことになりますね。リンスが迷路を展開している間はリンスが創り出した全てのものが攻撃してきます。しかも今回は時間制限があります」

「時間が何か関係があるのですか?」

 ユカリは一瞬黙る。

 見たことはない。しかし酔っ払った父親の証言や文献で確認したことがある。ある程度確証がある以上、伝えることは問題ないだろう。

「恐らくですが、イベント終了時にエルナが迷宮を突破していない場合、周囲の壁が迫ってきて潰されるでしょうね。それもエルナだけ」

「はぁ! ふざけんじゃないわよ一一」

 ユカリに向けた文句を遮るようにエルナの顔に隕石の如く高速で飛んできた林檎がめり込む。流石の彼女も悲鳴を上げる時間も貰えなかったようでふごふごと謎の言葉を発しながら仁王立ちしていた。

「どうやら市河様や真壁様に文句や危害を加えると罰が飛んでくるようてすね」

「冷静に分析してないで少しは心配しなさいよ!」

 鼻血を垂らした少女が叫ぶ。

「ですが自業自得ですし」

「うっ」

 核心を突かれエルナが一歩引く。

「だから言ったのです。もう少し人を敬ってください、と。人を信用しないエルナ様のスタンスにケチを付けるつもりは毛頭ございませんが、誰彼構わず敵を作る必要はないでしょう」

「ううっ」

 更に一歩下がる。ジークの勢いに完全に気圧されていた。

「肉体を鍛えることはご立派ですが、心を育てる努力もしてください。エルナ様が大人になった将来苦労しないように」

「う、五月蝿いわね! 苦労なら今してるわよ!」

 そこは威張るところなのか?

 二人の話に敢えてついていかず、ユカリはお菓子の家へと足を向ける。

 リンスについて情報を与えたのだ。最低限の責任は充分に果たしたと言えるだろう。ここで姿を消したとしても後々文句を垂れ流される程度で済むはずだ。

「逃げるなぁ!」

「ぐぅっふぇ!」

 暴君に気付かれてしまい、腕で首を引き寄せられロックされる。

「何で逃げるのよ!」

「逃げてねーよ! 退避してるだけで!」

「暇なら私に付き合いなさい!」

「暇じゃないからお断り一一ちょ、ヤバ、ヤバいって!」

「はいかイエスと言うまでこのままよ!」

 酸素を絞られ続け、着実にユカリの顔が硬直していく。体が密着すればそれだけエルナの豊満な胸がユカリの背中に当たるが、生きることに必死で二人は気付かなかった。ユカリを攻撃している反面、彼女もまた鳥からの妨害を受けているのだ。

「分かった! 分かったから! 手伝う、手伝うよ! だ、から、早、く!」

「ふんっ、最初からそう言えば良いのよ」

 怪力から解放され反射的に首に手を当て擦る。無論折れているわけではないが、そう思わせられるほど凄まじい力だった。

「結局力で解決ですか」

 嘆息するジーク。自身の説教が全く為になっていない現実に落胆しているようでもあった。

「始まって五分。まだまだ挽回出来る時間ね」

 どうやら先程までの騒ぎで気づかなかったが既にスタートは切られているようで、所々から歓声が聞こえてきた。喜びや驚きが入り混じっていることから今のところイベントは大成功のようだ。

「待ってなさい真壁リンス! 私を虚仮にした報い晴らして上げるわ!」

 俺やっぱ帰って良いかな?

 これから起こりうるであろう至極面倒な未来にげっそりとする男性陣に比べ、唯一の美少女は間違った闘志を燃やし、眼前の城を見据えていた。


 ★


「痛っ、いたたたたっ! 髪引っ張らないで! 痛いのよ、もう!」

「ほら離してやるからじっとしてろ」

「離すならまず噛み付いてる奴から一一って、どこ触ってるのよこの兎は!」

「暴れないでくださいエルナ様。余計に抵抗が増します」

「あぁ、もうなんなのよー!」

 エルナの怒りが響き渡る。

 迷路大会が開始してはや三○分。開始地点よりは進んではいるものの、ユカリ達は次から次へと襲いかかる妨害に四苦八苦していた。狙われているのはエルナだけなのだが、分かっていても小動物や植物の攻撃は回避し辛かった。その為、他の参加者にかなり出遅れてしまっている状況である。

