第02話 とある勇者の悩み事①
僕は勇者だ。
人々の希望となって魔王を打ち滅ぼす存在。
それが僕の役目。
勇者の名に相応しい様に誰にも負けない為にもたくさん努力もした。
剣の実力も魔法の実力も皆に認めてもらう為に血を吐く程に修行も頑張った。
そんな長い日々もついに終わりが見えようとしていたんだ。
――魔王城。
死の大地の先にある樹海を超えた先に聳え立つ禍々しい城。
その奥には僕達の世界を支配しようと企む魔王がいる。
僕の使命はその魔王と戦い、打ち滅ぼすことだ。
僕達はつい数時間前までその魔王城の中にいた。
そう、紛れもなく魔王城の中にいたんだ。
「勇者様、そろそろ元気出しませんか?」
「そ、そうだよ。皆無事だった訳だし。
これからまた皆で魔王城に乗り込めばいいんだよ!」
「うん、そうだね……」
仲間の聖女と武闘家が落ち込んでいる僕を励ましてくる。
顔を上げるとテーブルを囲む様に僕の仲間が座っていた。
聖女、武闘家、騎士姫、エルフの姫君、魔法使い。
その全員が誰もが振り向く程の美貌を持つ少女達だ。
僕と少女達を含めた6人は勇者一向と呼ばれ、人々の希望となっていた。
そう、僕達は希望なんだ。
それなのに僕は何故こんな場所で落ち込んでいるんだろう。
僕は勇者じゃなかった。
3年前のあの出来事があるまでは故郷の農村で冒険者になる夢を見ていた何処にでもいる一人の青年だった。
何を間違えたんだろうな。
あの時危ない魔物の集団が村の近くにいると言われた時に役に立つと意気込んでしまった時だろうか。
それとも、魔物の一匹に殺されそうになった時に手の甲にあった痣が光って力が湧いた時だろうか。
しかもその状況を王都から討伐に来ていた騎士団の隊長に見られてしまった時だろうか。
その後も気づけば王様から伝説の聖剣を渡されて、その痣は勇者の証だと言われたり、僕の下に仲間が集ったりした挙句、いつの間にか勇者一向として魔王討伐に明け暮れる日々だったから深く考えもしなかった。
本当に何で僕なんかが勇者なんだろう。
確かに僕はこれでも剣の実力も世界有数の強さを持つ騎士姫と渡り合えるし、魔法の腕も世界最高峰の強さを持つ幼馴染の魔法使いと同じぐらい扱うことが出来る。
きっと誰もが僕に弱点なんてなく、魔王を苦もなく倒してくれると思っているはずだ。
けど、そんな僕にも一つだけ誰にも言えない弱点というものがあった。
「勇者よ。君の聖剣だけは無事だったんだ。
私達の武器も防具も無くなってしまったが、お金は預けていたからすぐに買い直せば問題ないであろう?
だから落ち込むな。君は私達の希望なんだ。だからこそ私は何時でも君の剣となり君を守ると誓うよ」
普段は煌びやかな鎧に身を包んでいた騎士姫も今は薄布一枚しか着込んでいなかった。
だから、ものすごく目のやり場に困る状況になっている。
今までは胸板で隠れていて気づくことのなかった豊満な乳房が騎士姫の動きに合わせて揺れ続けていた。
「何が君の剣となるですか。勇者を守るのは私の役目です。
勇者とは同郷でしかも幼馴染。更に小さい頃には将来一緒に暮らすと言う約束までした仲!
ね、こんな胸だけが大きい金髪お化けより私のこと頼ってくれていいんですよ?」
ちょ、幼馴染だからってあんまり近づいてこないでほしいな。
騎士姫を押しのけて僕に近づく幼馴染の魔法使いについ椅子ごと後ろに下がってしまった。
「な、胸だけが大きい金髪お化け……だと。それは言い過ぎではないだろうか!?
