第14話 とある勇者の悩み事⑦

 最初その事を聞いたとき。


 頭の中が真っ白になってしまって。


 僕は猛烈な後悔の波に襲われてしまった。


 ここはお城の中の玉座の間。


 昨夜はお城の中に泊まった僕達、勇者一向は。


 姫様に思う存分振り回されたのを最後の楽しい思い出にして。


 資金も貯まったことから遅くなってしまった魔王討伐の旅を再開する為に意気込みを見せていたのだけれど。


 そんな僕達にやってきた凶報。



 跪く僕の目の前には王様ではなく――僕の国の第一王子である殿下が重苦しい表情で玉座に座っていた。


 何度か見たことがある殿下は。噂通りの勤勉で民をよく思っている人望溢れる人で。


 次期国王として有望されている人物なんだけれど。


 今、僕の前に立つ殿下は普段は見せない表情で歯を食いしばっていて。


 正直嘘だと思いたかった。


 でも、それは紛れもない事実で。


 殿下にそんな表情を見せてしまった僕の不甲斐なさに悔しくて。


 強くなりたい……。


 皆が苦しまないためにも誰にも負けない強さを僕は手に入れたかった。



 ――魔王が侵略を開始した。


 殿下から知らされた信じられない事実は。


 僕だけじゃなく国中。否、世界中の国々に一瞬で広まり。


 他国でも小競り合いをしていた者達が皆、戦を止める程に今は世界中が魔王の動向に注視しているとのことだった。


 死の大地より北方を全て所有地として言い放った魔王は。


 そのまま魔王国として領土を占有し。


 近いうちに僕達人間が住む領土も支配すると言われていて。


 そんな僕たちにとっては絶望としか思えない状況は……。


 さらに追い打ちをかけるかの如く僕の心を打ち抜いたのだった。


「すまない。君達は悪くないということは分かっている。だが、魔王の悪逆を聞いた我が父と妹は……ショックで床に伏してしまったのだ」


 そんな……。


 王様と見目麗しいと噂される第一王女が倒れてしまった。


 僕の横で不安そうな顔でしがみつく第二王女である姫様の頭を撫でて心配ないよと必死に伝えるも。


 僕の頭の中は後悔で埋め尽くされてしまっていたんだ。



 あの時。魔王城に乗り込んだ時に僕たちが馬鹿なことで装備を失わなければ。


 魔王をあの時倒すことが出来てればこんなことにはならなかったのに。


 今となってはどうしようもないけれど。


 僕は悔しくて悔しくて涙が止まらなかった。


「勇者様……。わたしも悔しいです。ぐすっ」


「私も腸が煮えくり返そうな想いだ。勇者よ。私と共に一刻も早く魔王を討伐するぞ!!」


 両隣に立つ聖女と騎士姫が励ましてくる。


 そうだ。こんなところでくよくよしている暇なんかないんだ。


 僕に休んでいる暇なんかない。


 皆の期待を胸に込めて……。魔王を倒すのが僕の使命なんだから。


「ふっ。良い眼をしているな。俺からも頼む。これ以上民の苦しむ姿は見たくないのだ。それに父上と妹の為にも……。魔王を討伐してくれ」


「はっ。我が命に代えても討伐致します!!」


「あー……いや、命までは賭けなくていいと思うが?」


 殿下からの激励ももらって。


 こんな時なのに僕のことも心配してくれる殿下はやっぱり国の宝だな。


 殿下の為にも頑張らないといけないよね。



 決意を改めて玉座の間から去ろうとした僕達だったのだけど。


 踵を返そうとした僕を殿下が止めてきて。


「時に勇者よ。一つ頼みがあるのだが」


「僕に出来ることならば何でも致しますが」


「そうか。ならば話が早いな。未だ勇者にしがみついている俺の妹のことなんだがな」


「第二王女がどうかしたんでしょうか?」


 お姫様?


 って、ものすごく自然に僕にくっ付いていたから忘れかけてたよ。


 天真爛漫な可愛い女の子とだけど。姫様は殿下と同じくこの国の宝なんだから。


 第一王女が倒れてしまった今。より頑張ってもらう必要が姫様にもある訳で。


 そんなことを僕は思っていたのだけど。


 この後殿下が発した言葉は。


 そんな僕の気持ちを裏切るどころか。


 新たな頭痛の種になる未来しか見えなくて。


「うむ。我等王族の血脈は何れも魔力が高いのは知っているであろう?