 しかしながら悪いことばかりではない。暴君に群がる兎や鳥を見て子供も集まってくるのだ。嫌がる本人そっちのけで喜ぶ光景は割と奇妙だが、微笑ましく感じてしまうのも事実である。

「あぁ、もうやっと取れた。あと何分残ってるの?」

 胸にダイブしていた最後の兎を男の子に渡し、乱れた髪を手で鋤くエルナ。明らかに疲労しているようで全身から疲れが伝わってきた。

「三○分。いえ、正確に言えば二十九分でしょうか」

「スタートに出遅れたこともあって、意外と残ってないわね。こんなペースじゃとてもじゃないけどゴールなんて無理よ」

「じゃあ、どうするんだ? 観念して押し潰されるか?」

「面白い冗談ね」

 クスリと笑って彼女は付近の子供達を離れるように促した。そして、目的地を正面に見据えて植物の壁の前に立つと呼吸を整え始めた。

 何する気だ、こいつ。

 嫌な予感を察してユカリもまたエルナの後方へと退避する。既にジークは彼女が何をしでかすか大体把握しているようで子供達の側へと移動していた。

「はああああああああぁぁぁぁぁぁ! せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 耳をつんざくような咆哮と共に彼女の拳が前方の壁へと放たれた瞬間、空気が炸裂し植物が見事に弾けとんだ。

「ま、ざっとこんなもんね」

 衝撃の余波が飛び、堪えきれず尻餅を付いてしまう。また、迷路という存在を根幹から揺るがす行為に創造したリンスも対応出来なかったのか、壁があった場所には大穴が開き大人が余裕で通れる道へと化していた。

 子供達やその背後にいた親達は未だに微動だにせず固まっている。迷路大会という意味が分かっていれば当然の反応だろう。

「エルナ様」

 彼女が愚行を働いてから初めて声を掛けたのはジークだった。

「何よ」

「これは迷路大会ですよ」

「知ってるわよ」

「穴を開けて突破するのはルール違反では?」

「壁を壊してはいけないとは聞いてないわね」

「その理屈ですと明示していないルールは何でもありになってしまいます。壁を飛び越えたって良いわけですし」

「なるほど。貴方相変わらず頭が良いわね」

「駄目ですよ! 細々と決まりを定めないのは、ただただ運営が想定していない可能性もありますが、恐らく参加者の善行に期待しているからでしょう。リンス様が携わっている企画で想定していない訳ありません。ですからーー」

「『ですから』、何? 貴方、このまま間に合わなくて私に押し潰されろって言うの?」

 ジークが絶句する。

 良心と忠義の間に揺れているのか、フリーズしてしまっていた。

「ま、でも今回は素直にそのアドバイスに従っておきましょう」

「! エルナ様」

「壊して進むのも目立ってしまうもの。こんなイベントで志野習の品位を下げるわけにはいかないし。それにあの子なら」

「エルナ様?」

「いえ、何でもないわ」

 言い終えた途端、反転して怯える子供達の方へと近寄った。そして目線を合わせる為にしゃがむと、とても優しげな口調で言葉を紡いだ。

「驚かせてしまってごめんなさい」

 たった一言だけ放ち、エルナはその場を離れる。ジークとユカリは酷く珍しい光景に二人してお互いの顔を見つめた後、彼女と同じように子供達と親達に謝罪しエルナの後を追った。主人のことが気になるのか、ユカリよりもジークの方が先行して。

 角を曲がると直ぐに彼女の背中を発見した。先程の愚行でより警戒度が上がったのか、壁の蔦が体の至るところにまとわりついている。

「エルナ様?」

 ピクリとも動かない彼女に怪訝な表情を浮かべるジーク。そして、その場で何かを呟くエルナを心配するように近付いた途端、

「あははははははっ! こんな簡単なことに気付かないなんて私もどうかしてたわ!」

 エルナが壊れた。いや、それはいつものことか。

 突拍子もなく高笑いをする金髪美少女にドン引きしているのか、彼女に絡み付いていた蔦も緩んでいるようだった。

「ジーク。人に迷惑を掛けず、それでいて壁を壊すよりも楽に踏破出来る方法を見付けたわ」

「本当ですか! 流石ですエルナ様」

「冷静に考えてみればどうして気付かなかったのか不思議なくらいだけどね」

 言って、エルナがこちらに近寄ってくる。とてつもなく嫌な予感が背筋を駆け抜け無意識に後退りしてしまう。

 彼女の瞳は餌を見付けた狩人のような目をしていた。

「お前、まさか、ふざけんなよ」

「ふざけてなんかいないわよ。だって貴方はあの子の大切な人間だもの」

「さっき人に迷惑掛けないって」

「貴方は人ではないでしょう」

 暴君が暴言を放つや否や強烈な不快感がユカリを襲った。

 防衛本能が全力でこの場を立ち去ることを促すが体が言うことを聞かない。それどころか指一本動かすことが出来ない。額から汗が吹き出し膝が笑う。胃は既に悲鳴を上げており、嘔吐寸前だった。

