第4話

「いってて...クソッなんなんだあのガキは、」


薄汚れながらもどことなく上品さ漂う顔だち、重傷を負いながらも一片の油断もなく辺りを見回すその姿からは、一流の戦士の気概がある。


この男は、グリーンに最初に吹き飛ばされた男、名前を...ゼクロスと言う、元騎士である。しかし、信頼していた部下、上司にことごとく裏切られ、山賊にまで身を落としてしまっていた。王都には妻や子供がいるが、騎士を首になったことが原因で妻は子を連れて離婚も同然と実家に帰ってしまった。そこでこの男の心は荒み、現在のような山賊に身を落としていたのだった。


「取り敢えず、森を散策してた時に見つけたオンボロ小屋で休憩するか...夜道は危険だしな」


そう独り言を言いながら男は歩く。自分がやられた時、誰も助けには来てくれなかった。


ーー山賊は、良くも悪くも全てが自己責任だ、助けてくれる人もいない。冷たい職場だった。


今回雇われたのは、単に自分の腕を買われてのことだったが、あんなどこにでもいそうなガキにやられてる時点で、金はもらえねぇと思った方がいい。

剣が泣いてるな、こんな状態じゃあな


そう思い、ゼクロスは自分が近衛の時から使っている剣を握りしめる。


そんな時である。


どこからか

子供?の泣き声が聞こえる


なぜ?がついたかと言うと、それは子供の声にしてはそこそこ低い声だからだ。


しかも、その声は自分が見つけたオンボロ小屋の中からするではないか。


えっ...なんだよ、誰かいやがんのかよ。


まぁいい...


小屋の中を見た瞬間、ゼクロスは声にならない声をあげて思わず後ずさりした。


小屋の壊れた窓から様子を見ていると、


さっき自分をぶちのめした男が、女のような声を出して泣いているではないか。


これには男も仰天した。あれだけの実力者が


なんとも女々しい様、見ているこちらが気恥ずかしくなるほどの号泣っぷりである。


正直自分の目が信じられなかった。


一体何があったと言うのか、男の理解はまるで追いつかない


普通仇が目の前にいるのだ、襲いかかるのが山賊としては普通なのだが、元騎士であるゼクロスにそんなかんがえはない。


というよりかは、号泣している彼に不気味さしか感じなかった。


ゼクロスは、何も言えぬまま、彼に気づかれないように、そっとその場を去って行った。


...見なかったことにしよう


その後、その男はなんの偶然か、再就職の機会を得た。


自分の元騎士との噂が上手く役に立ったようだ。山賊としての仕事はほとんどしていなかった。


どちらかと言えば昔やっていた冒険者としての仕事をこなしていた期間の方が多く、今回山賊の仕事を引き受けたのも、単純に金が急に必要だったからである。


...やはり自分は騎士がいい、しかし、顔とか覚えられてないかな...大丈夫かな?


しかし迷っていても仕方がない、ゼクロスは、そっと、アルノ家の呼び鈴を鳴らした。

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