第04話 とある勇者の悩み事②

「おお勇者よ、負けてしまうとは情けない」


 登城するなり王様からのキツイ言葉が胸に刺さる。


 謁見の間で跪く僕を中心に国のお偉いさんが立ち並ぶ光景は正直慣れることは一生ないと思う。


 仲間である彼女達を宿に置いてきて正解だったかもしれない。


 仕方のないことだと分かってたけどつらい。


 魔王城に意気込んで乗り込み、成す術もなく負けてしまった僕には何も言うことが出来なかった。


 初めて見た時は優しそうな王様だと思ったけど、そりゃ怒る時は怒るよなぁ。


 この後お前はもう用済みだ。なんて言われてしまったらどうしようかな。


 処刑じゃないといいなぁ。



「――るのかの? ……聞こえておらぬ様だの。ふむ、宰相よ。


 もしかして儂、間違ったことを言ってしまったとかないかの?」


「……陛下。わざと言ってますよね?


 さすがに敗れて帰国して間もない勇者に言う台詞ではないかと思います」



 何かボソボソと王様と誰かが話しているのが聞こえてくる。


 跪いた姿勢のまま頭を垂れている僕には周りの様子が見えていなかった。


 それに、今の僕にはそんな言葉を理解する余裕なんてある訳がない。


 今後の人生設計を早急に考える必要があるのだ。



「仕方ないじゃろう。儂にだって一度は言ってみたい台詞があるのだぞ」


「であれば使いどころを考えてください。


 陛下の言葉一つで国民の運命が左右されるってことお分かりですよね?


 疲弊したところに労う言葉もなく、唐突に情けないと言われてしまえば勇者でなくとも失望されてしまったと思ってしまいます」



 処刑から逃れることが出来たとしても、もちろん勇者業は失業だよね。


 そうなると僕という存在は唯の無職ということになる。


 無職ってことは女性にとっては僕の存在価値は無いってことだよね。


 あれ? この未来も有りなんじゃないか?


 僕の存在価値が無くなるってことは、仲間である彼女達が僕に付き従う必要も無くなると言うこと。


 きっと勇者じゃない僕は用済みだ、なんて言われて捨てられるに違いない。


 これは僕にとっては不幸な未来じゃなく、とんでもなく幸せな未来なんじゃ……。



「大体陛下はいつもいつも唐突に行動しすぎなんですよ。


 報連相という言葉をご理解しておいでですか?


 魔界との接触の時もそうです。


 確かに陛下の閃きのおかげで隣国と和平を組むことが出来ましたが、一歩間違えば真っ先に滅んでいたのは我が国ですよ?」


「お主今それを言うのは卑怯ではなかろうか!?


 それにあの時の事は前の晩にきちんと相談したではないか」


「あれを相談とは言いません。ただの決定事項だと言うのです。


 勇者がまだ勇者ではなかった時もそうです。


 魔物討伐から帰還した騎士団から報告された聖痕を持った青年の扱いをどうするか会議で決めようとした時も陛下は勝手に行動しましたよね?


 陛下の閃きと行動力は結果だけ見れば賞賛に値しますが、我々としては少しは自重して欲しい所存です」


「世が平和になったから良いではないか。


 全く。宰相の小言はいつもつまらぬの」


「む……つまらないとは何ですか?


 だから馬鹿王だとか猪突王だとか周りから言われるんですよ」


「おま、お主! 面と向かって言ってはならぬことを!!


 もういい、お主なんか解任じゃ! 衛兵よ、この阿呆をひっ捕らえよ!!」



 何やら周りが騒がしいなぁ。


 そうだ。無職になったら夢だった冒険者になろうかな。


 父さんには悪いけど、正直故郷には戻るつもりがないし。


 やることは勇者として動いてた時とあまり変わらないし、何より知り合いも結構いる。


 あそこの冒険者ギルドで親切に教えてくれたオジサン元気かなぁ。


 オジサンに頼み込んでパーティーに入れてもらうのも有りだよね。


 背中を預けることが出来る親友を見つけるのも悪くないかな。もちろん男限定で。


 ふふふ。楽しみだなぁ。



「国王様! 国王様! それに宰相も! 落ち着いてください!」


「ええい、大臣よ、儂はいつでも落ち着いとるわ!