 殺気。

 エルナが本気で向ける殺意の前にはユカリなどその辺の石ころ同然だった。

 この瞬間、初めてユカリはエルナの恐ろしさを知った。

 エルナが静かに近寄ってユカリの横に立つ。たったそれだけの行為にユカリは死をも覚悟した。

「真壁リンス。聴いているのなら蔦の攻撃を止めなさい」

 酷く冷たい口調で命令する。

 しかし蔦は離れない。しかもより拘束力が強くなったようにユカリには見えた。

「なるほどね」

 嘆息するや否やエルナが人差し指をユカリの喉元に突き付けた。綺麗に手入れされた爪が皮膚に食い込んでくる。チクリとした痛みに身体全体が強張った。

「もう一度言うわ。蔦の攻撃を止めなさい」

 今度は即座に彼女をまとわりついていた蔦が離れる。

 ようやくユカリは理解した。

 自分は人質なのだと。

 リンスの足枷にすることによって行動を制限する。限りなく卑怯なやり方だった。

「志野習の品位云々は何処にいったんだ?」

「こっちは命が掛かってるのよ。背に腹は代えられないわ」

「そりゃそうだろうけど、もうちょっとやり方ってもんが」

「五月蝿いわね。殺されたくなければ黙ってなさい」

 更に爪が食い込む。皮膚が切れた感覚はないが、僅かな痛みが断続して発生した。

「私の要求は1つ。ゴールへの扉だけ。言うことを聞かなければこいつを殺す。扉をくぐった先がゴールで無くてもこいつを殺す」

「そんな無茶苦茶な」

「無茶苦茶でもなんでもやるしかないのよ。さあ、どうするの!」

 エルナが叫んでから十数秒。向かって左側の壁が光始めた。

「聞き分けが良いわね」

 言って、光源に近付く。但し、決して入ることはなくユカリに対する殺気もそのままだ。

「ねぇ、貴方」

「今の言い方だと俺が夫みたいだから止めろ」

 殺気が強まると同時に、後ろから兎に頭を叩かれた。

「本気で殺すわよ、クズ」

「わ、悪かったよ。で、何だ?」

「開始時にスタッフが言ったことを覚えているかしら?」

「んー、正直重要なところしか。制限時間とか棄権の仕方とかくらい」

「その棄権の仕方について覚えてる?」

「それくらいは当然だろ。こう両手を上げるだけだろ」

 ユカリが万歳する。但し、周囲に変化はなく帰りの道が現れることはなかった。

 目の前にもう扉があるからかな。

「おかしいと思わない?」

「何が?」

「本当無能ね貴方。どうして両手なわけ? 右手か左手で良いじゃない」

「そりゃ片手だと紛らわしいからだろ。連れの人に位置を知らせたり、それこそ子供はよく手を上げるし」

「そんなの手を上げる時間で幾らでも調整出来るでしょう?」

「……何が言いたいんだ?」

「察しが悪いわね」

 彼女が溜め息を吐くと同時に聞き覚えのあるSNSの通知音が鳴った。二人して自らのスマホを確認するがユカリには通知はない。

 ユカリはスマホをポケットにしまうと、デニムを伝い腰まで登ってきた兎を拾い上げ、頭を撫でながら暴君がスマホのメッセージを確認するのをじっと待った。自身の予想が的中していたのか乱暴者が不敵な笑顔を浮かべた。

「ふふっ、私ってやっぱり天才ね」

「きもっ」

 顔に痛みの塊がめり込んだ。

 目の前がチカチカする錯覚と鈍痛の連続に悶えるていると首を腕でホールドされ、何処かに引摺りこまれる。

 そして解放され、視界が戻ってきた時には部屋の中へと居た。殴られた衝撃で両手を離してしまったせいで兎もいなかった。

 部屋は王の間をイメージしているのか、入り口から玉座へ掛けて赤い絨毯が敷かれており、その中腹には数段段差がある。現存する中世に建てられた城が同様の造りなのかは分からなかったが、創作物に出てくるものと比べ遜色なかった。

