第09話 とある魔王の悩み事⑤

「吾輩、悪夢を見ていた気がする」


「主様。現実から逃げても何も始まりませんよ?


 それにまだ会議は終わっておりません」


 間髪入れず突っ込まないで欲しい。


 鬼か。いや、鬼でも優しさをこのドS吸血鬼より持っているに違いないと思う。


「誰がドS吸血鬼ですか。


 それにわたくしも分類上鬼に該当すると思いますよ。


 何せ吸血な、訳ですから」


 もうやだ。何を言っても勝てる気がしないぞ。



「それで本当に街を作るつもりなのか?


 エイプリルフールは結構前に過ぎたばかりであろう?」


「もう突っ込みませんからね。


 街づくりに関してはほぼ決定事項で御座いますよ、主様」


「え。お前さっき吾輩に街をつくりませんか? って提案したではないか。


 まだ提案事項なのだよな? ほぼ決定事項とはどういうことなのだ?」


「提案で間違いありませんよ。拒否権は御座いませんけども。


 後は主様の許可が出ればこの後にでもすぐ街づくりは始まる予定となるのですから、早く許可を頂きたいのを我慢しているわたくしを労ってくれても良いのですよ?」


「待て。色々とおかしい。


 というか、吾輩蔑ろにされすぎではないか?」


 吾輩の知らぬところで既に街づくりの計画が本決まりになろうとしている事実。


 吾輩、魔王だよな? あれ? 魔王って何なのだろう? 魔王って一番偉いわけではないのか?


 でも、吾輩、魔界じゃポッと出の若者扱いだし、薄々気づいていたが吾輩って体のいい……うぅ。


「ああああ、魔王様! 魔王様! 落ち着いてください!!


 吸血鬼もいい加減にしろ!!!」





「落ち着かれましたか?」


「うむ……。この茶美味いなぁ」


 牛魔王が注いでくれた茶を飲み、ようやく平穏な状態に落ち着いたぞ。



「主様は街づくりに反対で御座いますか?


「いや、反対ではない。反対ではないが現実問題それが可能なのかと気にしているのだ。


 5千もの魔物の移住なのだろう? 計画段階から問題を解消しておかねばうまくいかないのは分かっているであろう?」


「それはもちろんで御座いますわ。


 主様が気にするのは当然の事。そして、現段階でそのほとんどの問題事項を解決しているとわたくしは思っておりますの。


 ですので主様。どうぞ思う存分疑問点を投げかけて下さいな」


 ほう。そこまで準備を進めているのか。


 なら吾輩も本気で臨もうではないか。



「なら、まず第一にだ。この魔王城はともかく、街を勝手に作ったとして後々人間界で問題は起きないのだろうか?」


「絶対に起きないとは言い切れません。ですが、人間界の彼の国である国王と教会には既に魔界から説明済みで御座います。


 そして、我が魔王城周辺は元々人間達には死の大地と広大な樹海に覆われた未踏の地とも言われている場所です。


 この様な場所誰の許可も取る必要はないとのことですよ」


「そ、そうか。では、次だ。


 如何に魔物といえど攻め込まれるのが目的である魔王城近辺に街を作るのはどうなのだ?


 勇者や他の人間達が此処へ来た際にせっかく作った街が攻め滅ぼされるのは吾輩嫌だぞ」


「それに関しては恐らく問題ないかと。


 計画として考えている街の場所は我が魔王城の裏手で御座います。


 ご存知の通り、この魔王城は大陸最北端に位置しております。


 我等が、そして彼の国である国王達、人間方が知る限り魔王城より北部に人間がいるとは考えられません。


 ですので仮に勇者含む人間達が攻め込んだとしても魔王城が落ちない限りは街への影響は少ないと考えております」


「な、なるほどその通りであるな。では、続けるぞ。


 そもそもこの周辺は街づくりに適しておるのか?


