第26話 才女、合流する

 先生の提案した魔物の討伐隊は翌日までに用意された。

 勿論、当初の予定通りに招集を受け、ここ最近はほぼほぼ別行動だった私たちも久々に集結することになった。


「才華さんお久しぶり」


「久しぶり鎮。来斗はこないだ会ったばっかりね」


「え? そうなの?」


「こないだ自主訓練中に偶然な」


 二人も今日は戦闘モードだ。

 鎮は盾持ちだから軽装備で動きやすさを重視した感じ。来斗は両手剣使いだからか、防御も堅牢なガッシリとした感じの装備だ。

 そうね――さながら暗黒騎士みたいな?


「その装備重くないの?」


「最初は重かったが……まぁ、訓練と慣れでどうとでもなる――多分な」


 少し遠い目をしているのは並々ならぬ努力があったのでしょうね……

 この中では一応、最年長だし人一倍頑張っていたのかも知れない。


「ただ、お陰様で両手剣もとい大剣を片手で振り回せるくらいには筋力も付いた。

 お前らまとめて守れるくらいには強くなれてるといいんだが……」


「最年長だからって気負う必要はないのよ? 私たちは同じタイミングで召喚された運命共同体。

 そりゃあ、最年長である以上、多少は頑張ってもらわなきゃだけど、全部を背負う必要はない。

 皆で一つずつ乗り越えていきましょ?」


「先に一人で災害級の魔物を倒してるやつに言われると何とも言えないな……」


「そ、それはそれよ」


 あれは、私だって倒せると思ってなかったし……

 そもそも思いつきでやった魔法な訳だし、偶然倒してしまっただけであって、しかも魔導砲がなければ討伐は難しかったはずなのよね。

 噂って本当に尾ひれがつくわね。


「鎮は盾を持ってるから比較的動きやすそうな軽装備だけど、マントは邪魔にならない?」


「まぁ、多少邪魔にはなるかなぁ……。

 でも必要な装備なんだよね」


 確かによく見てみると精霊が群がっているようにも見える。

 魔法関連の能力が付与されているのかも知れない。


「霊刀ほどの力がある訳ではないんだけど、精霊たちが力を貸してくれる加護が付与されているんだって。

 来斗さんが物理攻撃を担当するからね。僕は魔法剣士と言ったところかな。

 今の僕たちが力を合わせれば、余程のものが出てこない限りは切れないものはないはずだよ」


「さぁ、どうだかな。俺は身体強化くらいしか魔法が使えないから本当に物理的なダメージしか与えられないし、鎮は鎮で魔法が得意だから物理的な威力は低いしな」


「合わせ技とかないの?

 来斗の剣を鎮の魔法で強化するみたいな」


「ハハハ……流石にそんな器用なことは今の僕には出来ないよ」


 まぁ、私も出来ないんだけどね。

 まだ音奏魔法も研究中だし、支援系の魔法も学んでないしね。


「ところで、今日は島根の奴も来るんだよな?」


「先生はそう言ってたわね。噂によればこの世界版の弓術・弓魔攻術とか言うのを習っているんだとか」


「才華さんはどこでそういう噂拾ってくるの?」


「拾ってきたのはアビスね。トト顧問も知らなかったみたいだから、本当に一部の人しか知らないような噂みたいだけど」


 アビスの名前を出した瞬間、一瞬だけど二人の表情が強張ったような?

 まぁ、目をつけられると色々と調べられる訳だし、警戒してしまうのも仕方ないのかも知れないわね。


「サイちゃーん!」


 噂をすれば、数日振りに恵子ちゃんがやってくる。

 勢いそのままに抱きつきタックルを繰り出してくる。

 ……痛い。

 何か力が強くなっているような気もする。

 痛そうな顔をする訳にもいかないから、自身に治癒魔法を施しつつ恵子ちゃんを抱きしめる。


「久しぶり恵子ちゃん。弓を習ってるって聞いたけど本当なの?」


「うん。師匠のところでみっちり習ってきたよ。

 身体強化もうまくなったから、そのままじゃ引けないような剛弓も引けるようになったし、矢への魔力付与もそこそこ出来るようになってきたんだ。

 まだ、属性魔法しか出来ないから、次は精霊魔法の付与に挑戦しないとって段階かなぁ」


「こりゃあ、俺たちもうかうかしてられないな」


「そうだね。僕も精霊魔法は使えるようになったけど、付与までは出来ないからなぁ……

 置いていかれないように頑張んないと」


 そうやって私たちがお互いの近況を報告しあっていた時だ。

 向こうから一人の女の子がやってくる。マイアちゃんだ。


「来ましたね泥棒猫」


「――泥棒猫? サイちゃん何か悪い事したの?」


「する訳ないじゃない。私がアビスにちょっかい掛けてると思って言ってるだけよ?」


「え? この子、アビスさんとも知り合いなの?」


 鎮も意外に思ったのか聞いてくる。

 まぁ、実妹らしいけど、性格も見た目も大して似てないものね。


「初めまして。私はカルディア王国の医師にして研究者、アビス・クレオスの妹、マイア・クレオスと申します。

 この工場のオーナーも勤めています。本日は宜しくおねがいします」


 私には一回も見せてくれていない丁寧さで三人に挨拶をするマイアちゃん。

 私だけ扱いが雑ね。

 ここらで一つ活躍して見せれば印象も変わるかしら?