 王族にのみ伝わる秘術。


 そして帝王学を学んだ我等は時には英雄とも呼ばれる軍師に匹敵する指揮を扱える可能性を秘めている。


 それらはきっとこれからの勇者の旅にも役立つと思っているのだ」


「え、えっと。申し訳ありません。


 殿下が言っていることの意味が判りかねるのですが」


 というか判りたくないよ。


 僕の旅に役立つ?


 何が?


 高い魔力? 僕らが知らない秘術? 勇者一向に欠けている指揮系統?


 え。それを誰が補ってくれると?


 殿下の視線の先は……。


 もう正直殿下は誰なのか答えを言っているようなものなんだけど。


 いや、それはないんじゃないかなぁ?


 だってまだ武闘家と同じ13歳の子供だよ?


 そんな国の宝でもある人を魔王討伐の旅に同行させろと?


 えっとね。僕の横で期待した目で見上げてくるのは止めてくれないかなぁ。


 君さっきまで涙目で僕を見ていたじゃないか。


 何で今はそんなに目をキラキラさせてるのかな?


「そんなに脂汗を垂らしてどうしたというんだ? 気分が悪ければまた後ほどでも……え。今にしてほしいのか?


 まぁ、いいか。分からないのならはっきり言うとするぞ。


 俺の妹であり我が国の姫である第二王女。まだまだ未熟なところがあるが勇者一向の旅に連れていって役立ててくれないか?


 何。我が国は問題ないさ。父上の役目は俺が行うし、何より我が優秀な弟もいるからな」


わらわはこれからも勇者と一緒にいられるのか!? わーいなのじゃ!!」


「ははっ。そんなに嬉しいか。


 勇者よ。俺の妹のことを頼んだぞ」


「え、えっと。ちょっと、待って……え、ええぇぇぇぇぇぇ?」


 ほんと色々待って?


 思考が現実に追いつかない。



「ボクがセンパイなんだからこれからはボクの言うことを聞くんだよ?」


「絶対に嫌なのじゃ!! わらわは勇者とずっと一緒にいるのだー!!


 勇者がもうすぐいなくなってしまうと悲嘆に暮れて泣きそうだったわらわの気持ちが武闘家には分らんじゃろう?


 それに兄上の言うことは尤もなのじゃ。


 わらわもただ待ってるだけじゃなくて最初から勇者に付いていけばこんな気持ちにならずにすんだというのに。


 だからわらわは武闘家の言うことなんて絶対に聞かんのじゃ!!」


 さっき以上にがっしりと僕にしがみつく姫様と。


 反対側からしがみつく武闘家。


 え。ちょっと少し待とうか?


 姫様はもしかして王様と姉である第一王女が倒れたことに悲しんでたんじゃないの?


 え。もしかしなくても僕と離れるのが嫌で泣きそうだったの?


 いやいや、そんなまさか……。


 でも、さっきまでの悲しんでいた顔が嘘みたいな笑顔に変わっている姫様を見て。


 僕は溜息をつくしかなくて。


 また僕のパーティーに女の子が増えたよ。


 ねぇ。僕の背中を預けることが出来る親友(男)は何処にいるのかなぁ。


 正直僕の精神的にも一人で魔王討伐に向かった方が頑張れる気がするんだけど。


 なんて。ありえない妄想を膨らませるしか僕には出来ない訳で……。


 うぅ……。文句が言えるのなら言いたいよ。


 魔王の野郎なんてことをしてくれたんだよ!!! ってね。


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★第14話 登場人物★


勇者 …… やったね。勇者一向にハーレム要員が増えたよ。頭痛の種も増えたけどね。


第一王子 …… 次期国王と名高いお人。実は国王が魔界と繋がっていることを知っている。ということは? それは次回のお話で。


武闘家 …… 何だかんだ自分と同じ歳の第二王女を憎からずも友達と思っていて。だけど勇者はボクの物なんだから絶対に渡さないと意気込んでいる。


姫様 …… 実は殿下の言う通り力強い魔力と秘術が扱えて。しかも帝王学もしっかりと学んだ万能のじゃロリ娘なんですよ。



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