「へぇ、すげーな」

「この努力をもうちょっと迷路の方に活かせなかったのかしら」

「そう言えば、結局正解って何だったんだ?」

「貴方見てなかったの? 本当に無能ね」

「お前が殴ったんだろ!」

 やれやれ、と言わんばかりに暴君は腰に手を当て口を開いた。一ミリも責任を感じて無さそうな態度にユカリはムッとした。

「そもそもこの迷路大会可笑しいところが幾つかなかった?」

「いや、あまり」

「だから貴方は無能なのよ」

 こいつの中で俺が無能で定着しつつあるな。鬱陶しい。

「『スタート位置はバラバラだけど、開始地点によって不公平は出ないようにしている』と、いうアナウンスを聞いて私は言ったわ。『そんなことってある?』って」

「あー、リンスが迷路を操作してるんじゃないか、って結論が出た話か」

「そう。でもその結論って私達が彼女がそういう力を持ってると知ってたから導き出せた答えでしょ。でも一般人は違う。そんなことは分からない。人によって感じ方は違うけど、大なり小なり不公平感は感じるんじゃないかしら。でもそこがミソなのよ」

「と、いうと?」

「そこから先は自分で考えなさい。私は無能な貴方に時間を割くほど暇じゃないの」

 突如エルナが放つ自分への殺気が消える。

 ふと彼女が向ける方向に向けると玉座の横に怪物と呼ぶべき存在が立っていた。全身灰色で生物の質感はまるでない。完全に無機物。唯一人間との共通点は四肢があり二足歩行であるところだが、何処にも顔らしい顔がなく、ましてや言葉が通じるとも思えたかった。

「こいつがボスって訳ね。分かりやすくて助かるわ」

 ストレッチをしながら化け物に近付いていくエルナ。脳筋に磨きが掛かっているようで恐れや驚きといった感情は一切見られなかった。

 エルナが不敵に笑い怪物の懐に飛び込む。反応に遅れたを見下すように一旦溜めを作ると、空気を切り裂く轟音と共に神速の右拳を打ち出した。

「っ!」

 ユカリはエルナの勝ちだと思った。

 瞬きを挟む前までは。

 しかし現実は彼女の方が吹き飛ばされ、横の壁へと叩きつけられていた。

「あ、がっ!」

 モンスターは攻撃をしていない。突如エルナが叩き付けられた壁とは反対の壁の一部が彼女の攻撃を予想したかのように凄まじい速度で飛び出てきたのだ。

「やってくれるじゃない!」

 瓦礫の破片をポロポロと落としながら立ち上がる。攻撃が当たる瞬間に聖気で保護したのかあまりダメージは無いようだった。

「建物そのものも敵って訳、ねぇ!」

 再度玉座前の怪物に襲い掛かる。しかも彼女に向き合いもしない敵が癇に障ったのか直線的に。

「それは読めてたっ!」

 今度は床が迫り出す。しかし、四角形の隅がエルナの顎にぶつかる瞬間、急ブレーキを掛け上半身を僅かに後方に反らした。

 床が空を切る。同時に暴君が勢いを取り戻し壁の化身へと距離を詰める。

 だがこの空間もただ相手の行動を見ているわけではない。次から次へと少女に壁を使った攻撃を仕掛けた。

 それを反転。跳躍。静止。再加速。と、筋肉への負荷を無視しながら回避していく。しかし相手も間合いを保つために次から次へと攻撃を仕掛ける為、お互いの距離が詰まらない。

 間合いを縮めたいエルナと維持したい怪物。壁の攻撃をあの異形が行っているのかはユカリには分からなかったが、そういう風に見えた。

 戦闘の余波に巻き込まれないよう少しだけ距離を取り思考する。考えることは先程の暴言との話の続きだ。

『スタート位置はバラバラだけど、開始地点によって不公平は出ないようにしている』、か。

 流石に答えとなる道を通ってきたこともあり、エルナのヒントもあってか大体解答に行き着いている自信はある。

 スタート位置がゴールへの距離に関係無いとなると、誰もが直ぐにゴールへと辿り着くことが出来るということだ。そしてその手段のヒントは運営が示してくれている。

『不参加、若しくはリタイアされる方は大変お手数お掛けしますがその場で両手を高くお挙げください。出口が自動的に現れます』

『それおかしいでしょ。どうして両手? 右手か左手で良いんじゃない?』

 つまり片手を上げることでゴールか出口が罠への道が開かれる仕掛けなのだ。それも紛らわしさを解決するために数秒から十数秒程度継続して。両手を上げた後にアクションを起こす可能性も考えられるが、それは間違いであることをエルナが身をもって示している。