 だからちと待っとれ。儂を馬鹿王とぬかした阿呆を処刑したらすぐにでも――」


「で、す、か、ら! このままだと勇者様がやばいんです!」


「ぬ? 何がやばいと――……なぬ?」



 よし、王様が僕の事を用済みだと言う前に僕から勇者を辞めるように進言しよう。


 きっとこの広い世界だ。僕以上に勇敢な勇者と呼ばれる人が出てくれるはずだよ。


 仲間の彼女達にとっても彼女達に向き合ってくれる人がいる方が幸せだよね。



「ちょ、ちょいちょい。勇者よ? 聞いておるかの?」


「あ、はい! 聞いております!


 この度は国王様を失望させてしまい申し訳ありません。


 せめてものお詫びとして僕は勇者としての役目を――」


「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!」





「勇者よ。その神々しさを放つ鎧は一体どうしたのだ?」


「うわぁ、とっても勇者様に似合いますね」


 ………………


 気づけば僕は仲間である彼女達と同じテーブルを囲んでいた。


 昨日と違うのは皆思い思いに装備を一新させて誰が見ても勇者一向であるということ。


 その中にはもちろん僕も含まれていた。


 背中には神が賜ったとされる聖剣。そして、同等の輝きを放つ鎧を着こむ僕。


 あれ? 僕の冒険者としての第一歩は何処にいったんだろう。


「さすが私の勇者ですよね。早く魔王を倒して故郷に二人で戻って幸せに暮らしたいです」


「ほぉ? 何処ぞの脳内お花畑な魔法使いがトチ狂ったことを言い寄っておるの。


 勇者は魔王を倒した暁にはエルフ領土に二人で凱旋した後に、国王としてうちと過ごすのであろうに」


「何でさ! 勇者様はボクと一緒なんだよ!!」



 あぁ、今日もミルクがとっても美味しいな。


 何で王様は僕を咎めるでもなく新たに伝説の鎧をくれたんだろう。


 周りの偉い人達も何故か焦っていたし……


 それにしても冒険者になりたかったなぁ。



 今日も僕の仲間達は元気に言い争いをしていた。


 そして僕は未だ勇者である。


 そんな僕の目的。それは魔王を倒して勇者業を引退すること。


 そして、冒険者として背中を預けることが出来る親友(男)を見つけることだ。



「「「「「勇者(様)、この中の誰と一緒になるんですか!!」」」」」


 例の如く彼女達が振り向き、僕に迫ってくる。


 ねぇ、そこの血涙を流す程に羨ましそうに見つめる少年。


 僕の代わりに勇者になってくれないかなぁ。代わりに冒険者を引き継ぐからさ。


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★第04話 登場人物★


国王 …… 魔王が魔王をやることになった原因人物。後に人間界を平和に導いた偉人として聖人認定されるが、当人は何時でも猪突猛進。


宰相 …… 国の催事を取り仕切る苦労人。国王の事は憎もうにも成すこと全てが成功している為、小言しか言えないのが悩みどころ。


大臣 …… 今回の出来事で胃に穴が開いて寝込んだ。


勇者 …… 冒険者を夢見る勇者様。背中を預けることが出来る親友(男)募集中。


聖女 …… 将来は王都の片隅で勇者と幸せに暮らすことを夢見ている。


武闘家 …… 将来は勇者と二人で未開の地を探求することを夢見ている。


騎士姫 …… 将来は勇者を娶り、侯爵家を公爵家にすることを夢見ている。


エルフの姫君 …… 将来はエルフ領土を勇者と共に拡大することを夢見ている。


魔法使い …… 将来は勇者と共に故郷の農村で幸せに暮らすことを夢見ている。



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