 魔王城だけであれば魔界からの援助で済むことが出来ておるが、街を作るとなると少なからず自給自足できる何かが必要になってくるが」


「それも現時点では問題ないと考えております。


 既に我が配下の部隊数チームに周囲の調査を済ませております。


 その結果ですが、この人間界の数多なる国と我が魔王城を隔てる場所に存在する死の大地。


 まず、ここはさすがに普通の魔物では生活もままなりません。


 大地が死んでいる為、作物も植物も成長できない上、周辺の鉱石等の資源もない状況です」


「それはそうだろうな。あんな場所死霊や無機族ゴーレム共しか住まんであろうよ」


「ええ。ですが、その死の大地を抜けた樹海は違います。


 そこは逆に魔素の濃度がこの人間界では異常なぐらい高い数値をはじき出しています。


 それは正に魔界と同じといっても過言ではない程に。


 魔界が資源が豊富であることは主様もご承知の事実かと思われますが、この魔王城周辺も同様だということなのですよ」


「ということは畑を作れば豊作になるということか?」


「その通りで御座います。


 というよりも、既に数年前から魔王城の裏手に幾つか畑があるのを主様はお知りに……いえ、何でも御座いません」


 おい、今何て言った。


 何か他にも吾輩の知らぬ事実が聞けばたくさん出てきそうであるな。


「そして、元々周囲の樹海には豊富な資源が山積みとなっております。


 木材も。そして鉱脈も見つけておりますので各種鉱石も期待出来ることかと。


 併せてこの魔王城から半日も歩けば広大な海がありますので海産物も捕り放題で御座いますね」


「至れり尽くせりではないか。


 ここまで何も問題ないと逆に気になってくるが、何故人間達はこの場所を領土にしなかったのであろう?」


「それはもちろん死の大地の存在が他ならないからで御座います。


 そしてもう一つ。我々には資源の宝庫に見える樹海も人間達には大層恐れられているので御座います」


「む、そうなのか?」


「主様。よく考えて下さいまし。


 先程お伝えした通り、ここの樹海は魔素が異常なほど高いので御座いますよ。


 それは、当然生態系にも影響が出てくるので御座います。


 元々魔界の住民である我々にとっては影響はほぼありませんが、人間界で生まれ、育った魔物達は異常な魔素に中てられることで時に思わぬ進化をすることもあるので御座います。


 例えば主様の最近癒しとなっているあのスライム。


 あのスライムがまさか今になっても普通のスライムだとはお思いになりませんよね?」


「そ、それは……」


 いや、分かっていた。もちろん分かっていたさ。


 あのスライムが普通じゃないことぐらい。


「そんな場所に人間達が命を対価に占領するなんて出来る訳がありません。


 主様も分かったで御座いましょう? 街づくりは可能であることを」


 何の反論も出来ないな。


 逆にメリットの方がでかいかもしれない。


 まず第一に暇を持て余している我が城内の魔物達に役目が出来ることになる。


 そして第二に現在の我が城内の消費資源はその大半が魔界からの援助で対応してきたが、街を作ることにより様々な特産物が出来ることで街だけでなく城内の自給自足も可能になるかもしれない。


 あれ? このまま許可を出しても問題は何もない気がする。


 いや、待て慌てるな。


 本当に何もないのか? いつもこういったことで被害を被るのは吾輩なのだぞ。


 よく考えろ。何か忘れていないか? 何か…………あ。



「最後に一つだけ訊かせてくれ。


 その街に関してだが。


 誰が管理するのだ? さすがに吾輩が管理するのは無理があるぞ」


 そう。これ以上管理事を増やすのは止めて欲しい。


 というか、吾輩倒れる。倒れて寝込んでしまうぞ。


「ご心配なくで御座いますわ、主様。


 さすがに重要な事柄の最終決定事項等は主様にお願いする予定ですが、街の責任者――この場合は人間界に合わせるとして、領主はおかしいですね。


 ですが、町長というのも味気ないことですし。


 出来上がる街は城下街と言ってもいいでしょうし、知事が妥当なところで御座いましょうか。


 その知事になっても問題ないという方がいらっしゃるのでその方にお願いしようかと思っております」


「ほう? そんなもの好きがいるのだな。


 それは誰なのだ? 吾輩の知っている人物なのか?」


「ええ、それはもちろん。


 街の管理を行う知事の役職ですが――わたくしの兄にお願いする予定で御座います」



 …………ん?


 今こいつは何と言った?


「兄?」


「ええ、兄で御座います」


「同じ真祖の?」


「もちろん同じ真祖ので御座います」


「魔界では最強種の一人と噂されているあの?」


「そんな噂も御座いますね」


「…………吾輩、今日で魔王引退するわ」


「「ちょ、魔王様――!!?!?!!!?!」



 いや、無理無理。


 吾輩が逆立ちしても勝てる未来が見えない存在の一人を配下に加えろと?


 あぁ、今日も胃が痛い…………。


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★第09話 登場人物★


魔王 …… もう吾輩が魔王じゃなくてよくない?


吸血鬼(真祖) …… 街づくりが楽しみなお姉さん。さすがに魔王をイジメすぎたと反省中。


吸血鬼(兄) …… 魔界で上から数えて一桁に入る強さを持つ人。近いうちに登場するよ。


牛魔王 …… カウンセリングの資格を取得しようかと考え中。主に魔王様の心の平穏の為に。



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