 まさか試しにやってみたことで正解に辿り着くとは。

 ただそれだけであれば迷路の意味は皆無である。もしかしたら迷路の何処かにヒントが隠されているのかもしれない。だがそれを確かめる時間がなかった訳だけに当てずっぽうになってしまったのは致し方無いことだったのかもしれない。

「右手か左手かの判断はジークさんかな」

 この場に居ないということはそういうことだろう。居ればすぐさま手助けに向かったはずだ。

 あと分からないことと言えば俺を人質に一一ってあれ?

 背中に何かが当たる。

 気になって後ろを向くと、数分前まで何もなかった場所が壁に侵食されていた。

 慌てて時計に視線をやる。タイムリミットとされる時間まで既に五分を切っていた。つまりエルナがぺったんこになるまでそう猶予が無いということである。

 これ俺もやばくね……?

「いや、いざとなったら両手上げて逃げればいいのか」

 意外と簡単に見付かった脱出法に安堵し壁から距離を取る。ほんの少しずつ迫ってくる壁は恐怖の対象だったが、何時でも逃げられると分かれば大したことはない。

 両手を天に伸ばしつつ脳筋の方に視線を向けると、段々と相手の攻撃に馴れてきたのか流暢に回避のダンスを踊っていた。戦うという行為そのものが楽しいとでも表現するかのように。

 ま、俺には関係無いけど。

 後方に現れた光の道を確認して歩みを進める。途端、

 壁が破裂した。

 いや、正確には『彼の後ろから柱が飛来し破壊された』という表現が正しい。しかも柱の塊がユカリの頬が掠めたようで、やや遅れて血が流れ出た。

 血の気が引いたが、一瞬で頭に血が上った。

「殺す気かお前!」

「私を置いて一人で逃げようとするからよ!」

「壁が迫ってきてんだよ! 俺まで潰されるだろうが!」

「知ったこっちゃないわそんなこと! 私は貴方と一緒に潰される苦しみより、貴方一人がのうのうと生きることに耐えられない! 一緒に死んで!」

「ふざけんなよマジで!」

 ストレスが臨界点を突破し、拳を壁に叩き付ける。するとただの壁とは思えない柔らかい感触。思わずたじろいでしまったものの冷静になり、拳を作ったまま甲で壁を押す。手が飲み込まれそうなプニプニとした触感が気持ち良くもあり、可笑しいと感じさせるには充分だった。

「エルナ!」

「何よ! こっちはっ! 忙しいのよ!」

「壁を操作してるのこっちだ! そいつは囮だ!」

 彼女が回避行動を取りながらユカリの方を見る。

「何も無いじゃない!」

「良いからやってみろって!」

「なんだってーのっ、よー!」

 エルナが脇から飛び出た壁を粉砕する。そして流れるような動きで敵の攻撃をかわしながら破片を此方に向かって蹴り飛ばした。

 死の危険を感じ咄嗟に伏せるユカリ。その判断は正しく、ユカリが回避行動を取った直後に彼がいた場所を無機物の塊が通っていった。

 そして柱だったものが壁にぶち当たる。

『がぁぁぁぁぁぁァァァァァァ!』

 痛みの強さを物語るように壁が悲鳴を上げる。それに比例してかエルナに襲い掛かっていた柱達は揃いも揃って動きを止めた。無論、ダミーとして役割をこなしていた人形も例外ではなかった。

「本体はそっちだったのね。これは『無能』から『ゴミカス』に評価を上げざるを得ないわね。喜びなさい」

「一ミリも嬉しくないんですが?」

 エルナがユカリの傍に寄ってくる。あれだけの戦闘をしながら少しも息を切らしていない。

 流石運動面にスキルを極振りしてるだけある。その四分の一程度知能に振ってくれればこんな阿呆にはならなかったのだが。

「それにしても貴方、自分のパートナーと敵対するなんてとんだクズね」

「お前がそうさせてんだよ! 自覚しろ!」

「はぁ? 私なら殺してでも止めさせるわ」

「お前の中の命の軽さはどうなってんだよ!」

「愚問ね」

 言って、壁の怪物に向かって歩みを進めるエルナ。

「おい、エルナ!」

 怪物が意識を取り戻したようで、前後左右に加えて上下から壁が襲い掛かる。しかし、彼女は意に介さず冷静にタメを作ると、

 正面から来る無機物の塊を猛猛しい絶叫と共に全力でぶん殴った。

 世界が静止したような錯覚を覚える。

 しかしその後、反射的に耳を押さえてしまうほどの爆音が飛来し、再び空間が動き出した。彼女を敵対視していた柱や壁には亀裂が入り、次々に崩れていく。脳筋の力がゲームに勝った瞬間だった。