泣くぞ? 騎士と言えど泣くときは泣いてしまうぞ!?」
「うーん。残念だけどうちも同意見かな。うちも武闘家も魔法使いも胸に自信がない貧乳同盟と言っても過言がないことは事実だからね。
だから、君の偶に見る溢れんばかりの胸や聖女の大きくもなく小さくもなく、それでいて品のある胸にうちは本気で呪術を覚えようかと思ったぐらいさ」
「品のあるって……。こんな場所で言わないで下さい、は、恥ずかしいです」
「ちょっと誰が貧乳同盟になったのさ!ボクはまだ子供なんだから成長したら金髪お化けより大きくなるんだよ!」
あぁ、また始まった。
皆ここが何処かも気にせずに言い争いを始め出した。
さっきは魔王城の中。
そして、今は大衆酒場の中で。
僕のただ一つの苦手なこと。
それは女性が怖い事――所謂女性恐怖症という奴だった。
僕の性格は慎重派だ。
何をするにしても事前に考えた上で行動するようにしている。
あの時もそうだ。
様々な苦難を乗り越えてとうとう辿り着いた魔王城に僕達は興奮に駆られた。
けれど、ここは敵陣のど真ん中。
そのまま突き進もうと逸りたてる冒険家を抑えて背後から敵に襲われない為にも脇にある小部屋も全て調べてみることにしたんだ。
そして、幾ばくかもしない内に盛大に輝く
薄暗い通路を昼間の様に照らし続ける
けれど、こんな代物が魔物の一匹もいない片隅に置かれているはずがない。
きっと何か罠がある。僕は身構えたまま、仲間の皆に注意を促す予定だった。
けれど、そこで始まったのは、旅の中で幾度となく見た仲間達の言い争い。
――この剣は私の勇者に相応しい。
――ボクが一番に取って勇者に渡す。
――そんなことさせるものか。
――台座を魔法で壊してもいいですか。エトセトラ……
みんな僕の為に争ってくれていることは分かっている。
けれど僕に止める勇気はない。
いや、違うかな。最初はもちろん止めたよ。僕の為に争わないで! なんて何様だよと言いたい言葉も使ったこともある。
けれど、彼女達は色々な意味で強かった。
我が強いのも言うまでもなく、力も美しさも。誰もが彼女達は勇者の仲間に相応しいと言われる程に。
そんな彼女達をどうやって僕が止めればいいだろう。
普通に話すことはできる。けれど、誰も居ない場所で彼女達の誰かと一対一で話すことは出来ない。
長時間接触することなんてもっての他だ。
女は怖い。僕の父さんの言葉だ。
僕もそう思う。女は怖い。
もちろん女性恐怖症になった理由はある。
その大半の理由は僕の姉妹のせいなのだが、今更愚痴を言っても仕方がない。
目的の為には周りが見えなくなる彼女達に僕は成す術もなく立っているしかなかった。
話しかけたら最後。僕まで巻き込まれて多方向から触られ言い寄られる未来しか見えない。
けれど、この時ばかりは止めさせるべきだった。
「「「「「あ――」」」」」
気づいた時には彼女達5人全員が立っていた光る
その後は勇者一向と呼ぶには有り得ない光景が繰り広げられた。それ以前も勇者一向と呼べない愚行だけど、言ってたらキリがない。
僕が咄嗟に伸ばした手に5人全員が掴もうとするも、勇者の力をしても彼女達に負けてしまった。
いや、違うよ? 彼女達が重いとかそういう訳じゃない。
落ちる5人を引っ張り上げることなんて簡単に出来る訳がない事考える余裕もなかったんだよ。
そして、皆仲良く落とし穴に落ちてしまったという訳だ。
けれど、穴の底には危険と呼べる類はスライムだけだった。
針山や毒沼だったら即終わっていたけど、ただのスライムであれば例えば僕や武闘家が気の力を放出するだけで消滅する程のレベルだ。
なのに僕達は全滅してしまった。
それは何故か。
分かってほしい。何度でも言うが、僕は女性恐怖症だ。
そして、スライムという魔物は粘着性のある液状の魔物だ。
全身がぬるぬるに塗れた彼女等にもみくちゃにされる僕。
精神崩壊してもおかしくない状況だったよ。
今思い出すだけでも恐ろしい。ほら、鳥肌が今でも収まらないよ。
気づいた時には僕は毛布に包まれた状態で教会内にある神殿の一室で目覚めたという状況だった。
仲間である彼女達も同様に。
持ち物は手元の聖剣以外は全て無くなっていた。
スライムに溶かされたのか、魔物に持って行かれたのかは今となってはどうでもいいことだ。
そもそも、何故僕達は生きて戻ったんだろうか。
神官様に聞いても神の導きによるものとしか答えてくれなかった。
「はぁ、ミルクが美味しいな」
お酒は酔うのが怖いので僕はミルク派だ。これが本当に僕の気持ちを平穏に落ち着かせてくれる。
ミルクを飲みながら僕は薄着しか着ていないのに服を引っ張り合って、見えちゃいけない部分が見えそうになる彼女達を傍目に他人の振りを続ける。
周囲の酔い人達が彼女達を見て囃し立ててるけど、近づく人物がいないのは僕達が誰なのか知っているからだろうな。
僕は勇者だ。
人々の希望となって魔王を打ち滅ぼす存在。
だけどね。こんなハーレムは僕の望みじゃないんだ。
「「「「「勇者(様)、聞いてるんですか!!」」」」」
彼女達が振り向き、僕に近づいてくる。
僕より勇気があって、勇敢な人。
誰か勇者を変わってくれませんか。本当にお願いします。
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★第02話 登場人物★
勇者 …… 何でもできる万能ハーレム勇者。女性は苦手なのに女性しか近寄ってこない。
聖女 …… 教会から派遣された少女。料理が得意な朗らかな少女。品乳。ハーレム人員①
武闘家 …… ボクっ子。齢13歳。もちろんつるぺた。ハーレム人員②
騎士姫 …… とある侯爵家の令嬢であり騎士。くっころはない。巨乳金髪お化け。ハーレム人員③
エルフの姫君 …… もちろん弓が得意。エルフ族の王女。エルフなのにお肉食べます。貧乳。ハーレム人員④
魔法使い …… 勇者の幼馴染。小さい頃に結婚の約束有り(勇者はもちろんうる覚え)。貧乳。ちみっ子。ハーレム人員⑤
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