 やりすぎない程度に頑張りましょうかね。


 † † †


 数刻すると中隊規模の討伐軍が編成された。

 討伐軍は私たち被召喚組と、恵子ちゃんがお世話になった弓道場の新人弓魔攻術士、軍の新米兵士たち、工場の腕っぷし自慢たちで構成されている。

 一個小隊のベテラン兵士たちも付き添いで付いて来てくれるそうだから、こないだ出たような災害級が出てこなければまず安心でしょうね。


「皆さん改めまして。この工場のオーナーを勤めていますマイア・クレオスです。

 先日、ウチの観測班がこの工場より北東の地に魔物の大群が迫っていることを察知しました。

 彼らは今もなお、ここへ向かって進行中です。

 皆さんには、この脅威への対処をお願いします」


「聞いての通りだ。我々はこれから幾つかの小隊に分かれて進軍、これを殲滅、あるいは撃退する。

 ある程度の位置は特定できているが、正確な位置は分からない。索敵を怠らず隅々まで見て逃さないようにするんだ」


 ベテラン兵の一人が指揮を取りグループ分けをしていく。

 先生の進言と指揮を取っているベテラン兵の計らいで、私たち被召喚組は一つに纏められた。

 それと、マイアちゃん率いる工場組の一部が加わった。


「精々、足手まといにならないでください――泥棒猫」


 泥棒猫って言いたいだけなんじゃないかしら?


「よろしくねマイアちゃん。それで、索敵はどうやってする?」


 一応、気を利かせてマイアちゃんに尋ねたつもりだったのだけど、返事は工場組の別の女性から返ってきた。


「私が風の精霊魔法である程度なら確認できます。正確な位置は目視で確認するしかないですね」


「それなら私の出番だね!」


 そう言って手を挙げたのは恵子ちゃんだ。

 弓術をやっていただけあって、目視には自信があるみたい。


「ただ、本当は高いところ見た方が見つけやすいんだよねぇ……

 飛行魔法みたいなものはないんでしょ?」


「飛行魔法……ですか? 聞いたことがありませんね。

 うちの工場で所持しているもので、風の精霊魔法で浮く飛行船ならありますが、今回の進軍には向かないでしょうね」


 この質問に答えたのはマイアちゃんだ。


「飛行船なんてあるの?」


「……」


「……」


 完全に無視ね。まぁ、いいけど。

 周りの工場組も何か苦笑いでごめんなさいってしてるし、取り敢えず今は置いておこう。

 面倒になったから指笛を吹く。

 いきなりどうしたと他の小隊も驚いてこっちを見ている。

 確かに何も言わずに指笛なんか吹いたら「なんだアイツ?」ってなるわよね……

 アビスの言う自重っていうのは、こういうところかも知れない。

 暫くすると羽音が聞こえてくる。


「あれは……」


 マイアちゃんが見つけたものに驚いている。

 来たのは天馬だった。

 天馬は地面に降り立つと真っ直ぐ私の方へ駆けて来る。

 頭を撫でてやると気持ちよさそうに鳴いた。


「高いところの方がいいんでしょう?

 恵子ちゃんは私と一緒に空路ね」


「やったー!」


 唖然とする一同をスルーして天馬に跨る。

 恵子ちゃんを持ち上げて前に乗せたら準備完了だ。


「どうしたの? 早く出発しましょう?」


 少し勝ち誇ったような顔をしている自覚はあったが、マイアちゃんを驚かすことが出来たのだからドヤ顔するなと言う方が無理がある。


「わ、分かりました。進軍を開始します」


 それを合図に天馬が地面を駆け、宙を足場に空へと翔ける。

 ダムの時と違い今回の討伐計画は数日に渡って遠征を行う。

 初の冒険とも言うべき集団行動。

 少しワクワクするのは不謹慎かしら?

 でも、不安で緊張して実力を発揮できないよりは全然いいでしょうね。

 ただ、危険がないことだけは切に願いながら、私たちは踏み入れたことのない森へと足を踏み入れていった。

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