「私が一番でそれ以外はただのゴミよ」

 と、暴君が呟いた。

 彼女は下から突き上げていた円柱から降りると二足歩行の怪物だったものに近付く。先程まで戦っていた敵は既に原形を保っておらず、体の中には端から見ても分かりやすい宝箱が見えていた。

 もう数歩寄ればそれに手が届くところまで行った時、突如として地面が揺れた。

「な、今度はなんだ!」

 驚嘆したものの、異変は直ぐに分かった。

 さっきは縦に空間を狭めてきた。

 次は横になったのだ。

「終わりじゃないの!? どうなってんのよこれは!」

「俺に聞くなって!」

 見る限り横幅が最初よりもかなり狭くなってる。15メートル程あった気がするのに今は10メートルあるかどうかだ。迫ってくる速度が段違い過ぎる。

「今度は左右に2体! 本当に殺す気じゃない! どういう教育受けてんのよ、魔族は!」

「魔族は関係ねーだろ! それよりさっきみたいに早く破壊しろよ!」

「あんなこと続けて出来るわけ無いでしょゴミカス! 殴り付けた手も反動で痛むの知らないの! 何なら聖気も足りないし! 貴方こそ両手広げて石化でもしなさいな! ほら早く!」

「出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 言ってる間にも壁がすぐそこまで来ている。

 何処かに抜け道や穴はないか! いやでも、そんな都合の良いものは何処にも一一、

「……」

 突然正面の壁に人一人が余裕で入れそうな穴が空いた。それも『黙ってここに入ってくださいマスター』とのアドバイス付きで。良く出来た従者である。

 促されるままに無言で入る。出来る限り気配を消しただけあって、今のところ馬鹿に気付かれてはいなかった。

 中に入ると入り口が閉じた。本当に良く出来た従者である。

 仲良死はごめんだからな。ありがとうリンス。そしてさようならエルナ。達者でな。

 指で十字を切り、終焉が来るのを待つ。真っ暗な世界で壁が近付く鈍い音だけが聞くのは多少なりとも怖かったが、絶対に潰されない安心感が上回った。

「ま、アイツなら大丈夫だろ」

「そうね」

 不穏な言葉が聴こえた気がした。

 いや、気のせい……だよね。

「さっき貴方一人がのうのうと生き残るなんて我慢出来ないって、言ったわよ、ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 雄叫びと共に閉鎖空間に光が差す。小さな破片が顔中に直撃したが、そんなことよりも今から自分に襲い掛かるであろう暴力が恐ろしかった。

 有無を言わさず襟を掴まれ引き寄せられる。デモンズウォールに押し潰され部屋は既に幅が一メートルもなかった。

「隠れて一人で生きようなんて良い度胸じゃない!」

「いやまあ俺だって死にたくないし、この穴一人用だったし」

「言い訳無用! 我慢すれば二人入れるで――」

 急にエルナが言葉を詰まらせる。首を捻り彼女の視線の方を見ると、穴が消えていた。『ごめんなさい』との書き置きと共に。

 嘘でしょ。うそですよねー、リンスさん!

「ふざけるなふざけるなふざけるなー!」

 ユカリは初めて見る志野習市代表の慌てふためく様を見ながら、

 仲良く壁に潰された。


 ★


 太陽が頂点に上りかけた頃、ユカリは首を擦りながら相方の姿を探していた。ちなみに首に関しては、壁に押し潰された時に運悪くエルナの胸に腕が当たってしまいぶん殴られてしまったことが原因であり、潰されたことはあまり関係なかった。

 潰されたといっても壁の材質がゴムに変わった上に圧迫感がある程度だったしなぁ。まぁ最初からそんな気はしてたけど案の定だった。

 何度もスマホに発信するものの彼女は応えない。たったそれだけでリンスは酷く傷付いているのだとユカリは思った。普段から献身的で真面目なリンスはユカリからの連絡を無下に扱わないからだ。

「どうしたもんか」

 モールは一通り探し終わった。スタッフテント付近も確認し、イベントに携わった人達にも聞いている。しかし目立つはずの綺麗な銀髪は一向に見付からなかった。

「しゃーない」

 些か巨大な歩道橋の階段を登り、通行人の邪魔になら無いよう脇に立つ。

 精神を集中させ記憶を辿りリンスの魔力を引き出す。形、色、濃さ、匂いといった特徴を全て情報として捉え、それら全てを肉体に流れる己の魔力を経由し目に移す。すると、すぐさま身体が何かに引っ張られるような感覚を覚えた。

 ユカリが持つ魔族としての数少ない特技。相棒の魔力を探知することで場所を把握出来るというえらく限定的な能力だ。但し、携帯電話を持ち合わせていることに加えて、むやみやたらに発動するとパートナーのプライバシーが無くなるという欠点もあり、使用する機会は少なかった。

「あっちか」

 感覚を頼りに目標へと向かって走り出す。コンビニとレストラン街への分岐を無視し、ビルとビルの間を駆け抜ける。そしてとあるビルの前まで行くと誘われるように躊躇なく自動ドアをくぐった。

 壁に張り出されたガイドを読む限り、平日は普通のオフィスビルのようだが休日は銀行のATMのみ稼働しているらしい。

 フロアの至るところがシャッターで封鎖されているため通れる場所は限られている。その為、ベンチの上で泣きじゃくる銀の少女を見つけるのは酷く容易だった。ATMがあるとはいえ人気が無く死角も多いビルの一角。一人になるにはちょうど良い場所だろう。

 見つけはしたものの、涙を溢す彼女にユカリは少女に向けて伸ばした手を止めてしまう。

 何と声を掛けて良いのだろう。

 何を言えば良いのだろう。

 考える必要の無い問いがユカリの思考を侵食し行動を制限した。

「リンス」

 だからこそ考えを捨てた。相棒を思いやるのに下手な気遣いは不要だと思ったからだ。

「マス……ター?」

 リンスが応える。こっちを見ようとしないまま。

「大丈夫?」

 愚問。

 大丈夫じゃないから泣いているのだ。

 パートナーが苦しんでいる時に月並みなことしか言えない自分が酷く情けなかった。

 ユカリはリンスが喋るのをただただ待った。こんなにも涙を流していては落ち着くまで喋れないと思ったから。

 しかしユカリの予想を裏切り、その時間はすぐにやって来た。

「ごめんっ、なさいっ」

 今の今まで俯いていた少女が主人に顔を向ける。今日のために施した化粧は崩れ、綺麗な瞳も充血しており台無しになっていた。

「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

 叫ぶように彼女が言う。

 ただユカリには謝られている理由がさっぱり意味が分からなかった。だが普段から敬語を使用する彼女がそれを忘れるほど混乱しているのは分かった。

「うん。ひとまずリンスが謝りたいのは分かったよ。泣きたいなら気が済むまで泣けば良い。落ち着くまでずっと待ってるから」

 言って隣に座る。

 そして再び下を向いたリンスが何度も泣きじゃくるのを聞いた。同時に悲痛な謝罪も。

 ユカリはただただ待った。彼女が自分を取り戻すまで。

 体感にして十五分程経った頃、今にも消えそうな声がユカリの耳に入った。

「私はクビですか?」

「……いや何で?」

「だって私はっ!」

 同時にこちらを見る。久し振りに見る悲痛な表情にユカリもまた強張った。

「感情に任せて守るべき人を攻撃してっ。本当は守らないと、いけないのにっ!」

「エルナと一緒に潰された時のこと?

 それなら別に気にしてないよ。リンスなら大丈夫って信じてたし」

「私のせいで、何度もあの人に殴られました!」

「それはあいつが直情的だからだよ。リンスに非はない」

「九回も無能呼ばわりされました!」

「それもあいつが、って数えてたの!?」

「それからそれからっ」

 次々と溢れ出る大粒の涙を拭いながらリンスは言葉を続けた。自身への不満を全て吐き出すように。

「あの人の暴言に耐えきれなくなってイベントの開始時間を早めてスタッフさんに迷惑を掛けました! 」

「スタンバイする前ならちょっと問題だけど、スタンバってたんだから気にするほどでも無いんじゃないかな?」

「あの人への対処にリソースを割いて肝心の迷路が疎かになってしまいました!」

「充分好評だったじゃん。お客さんもスタッフさんもファンタジー世界にいるみたいだって喜んでたよ」

「どうしてマスターはっ!」

 不意に訪れる静穏。

 彼女が作った間は建物の空調の音だけが小さな世界を支配した。

「そんなに優しいんですかっ!」

 予想だにしなかったことをぶつけられ目を丸くする。最早愚痴ですらなかったが素直に喜べる雰囲気でもなかった。

「何時だってそうです。私が苦しんでいる時にはすぐに駆け付けて。こんなのすき一一」

 と、言い掛けたところではっとした表情を浮かべてリンスは黙った。ユカリには続きがある程度想像出来たが敢えて追求しないことにした。勘違いではお互いに困ってしまうから。

 だからこそ彼女が別の言葉を紡ぐのを待ったが、機会を潰れ勢いが薄れてしまったのか開いた口を閉じてしまった。

 仕方なくユカリはこの不毛な問答に終止符を打つべく正直な想いを告げる。

「パートナーが困ってたら助けるのは当たり前だし、成果を出したなら誉めるべきだよ。リンスも俺が困ってたらいつもすぐに助けてくれるでしょ?」

「それはその、そうですけど」

「ね。今日はエルナに掻き回された感はあるけれど、リンスの対処は悪くなかったのも事実だよね。怒りに身を任せても他の参加者を無下にしてまでエルナに対応しなかった。それが良い結果に繋がったんだから、そこは誇っても良いところだと俺は思うよ」

「マスター……」

「強いて言うなら、終了後にスタッフさんへの挨拶が少し上の空だったのが気になるかな。イベントが好評だったのは間違いないけど、リンスだけの力で今回の結果に繋がった訳じゃないよね? お世話になった人にはちゃんと挨拶しないとね」

「はい……申し訳ありません」

 更に悲しみを露にするリンス。

「じゃあそこだけ反省して今日のイベントは終わり! このまま帰るのもなんだし遊んでから帰ろっか。腹も減ったし」

 と、言ったところで唐突にユカリのお腹が鳴った。

 思いがけないことに二人の時間が止まる。そして、徐々に顔が赤くなっていくユカリに対して少女の頬は緩んでいき一一、

 臨界点に達したところで再び時間が動き出した。

「クスクス……アハハハハ。何ですかそれ。締まらないですよ」

「何だかんだでお昼食べて無かったからね」

「……そうですね、私もお腹が減りました」

 リンスはベンチから立ち上がると、先程よりも元気のこもった声で言った。

「ありがとうございますマスター。マスターが私のマスターで良かったです」

「うん、俺もリンスがパートナーで本当に良かったよ」

「……お手洗いに行ってきますので、少しだけ待っていただけますか?」

「ああ、うん。行ってらっしゃい」

 そそくさとこの場を離れるリンスを見送るユカリ。恐らく崩れてしまった化粧を落としに行ったのだろう。ユカリはそう思うと、それ以上考えずに再びベンチに腰を掛けた。耳を赤く染めていた彼女の変化に気付かずに。


「そう言えば、一つ分からないことがあるんだけど」

 駅の方に戻りながら少女に話し掛ける。

「何です?」

「エルナが俺を人質に取ったのって何で? 脱出方法が分かったんなら俺を巻き込む必要無いような」

「扉による移動は私の意志で変えられますから、変なところに出ないように釘を刺したのだと思います。私への警告の意味合いもあるでしょうが」

「なるほどね」

 そういうところだけ気が回るんだよな、アイツ。

「マスター、私も一つ一一」

 言い掛けて押し黙るリンス。複雑な表情を浮かべる彼女にユカリは返答するべきか迷う。

「えっと何?」

「いえ、やっぱり大丈夫です。そう言えば、お昼は何にしましょうか。パスタとかどうです?」

何ともなかったようにリンスが笑う。そんな彼女の仕草にユカリは追求することを

「あー、うん。良いね。じゃあそうしよっか」

「あそこのビルにパスタが有名なお店が入っているそうですよ!行きましょう!」

 今日一番の明るい笑顔を見せたリンスがユカリの手を引く。ユカリは照れ臭さを感じると同時に、彼女の手から伝わる温かさにホッとした。そして何より、

 リンスとの間にあった小さな壁が少しだけ崩れた気がしたことが嬉しかった。

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